第3話 クラリッサの乳母
次の週にはクラリッサ嬢は読み終わった二冊の本と僕に貸してくれる一冊の本を持って遊びに来ました。僕たちはお菓子を食べながら彼女が持ち帰った僕のお気に入りの本のお話をします。
「騎士様が大きなクマと戦うシーンは本当にドキドキしましたわ」
「クラリッサ嬢はクマを知っているの?」
「いえ。このご本に出てきたときにお父様に聞きました。お父様は我が家の図書室から図鑑を持ってきてくださりそれを見せてくださいました。馬よりずっと大きくてびっくりしましたわ。それからまた読み進めたのでとてもドキドキしました」
「え? そこまでして読んでくれたの?」
僕はびっくりして声が大きくなってしまいました。僕の声に驚いたのかクラリッサ嬢が肩を揺らして俯きます。
『あ…。怖がらせちゃった…』
泣きたくなった僕も下を向いてしまいましたがクラリッサ嬢の言葉にガバリと頭を上げました。
「ボブバージル様が勧めてくださったご本でしたのできちんとわかるように読みたかったのです」
「あ…ありがとぅ」
「はいっ!」
クラリッサ嬢は怖がってうつむいたのではなく恥ずかしっがって俯いていたようでほっぺが髪の色よりもっとピンク色になっていてとっても可愛いい笑顔でした。
僕はほっぺが熱くなるのを感じました。
「あ! あとはどんなシーンがおもしろかった?」
僕は隠すように話を変えましたがクラッリサ嬢は嫌な顔をせずお話を続けてくれます。
クラリッサ嬢が僕の好きな本の感想を話してくれる時に手をすごく動かして感動を伝えてくれて同じところをドキドキワクワクしてくれてうれしくて僕のほっぺはちっとも熱さがなくなりませんでした。
その日は図書室で本を読むときにはお隣に座って読みました。僕はドキドキしながら時々隣をチラリと見ます。真剣な彼女の顔はとってもキレイです。僕はドキドキしていたせいで本はあまり読めませんでした。
クラリッサ嬢が貸してくれた本は猫が市井を冒険するお話でした。僕は市井には家族と食事に行ったことがあるだけなので知らない世界にドキドキしました。
「僕もクラリッサ嬢に感想を言いたいな」
僕はクラリッサ嬢の本を優しく撫でます。
そして、僕が五人目の女の子に会うことはありませんでした。
それから何度かクラリッサ嬢が遊びに来てくれました。お庭をお散歩したり地図を見てお話したりクラリッサ嬢との時間はどれも楽しいものでした。
数度目のクラリッサ嬢と会う約束の日は初めて僕と父上がクラリッサ嬢のお家へ遊びにいきました。クラリッサ嬢のお父上様は王城図書館の館長さんでとても頭のいい方です。クラリッサ嬢と我が家へ来てくれた時はいろいろなお話をしてくれます。父上や国王陛下もよく相談に行くのだと父上が言っていました。クラリッサ嬢はマクナイト伯爵家の一人娘だそうです。
マクナイト伯爵家の玄関で挨拶を終えるとクラリッサ嬢のお父上様と僕の父上は応接室へ行きました。
僕とクラリッサ嬢は温室に用意されていたテーブルに二人で向かい合わせで座ります。テーブルには色とりどりのお菓子が並んでいました。
「ボブバージル様は甘いお菓子よりパンのようなお菓子が好きですとお母様にお話しましたらナッツのスコーンを用意してくれましたの。こちらはとうもろこしのスコーンです。今日お母様は残念ですけどお茶会へ行っております。ボブバージル様にとても会いたがっていました」
「あの…。どうして僕が好きなものを知っているの?」
クラリッサ嬢はまるで真っ赤なバラのように顔を紅くして冷たいグラスを手に取りジュースを飲みます。その姿を隣に立つメイドが嬉しそうに見ています。僕はそのメイドを見てグリナを思い出しました。
『クラリッサ嬢の乳母さんかもしれないな』
慌てて飲んだのかクラリッサ嬢が少し咳き込みメイドが背を擦ります。
「クラリッサお嬢様はボブバージル様がどのお菓子に手を伸ばされていたのかご覧になっていたようです。奥様に今日のおもてなしのお菓子を相談なさっておいででした」
「ナルーティア! 内緒だって言ったでしょう!」
「はいはい。
ボブバージル様。聞かなかったことにしてくださいませ」
「ナルーティア!」
「わかりました」
僕がくすくすと笑って了承するとクラリッサ嬢がナルーティアに向けていた拗ねたような瞳をこちらに向けます。緑色がキラキラするくらいびっくりして見開いている姿がまた可愛らしくて僕はにっこりしてしまった自覚がありました。
僕はクラリッサ嬢がまた恥ずかしがる前に話を変えます。
「クラリッサ嬢に借りた本なのだけれどね……」
僕が感想を言うといつものように嬉しそうに聞いてくれてクラリッサ嬢の感想も教えてくれます。僕の本の感想も出し合いました。
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