番外編 アカリの相談

 お盆休みが終わった頃、私は自分の店であるアカリエにゲルダさんを呼んだ。奥の工房まで入ってしまえば、基本的に誰にも声が聞こえないので、相談する場所としてはうってつけだった。一番自由に出入りするハクちゃんも、今は攻略に集中しているし。


「アカリが個人的に相談なんて珍しいわね? ハクの事で何かあったのかしら?」

「う~んと、まぁ、そんなところです」


 ゲルダさんは、いつも察しが良い。昔から私達の事を見ていたからなのかな。それが、結構嬉しい。多分、私が一人っ子だから余計にそう感じているのだと思う。


「ゲル……翼さんって、火蓮さんと付き合ってるんですよね?」


 話したい事が現実に関係している事を伝えるために、そっちの名前で呼ぶ。


「そうよ。光も白と付き合い始めた?」

「あっ、いや、その……」

「違うみたいね。それじゃあ、白に想いを告げるべきかってところかしら?」


 翼さんの確認に小さく頷く。すると、翼さんは、私の頭を優しく撫でてくれた。ゲームの中だけど、いつもの翼さんだと感じて安心する。


「そうねぇ……光は、白と付き合いたいって思っているの?」

「それは……多分?」

「自分の気持ち……いや、白の気持ちが気になっているのね。告白しても相手がOKをくれるかどうかなんて分からない。だから、告白する勇気が出ない。ましてや、相手が白だものね」


 白ちゃんが聞いていたら、『どういう意味ですか?』って言いそうだ。でも、私には翼さんが言っている事が分かる。白ちゃんは、本当に鈍いところがあるから。


「それが足を引っ張って、本当に付き合いたいと思っているのか分からなくなっているのね。もう真っ直ぐストレートに一直線で告白したら良いと思うわよ? 好きなのは本当でしょ?」

「はい」


 ここは迷いなんてない。私が持っているこの気持ちは、正真正銘本物だから。


「そういえば、ちゃんと聞いた事なかったわね。光は、何で白の事が好きなの?」

「可愛くて、優しくて、色々と話を聞いてくれて、私の趣味を理解してくれて、モデルになってくれて、可愛くて、一緒にいるとこう……安心出来て、楽しくて、自然と笑顔になれて、幸せな気分で、白ちゃんにも幸せになって貰いたくて、幸せにしてあげたくて、私の全部を捧げたくて、白ちゃんの全部を受け入れたくて、愛したくて、愛して欲しくて、ずっと触れていたくて、ずっと触れていて欲しくて……とにかく! 一緒にいたいって思えるような子だからです!」


 ちょっと支離滅裂気味になったけど、全部本心だ。思わず口に出たって感じだけど。さすがに、翼さんも面食らっていた。


「思ったよりも大きいわね。良いんじゃない。白も光の事は好きだろうし」

「そ、そう思いますか!?」

「好きじゃなかったら、あそこまで付き合わないと思うわよ? 光の趣味って、白に全振りだし」

「うっ……」


 翼さんの言う通り、私の趣味は白ちゃんに似合う服を作る事。自分が可愛いと思う服でも、着たいなと思う服でもなく、白ちゃんに似合う服というのが重要だ。基準が白ちゃんだから、サイズに関しても白ちゃんのサイズでしか作らない。ゲームだと、そこら辺割り切れるのだけど、現実では絶対にそう作ってしまう。いや、そう作りたいと思ってしまう。


「趣味と言えば、光が白に服を作り始めた時は、驚いたわね。小学校くらいの頃だったかしら?」

「テレビで服飾関係の番組を観て、作りたいなって思った時ですね。お母さんに相談して、白ちゃんがモデルになってくれるって言ってくれて……あの時は嬉しかったです」

「そういえば、モデルの話って、白から持ち出した事だったのよね。まぁ、そこは意外では無かったけど」

「そうなんですか?」

「そうよ。モデルになるって決まった後の事知らないでしょ? 『つばちゃん! つばちゃん! 光がお洋服作ってくれるの! 良いでしょ!? 良いでしょ!?』って可愛かったわよ」

「へぇ~」


 知らなかった事実に、自然と口角が上がるのが分かった。それに胸に熱いものが宿る感じもする。やっぱり、喜んでくれるのが一番嬉しいな。


「まぁ、とにかく、光が本当に白と添い遂げたいなら、想いは告げないとね。今すぐじゃなくても良いけどね。ただ、早くしないと、白が告白されるかもしれないわよ。あの子は可愛いから」

「うっ……」


 確かに、その可能性はある。早くしないと、誰かの彼女になるかもしれない。翼さんの言う通りだ。


「まぁ、白が告白されて受けるという事はないと思うけどね。あの子の興味って、そっちに向かないから。唯一、チャンスがあるとしたら、それこそ光だけよ。少なくとも、私はそう思うわ。頑張りなさい」


 翼さんはそう言って頭を撫でてくれる。翼さんがそう言ってくれると、本当にそう思えるから不思議。


「私、頑張ります!」

「その意気よ」


 翼さんに相談して正解だった。やっぱり告白に成功した人からの後押しは勇気が出る。でも、いつ告白すれば良いのだろう。


「翼さんは、どのタイミングで告白したんですか?」

「普通に家に居る時ね。その前から、伝えようと考えていたから、思い立ったから言ったってわけじゃないわね。でも、きっかけを考えなくて良いと思うわよ。イベントに合わせる必要もないわ。それこそ、ゲームの中でも良いと思うわよ」

「う~ん……難しいですね」

「そうね。そういうものよ。タイミングに拘ると尚更ね」

「ハクちゃんがギルドエリアにいるタイミングあるかなぁ……」

「攻略で帰ってこない感じかしら?」

「いえ、帰っては来るんですけど、夜遅くなんですよ。それまでは、ずっと探索しているので」

「まぁ、元気で良いわね。何かやらかさないか心配だけど」

「そうですね」


 それから、少しだけ翼さんと話してから解散した。本当に有意義な相談になった。

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