自作品その他色々謎短編集

月影 弧夜見

「必殺技」〜『Wit:1/もしも願いが叶うなら』より〜

 ———それは、例の戦勝パーティにおいての出来事。


「……んなあ、ちょっといいか?」


 ざわめきが鳴り止まぬ中、白はその場にいる者らに向けて質問をする。


「お前らさ……必殺技って、どうやって名前決めてる?」


 ……白の質問に、皆は考え伏す。

 そう言えばどうやって決めていたっけ。そう言えば俺はこんなにカッコいい理由があって———などなど。


「まあ、言い出しっぺは俺だし、俺から言わせてもらうぞ」


「そう言えば、白ってば結構痛い言葉が好きだったりするわよね? 『突、爆牙———!!』とか、戦場じゃないところでアレを思い出すといつも笑いそうになるのよ、私」


「はぐ———?!」


 白が己の「必殺技」のカッコよさを自慢しようとしたその時、サナがそのカッコよさ諸共、白の心を折るように発言した。


 ……しかも、白の真似をしながらである。何と悪趣味な。この魔女は。


「他は……何だっけ……ああ、あれよあれ!

『アルビニア……グレイシャー!』……とか言ってたじゃない? アレも今思い出すと相当……」


「おおおいやめろやめろやめてくれ、俺に話させてくれよちくしょうっ!」


 白の(恥ずかしい)必殺技の名前が、サナによって次々とバラされてゆく。本人もこのような反応をしているのだ、いかにそれが痛いものであるか自覚もしているのだろう。


「で、あの……『アルニア……グレイシャー!』……だっけ? アレのさ……その、ってどう書くわけ?」


「ちっ……おい、ついに技名まで間違えやがって! アルニアだよア、ル、、ニ、アッ!! もう一度耳の穴かっぽじっとけ、今度はその耳元で叫んでやるからっ!」


「はいはい、まーもうどっちでもいいじゃない、必殺技の名前なんてそんなにこだわるもんじゃないわよ、アホらしい」


「なんとぉーー?!」


 意外と渾身の想いを込めて技の名前を考えている白が、サナの言葉に強く反応する。こういうところを『アホらしい』と言われたのではないだろうか。


「じゃあ何だ、お前の『グレイシアフリーズクリスタルッ!』は恥ずかしくないってのかよ、ええ?」


 今度は白が、サナの真似をしながら技の名前を叫んだ。だからそういうところが『アホら(ry


「恥ずかしくないわよ? だってアレ、凍結系魔法の最上級の言い方だもの」


「は———?!」


 そう、サナの使っていたその言葉は、凍結系最上級魔法発動の為の詠唱であった。


 魔術はその魔術名(と定義されているもの)を口に出すことによって、イメージの装填を速くする為に発動時に魔術名が叫ばれる。


 ———つまり、サナの使っていたこの言葉は、サナ一人が考えたカッコつけなどではなく。


 実に、ごく一般的に使われている言葉だったのだ———!!


「が……がく…………っ、負けた、負けたよ……クソ、お前にはこの良さが分からないのか、サナ……


 お前さ……あの……『メテオ・エクスプロージョン』を二人で放った時は、めちゃくちゃノリノリだったじゃねえかよ、なあ……」


「ええ、そういう時はもちろんノリノリよ?……でもねえ、白のは流石に…………痛いわ」


「がふぅ」


 見るも情け無い声を上げ、机に突っ伏す白。そんな白を見かねてか、


「……ならばいい。分からないやつには、分からないで構わない。


 だがしかし俺様にも、技に対するこだわりぐらいあるのだ、俺も言わせてもらおう」


 後に続くように発言したのは、白の兄のイデアだった。


「やはり俺の必殺技と言えば、幻想顕現魔術の極点———『多重幻覚境界面ホロウ・ミラーディメンション』だろうな。


 あの技は、一言で言うなら幻想顕現魔術の魔術領域版とも言えよう。魔術による『設定』が適応される世界を生み出す『魔術領域』において、俺の幻想顕現魔術は———」


 ……と長話を始めたイデアを横目に、サナが質問を始めてしまった。



「じゃあ、コックの……『天殺撃』、アレはどうなの?」


 サナが視線を向けた先にいたのは、四肢をもがれて壁に張り付けられた青髪の女性———コックであった。なぜ四肢をもいだのかは色々あるが、今この場においては関係のない話だ。


『天殺撃……ですか、アレの記憶は確か……ああ! 残っていましたよ!


 前マスターがですね、『天使の力で敵を殺す一撃、名付けて天殺撃さ!』と自慢げに仰っていた記憶がありますね!』


「はえ〜……安直ね〜」


 サナのリアクションに、コック含めた周り全員が『ひどい』と思った。……それを思うのなら、完全に無視されたイデアはどうなんだ。


「お……俺様は……サナに、無視を……」


 そんなことを言いながら、白と同じく机に突っ伏すイデア。そんなイデアに対し、横に座っていたセンは優しく背中をさすっていた。



 ———と。


「必殺技ぁ?……んなもんねぇ、わかりやすかったらなんでも……いいのよ〜〜っっ!!……ひっく」


 などと、ベロベロに酔った口調で叫んだのは、あろうことか近衛騎士団長、レイであった。


「じゃあ、貴女のはどんななの? そう言えばレイちゃんの必殺技、私は聞いたことなかったけど……」


 もはや話の主導権は、白ではなくサナに移り変わってしまった。相も変わらず白は撃沈中。かわいそうに。


「私ぃ? 私は〜ねぇ〜〜……あ、そうだ! 憑依召喚術式……ってやつよ〜え〜?!」


 憑依召喚術式……聞き慣れぬ言葉に、サナを含めた一同は顔をしかめる。


「それって、どんなやつなの?……ちょっとやってみせてよ」


 サナの無邪気な質問。しかしてそれに答えたのは。



「え〜今やるの〜〜??…………まあいっか、やろうかなぁ〜〜……




 心身侵食憑依召喚術式サモンコンセプチャー解放ブラスト


「「「「「?!」」」」」


 ベロベロに酔った、呂律の回らない声から、一気に様変わりしたレイの声。

 それにはもはや、皆も息を飲まずにはいられなかった。




「魔の道に堕ちし、暗黒の残滓。

 手に取る刃は、己が罪の体現。

 代償、それは決して軽くはなく。

 しかしてその刃は、眼前の悪を絶つ為に在り。






 故に汝、原罪に身を置き、黒と血に塗れた剣を握らん。


 ———侵食憑依術式、魔王軍幹部・黒騎士、顕現……ッ!




 ……ってヤツぅ?」



 あまりにもカッコよくそう言い切ってみせたレイに対して、立ち直った白は一縷の希望を見出していた。


「か、カッコいい……!!!!」


「でも長ったらしくて、魔法名詠唱の意味がなくなってない?


 だって魔法名詠唱って、魔法発動までの時短で使うものでしょ?」


「夢を壊さないでくれ、頼むから」


 白はそう、言い切った。

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