第2話
顔を上げたシュケーナ公爵は神妙な顔持ちをしていた。
「ノイタール殿下。ティスナー君。ヨルスレード君。エリド君。
この老いぼれが罪を認めたのです……」
老いぼれというにはあまりに美オヤジだが、それよりもマリリアンヌを赦せというのかもしれないと壇上の四人の男達は身構える。
「同じようなことがあったら、みなさんも同じように認めてくださいね」
言われたことを瞬時に理解できなかった四人だが、公爵閣下に言われてノーとは言えない。訝しみながらも頷いた。
「ああ。よかった。
そうだ。君たちに渡したいものがあるのだが、そちらへ行っていいかね?」
公爵からのお詫びだと思った四人はヨダレを隠して頷く。ニヤケは隠されていない。
舞台前にセットされている階段へ足を踏み出す。二段上がったところで立ち止まった。
「イタタタ……」
公爵が膝を抑えた。美オヤジにそぐわぬ仕草にまわりは首を捻る。
「ティスナー君。手を貸してもらえるかね?」
公爵は一番体格のいいティスナー・イエット公爵令息に声をかけた。
「あ、わかりました」
ティスナーは赤い髪をかきながら近寄る。
「うわぁ!!!」
明らかにティスナーの手が届かない距離のある状態で、シュケーナ公爵は仰け反り階段から落ちた。たった二段。
下はダンスフロアーなのでいい音はした。
ティスナーの真っ赤な目が見開かれるが手を伸ばしたまま動けない。
「旦那様ァァァ!!!」
執事服を着た者が駆け寄って背中に手を当て症状を伺う。
「キャビ。大丈夫大丈夫。イタタタ」
執事のキャビに支えられながら起き上がったシュケーナ公爵は腰を擦った。
キャビに助けられながら階段を登るシュケーナ公爵。
ティスナーは恐ろしい者を見るかのように後退しシュケーナ公爵に場所を譲る。
「ヨルスレード君。これを見てくれ」
シュケーナ公爵は胸の内ポケットから金色の封書を出し、ヨルスレードと真っ向に向き合う。
ヨルスレード・ボイド公爵令息に受け取れというように突き出すとヨルスレードは漆黒の目を震えさせ恐る恐る受け取った。
「豪華な手紙だよねぇ。君は見たことあるかい?」
「は、はい。王家からの舞踏会の招待状ですね」
「せぇかーい!」
シュケーナ公爵はヨルスレードの紺色の髪をナデナデした。それにもビクリとする。
「さすが、公爵家のご子息殿だ。よく知っているね」
シュケーナ公爵はヨルスレードの頭にあったその左手を下げて封書を持つヨルスレードの右手をギュッと握った。
「あ、え?」
戸惑うヨルスレード。そして、褒めた笑顔のままのシュケーナ公爵は右手でヨルスレードが持つ場所とは対角に辺りを握り強く引いた。
『ビリビリビリ!!!』
「ああ!! 陛下からいただいた大切な封書がぁ!!!」
シュケーナ公爵が困惑の表情でわざとらしく叫ぶ。
ヨルスレードは慌てて手を離した。その頃にはすでにシュケーナ公爵の手はヨルスレードの右手にも封書にもなく、金色をキラキラさせながら封書は床に落ちていった。
ヨルスレードは急いで跪き封書を拾うも封書は無惨な姿だそれを両手に乗せて動けない。
「キャ、キャビ!!!」
「はい! 旦那様!」
「エリド君が私を軽蔑の眼差しで見てくる!」
エリド・キオタス侯爵令息はヘーゼル色の瞳の前でブンブンと手を振り必死に否定する。
「エリド君はドジな私のことが嫌いなんだ……」
エリドは長めのダークブラウンの髪を振り乱して首をブンブンと横に振る。
「だからああやって声もかけてこないし、怖い顔で睨みつけてくるんだぁ!!
影で私の悪口を言っているんだぁ。私はそのせいで社交界で虐められるんだぁ!
怖い怖いよ、キャビぃぃ」
シュケーナ公爵はキャビの背中に隠れた。
「そ、そんな……」
エリドの顔は真っ青だ。
ノイタールとヒリナーシェは何が起きているのか理解できずあ然としていた。
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