第60話 朝の散歩
合宿7日目になって、死屍累々になるかと思われた合宿は、予想を超えてみんな頑張ってくれている。今日は朝練が無い日なので、優紀ちゃんや本城さん、久美ちゃんや真凡ちゃんはぐっすりと寝ている。
朝6時。昨日は朝練をしていた時間帯に起きていたのは智賀ちゃんと詩野ちゃんだった。2人とも、今日は休みだと言っているのに軽く走って素振りをしていたようだ。
「カノンさんが6時前まで寝ていることの方が意外でした。もっとストイックに、他の人が休んでいる時も練習しているイメージだったので」
「私だって機械じゃないんだから、休む時は休むよ。今の時点で、私も下半身はわりと辛いし。
まあ、みんなが起きて来るまで素振りでもしようか」
「はい!」
4日目は、まだ全員が5時過ぎぐらいに起きて朝練代わりにバットを振り込んでいた。7日目の今日は、智賀ちゃんと詩野ちゃんの他に奈織先輩と美織先輩だけだけど。それでもきついスケジュールの中、自主的に練習が出来るのは凄いことだと思う。
……未だに、鳥本姉妹の見分けが付かないのって失礼だよね。全く同じ背格好だし、同じ服を着ていたら正答率は7割ぐらいになってしまう。両親でも見分けられないと言っていたので、本人達は気にしてないようだけど。
「……重心がちょっとだけズレているから、そこで見分けられるよ」
「何で詩野ちゃんは、重心のズレとかわかっちゃうのかな?」
「打席に立ったバッターを見る時は、重心から見るからかな?」
唯一、詩野ちゃんだけは正答率が9割を超えているけど、それでも椅子に座っている時とかはどう呼ぼうか固まるとのこと。どちらも鳥本先輩ではあるのだから、いざという時は鳥本先輩と呼ぶことで回避は出来るけど、来年までには見分けたいなぁ。
合宿も後半に入って、速いバッティングマシンは優紀ちゃんが使っている。真凡ちゃんが打つのは、私の速球だ。何だかんだ言って、合宿前半で真凡ちゃんは1番速球を打ち込んだからか、速いストレートをミートすることに慣れたようだ。
私の速球を、右方向と左方向を狙って交互に打っていく真凡ちゃんは、さらに打撃がコンパクトになったかもしれない。芯で捉えているのに力負けして、ふらっと飛ぶ打球は上手く一二塁間や三遊間を抜く打球になっている。これは、秋季大会で期待が出来そうだ。
一方で智賀ちゃんは、今度は久美ちゃんの変化球を打っている。変化球を見続けたから、バットに当たる率は上がったし、ボールの見極め率も上昇している。ただ、奥手な性格が災いして難しい球を振らなくなってしまった。考えるようになったのは良いことなのだけど、好転するには時間がかかるかな。
各自、課題に取り組んで1日ずつ結果を求めた練習をして来たので、初日よりか確実に成長はしている。それを秋季大会で、可能な限り活かしたい。
「うりゃ!」
「……その当て方で内野の間を抜くような打球になるなら、かなり真芯に近い位置でゴロを打ってるね」
バスター気味の構えから、アッパースイングにしてゴロを打つ真凡ちゃんはスイングが異常になっている。それでも内野の守備の間を抜くような打球になっているので、自分のスイングというのを見つけたみたいだ。
一方で智賀ちゃんは、変化球に当てようとして若干スイングが迷走している。智賀ちゃんは初めの時に指導したスイングを一貫して続けていたけど、ここに来て当てようとするバッティングになってしまっているのは痛い。
真凡ちゃんの打撃投手を務めた後は、ひたすら智賀ちゃんの指導だ。変化球に当てにいこうとせず、呼び込むまで待つことを覚えさせておきたい。
「変化球だと判断したら右足に体重を残す。左足の前の方に体重をかけてブレーキしながら、変化後の球の位置をイメージしつつ、しっかりと腰を回す」
「こ、こう……ですか?」
「うーん、久美ちゃんに直球とドロップカーブをランダムに投げて貰うから、どっちが来ても打てるようにしようか」
久美ちゃんは久美ちゃんで、打者に向かって投げる数を増やしている。元々、実戦からは2年近く離れているはずだから、まだまだ完全に復活したとは言えない。元のポテンシャルが高いのだから、試合勘さえ戻ればもっと活躍できると思っている。
……でも秋季大会は、優紀ちゃんがエースかな。合宿中に、1番投手として成長したのは優紀ちゃんだと思う。変化球を、内外に投げ続けさせた成果はあった。若干、キレが増したように思える。
変化量は相変わらずだけど、前より打者寄りでスライダーもフォークもシュートも変化している。後は、チェンジアップの速度が一段と遅くなった。球速はまだ最速で115キロも出ていないけど、これなら試合を作れるピッチングが出来ると思う。
スタミナはある方だし、中継ぎに私と久美ちゃんを起用できるから、優紀ちゃんは連投になるけど大丈夫なはず。試合に出たいという欲はある方だし、その点もエース向きかな。球種は多いのだから、もっと地力が上がれば安定感も出て来る。合宿も終盤に差し掛かるし、慎重に、優紀ちゃんの良いところを伸ばそう。
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