第3話


「「お前という奴は! なんてことをしてくれたんだ‼︎」」


バンッッッという音と共に怒鳴り声が部屋中に響き渡る。

昼から王城に呼び出されていた両家の当主は、一言一句同じ台詞を各自の屋敷で我が子に向けたのだ。

唯一違うところは、コウロベッガー侯爵家当主スコットはペインティングがまだ落ちていないエバンスの頬を拳骨グーで殴り飛ばし、サンドビエッター侯爵家当主リエンダは書斎の執務机に静かに置くべき書類ケースを叩きつけた。


「「あなた、一体何があったというのです」」

「「何が、だと!」」


夫妻の言葉も一字一句同じだったのはここまでだった。


「先週末の放課後にサンドビエッターのセリーナ嬢と学園の特殊教室で既成事実を作っていたんだ!」

「先週末の放課後に学園の特殊教室でコウロベッガーのエバンスと既成事実を作りおったんだ!」

「「そんな、まさか……」」


当主の言葉に両家の夫人は共に青ざめた。

青ざめたのは夫人だけではない。

当事者であるエバンスとセリーナも……エバンスはペインティングでわかりづらいが青ざめていた。



先週末に特殊教室で二人っきりになったのは間違いない。

しかし、それはセリーナがフェリアとエバンスが既成事実を作れるように演出しただけだ。

エバンスがセリーナに授けられた計画を実行する前に、フェリアにくっついていた召喚獣たちによって一瞬で床に叩きつけられたのだ。

エバンスは覚えていないだろう。

真っ白なリスが自身の右足に両手を添えると同時にバックドロップされたことを。


小さなリスだと侮ったことが裏目に出た。

召喚獣たちは重力を感じない。

3メートルもある大きな銀狼フェンリルが飛びかかろうと、ブルードラゴンに甘えるように乗り掛かられても。

その体躯からだがタンポポの綿毛並みに軽いのは有名な話だ。

召喚されるのは本体ではなく魂の一部のためだ。

それと同時に、召喚獣たちもことはあまり知られていない。

5トンはある大岩を前足一本で薙ぎ払い、連なる山の頂を打ち砕いて台地に作り替えたのは神話創世の伝説ではない。


エバンスが意識を失う前にフェリアがいった言葉を覚えているだろうか。

フェリアは誉めたのだ「まあ! 上手に頭の骨を砕かないで出来たのね! すごいわ」と。

たとえ覚えていても聞き間違い、もしくは夢だと思っただろう。


召喚獣たちはエバンスを全裸にしてボディーペインティングをしたかった。

ただ、フェリアの前で全裸にするのを躊躇われたため、フェイスペインティング(プラス首)で我慢したのだ。

その代わり、気付かれないよう手……魔力は加えてきた。

『向こう50年は色が落とせない』という楽しい遊びを。


無限を生きる召喚獣たちにとって50年という時間は、フェリアたち人間にとって3日程度と変わらない。

それをエバンスが知るのは50年後の未来だった。




閑話休題




『学園の特殊教室でエバンスとセリーナが婚前交渉いかがわしいことをしていた』


それは週末の二日間に開かれたお茶会で広まった。

抱き合ったりしていたという目撃者も、二日間で目撃情報が真実として広まってしまうほどいたのだ。


「さらに、お前は学園内で『それは事実だ』と言ったそうだな」


セリーナはその言葉に青ざめる。

自分はとして肯定したのだ。

しかし前日や当日にまで拡大された話はだった。

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