第二幕

第21話「霊皇ランク、登場!!」

第二十一話「霊皇ランク、登場」


前回の姉弟の怨霊との戦いは過酷を極めたが、なんとか撃退することができた。

その後は入院生活を経て、ようやく平穏を取り戻していた。

しかし、今宵の大東寺さんの呼び出しは、新たな試練の始まりを告げるものだった。


「すまんの〜、急に来てもらって」大東寺が三人に向かって言った。


「いえ、俺達もちょうど暇していたところ大丈夫です」 大東寺は深く息を吐き、言葉を続けた。


「健斗君達の上師への昇格が許可されたんじゃ」健斗達 一同、驚きの声を上げる。

上師とは、霊導師の中でも最高位の者だ。


「つまり俺達が霊導師の上師ランクになれるってことですか?」天馬が尋ねた。


「でも...なんでまた上師に昇格できるのですか?」春奈が疑問を投げかける。

大東寺は答えた。


「それはだな、君達が中師にも関わらずほとんど倒すことが不可能と言われておった魔災レベルの怨霊を倒すことができたからじゃ」

「でも、それは天師の方々のおかげです」天馬が謙遜する。


「確かにそうかもしれんな...だが、中師と上師の一番の違いは何かわかるか?」 三人は考え込んだ後、天馬が口を開く。


「霊力の強さですか?」

「いや...違うな...」大東寺さんが続ける。


「では、一体なんですか?」健斗が尋ねる。

大東寺が重みを込めて答えた。


「それは『霊とどう向き合っていくか』それが上師と中師の一番の違いじゃ」

「どう向き合っていくか...」天馬が呟く。

大東寺が説明を続ける。


「ああ...中師まではとにかく『悪い霊は倒せ!』という小学生でも分かるようなことを教えられる。

だが次の階級に昇格するには、これからそういう霊達とどう向き合っていくかが重要になって来る。」

そういう気持ちが健斗くん達にはそのわっていると思ってね。

三人は理解しかけていた。


「まあ、そんなに深く考えてもいい。

とにかく、上師ランクになるためには腕っぷしの技術だけでは無理だと言っているわけじゃ」

「はい」三人は頷いた。


「と、いうわけで健斗くん達には昇格試験を受けてもらうことになる」 健斗たち一同は、また目を見開いて驚く。


なぜ、健斗達が驚いているのかというとそもそも霊媒会には一般社会にある昇格試験が存在しないのだ。

普通は、大東寺さんのような上層部の人間が昇格を許可するとすぐに階級が上がる仕組みになっていた。


「いや〜、儂も報告したかったのだが...なにせすぐの出来事だったことだったので言う暇がなかった。

すまんの〜」

「いえ、それは構いませんが...なぜ突然そんなことが」健斗が驚きつつも尋ねる。


「それが、霊老憑議会の連中が勝手に決めたのじゃ」


霊老憑議会・・・帳などを含めた霊媒会をまとめあげるトップの組織だ。

彼らが今回の試験を課したのである。


「ああ……儂も反対したのじゃが、どうにもならなくてな。」

大東寺さんは頭をかきながら言う。


「それで、その試験の内容は?」春奈の瞳が大東寺さんの方へ注がれた。

しかし、大東寺さんは白い髭をなでながら、残念そうに首を横に振った。


「残念ながら、それは教えられない。

直前になるまでは内容を明かすわけにはいかないのだ。」


「そうですか…。」

春奈の肩が力なく垂れた。


「だが、そんなに落ち込むことはない。

昇格試験と言っても、それほど難しいものではあるまい。

心配するな。」

大東寺さんが優しく言葉を続けた。


「分かりました。

頑張ります!」春奈は希望の光を宿した瞳を上げた。

俺や健斗も頷いた。

すると、大東寺さんが思い出したように口を開いた。


「ああそうだ。

ひとつ伝言があった。

『健斗君たちに会いたい』と申す者がいてな。」


「俺達に?」一同が首を傾げた。


「ああ、しばし待っていてくれ。」

大東寺さんは席を立ち、部屋を出て行った。


「一体、誰なのかしら?」春奈が疑問を口にした。


「さあな。」

俺は答えた。


「だが、私たちに会いたがるなんて、かなり変わり種だろう。」

天馬も言う。


そして、しばらくすると手渡された紙切れを持って戻ってきた。


「ここに書いてある場所に来るよう言われた。」

大東寺さんが紙切れを差し出した。


紙には、町の中心街の裏路地にある古びた喫茶店の名前が記されていた。


「ここは『貴堂亭』という昔ながらの店じゃ。

わしも若かりし頃は時々出入りしておった。

60年は昔のことじゃが。」

大東寺さんが懐かしげに語り始めた。

すると、健斗たち一同が見交わし合った。


「60年前って…大東寺さん、いったいいくつなんです?」俺が口を開いた。


「年齢を聞くのは無作法じゃ。

極秘事項じゃよ。」

大東寺さんが白い歯を見せて微笑んだ。


「は、はい…。」

俺は頬を染めた。


「とにかく、そこに行けば会える。

わざわざ呼び出したそうじゃ。」

大東寺さんが言葉を継いだ。


「でも、なぜ私たちに?」健斗が不思議そうに尋ねた。


「さあ、それがわからんのじゃ。

会ってみればわかるさ。」

大東寺さんは謎めいた微笑みを浮かべた。


「ちなみにその人って、いったい誰なのですか?」春奈が更に質問を重ねた。


「それも会えばわかる話じゃ。」

大東寺さんが言い切った。


「さあ、急ぐがいい。」

一行は頷き、大東寺邸を後にした。


「一体、誰なんだろうな?」道すがら、天馬が呟いた。


「さあね。」

春奈が答えた。


「でも、会えばわかるわ。」


「ああ、そうだな。」


数十分後、彼らは年季の入った佇まいの喫茶店、貴堂亭の前に立っていた。


「ここか…。」

健斗が呟くと、春奈が続けた。


「なんか年季が入ってるわね。」

確かに建物からは時の重みが滲み出ていた。

しかし、それでいて佇まいは品があった。


「まあ、とにかく入るか。」

一行は扉を押して店内に足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ〜!」元気な女性の声が迎えた。

エプロン姿の女性が笑顔で近づいてきた。


「え?」一同が戸惑う中、女性が口を開いた。


「あら、もしかしてあなた方が霊媒師の御一行様?」

「は、はい。

そうですけど…。」

健斗が答えると、女性は奥を指し示した。


「あちらにお客様がお待ちです。

どうぞこちらへ。」


一行は女性に案内されるまま奥へと進んだ。

そこには4脚の椅子が並べられ、1人の男性が座っていた。

白いコートに金髪、首に巻いた金色のマフラーが目を引く。


男性はコーヒーを啜りながら、やがて一行に気づき、ゆっくりとカップを置いた。


「来てくれたか。

君達が健斗君達だね。」

落ち着いた口調で男性は語りかけた。


「は、はい。」

一同が戸惑いながら答える。


「あの、どちら様でしょうか?」春奈が口を開いた。


「ああ、失礼した。

私は『八重桜・幸次』。

君達と同じ霊媒師だ。」

男性は慌てた様子で答えた。


(八重桜?どこかで聞いたことがあるような…)春奈は思わず内心で呟いた。


「あの、どうして私たちに会いたがったんですか?」健斗が質問を重ねた。


「あれ?大東寺さんから聞いていないのかな?」八重桜さんが不思議そうに言った。


「私が君達の修行のサポートをするんだよ。」


「え!?」驚きの声が上がった。


「どうやら聞いていないようだね。」

八重桜さんが穏やかに続けた。


「あの人、たまに忘れることがあるからな。

まあいい、説明するから席に着いてくれ。」


一行は言われるまま椅子に着いた。

八重桜さんが口を開いた。


「では、君達の試験について説明しよう。」


「あの、その前に。

なぜ私たちの名前をご存じなんですか?」春奈が遮った。


「ああ、それは君達が中師のランクでありながら魔災レベルの除霊に成功したという噂を耳にしたからだよ。

本当にすごいんだね、君達は。」

八重桜さんは優しい眼差しで答えた。


「いやいや、それほどでも…。」

健斗と天馬が照れくさそうに言った。


八重桜さんの口元に微笑が浮かんだ。

すると、春奈がわざとらしく咳払いをした。


「オホン!」 部屋の空気が静まり返る。

春奈が口を開いた。


「それより、修行というのは一体…?」 八重桜さんは慌てた様子で言った。


「そうだったね、ごめんごめん。」

そして、彼もわざとらしく咳払いをして話し始めた。


「実は、霊老憑議会の方々が試験に追加したことなんだけど、試験では霊媒師同士の戦いがあるらしいの。」


「え!?」驚きの声が上がった。

八重桜さんは人差し指を口に当て、「しー!」と制した。


「ごめんね、このことは本来内緒なの。

大東寺さんにも聞かれたかもしれないけど、直前にならないと教えられないことになっているの。」

春奈が問う。


「では、なぜですか?」 八重桜さんは答えた。


「それは、この昇格試験を受けられるのが君達以外にもたくさんいるからなの。

実力の方が、はっきり言って君達より上なの。

君達の力は未知数だけど、それは不思議な形で発動しているみたい。

でも、普段の生活から見ると…」 彼女は俺と天馬を交互に見た。


「春奈君はともかく、君達二人は…実力が中師の下か下師のちょっと上くらいなんだ。」

俺と天馬が頷くと、八重桜さんは続けた。


「だから、実力のある者に勝つには、今の力以上のものを引き出さなきゃいけない。

そのため私がサポート役として呼ばれたのはそのためなんだ。」


「なるほど…」俺の沈んだ声に、八重桜さんは優しく言った。


「そんなに悲しまなくていいよ。

私がビシバシ鍛え上げてあげるから。」


「分かりました。」

俺達が答えると、八重桜さんは微笑んだ。


「しっかり頑張ろうな。」

春奈が尋ねた。


「あの、その昇格試験はいつ行われるんですか?」

「一か月後だよ。」

俺達は顔を見合わせた。

八重桜さんが言う。


「でも大丈夫。

修行には、私や他のサポート役がたくさんついてくれるから。

安心して。」

その時、八重桜さんの内ポケットのスマホが鳴った。


「あ、ちょっと席を外すね。」

彼女は店の裏へ向かった。

天馬が呟く。


「なんか…すごい人だったな。」

春奈は頷いた。


「そうね。

でも、悪い人ではなさそうね。」

俺は心の中で呟いた。


(一か月後か...) すると、すぐに八重桜さんが急いだ様子で戻ってきた。


「ごめん、急ぎの用事ができてしまった。」

八重桜さんが言った。


「私はこれで失礼するよ。

明日の朝ごろに迎えに来るから。」

そして、彼が立ち去ろうとすると、天馬が呼び止めた。


「ちょっと待ってください。」


「あの、すみませんが、こんな状況で聞くのもなんですが…。

霊媒師の階級を教えていただけませんか?」 八重桜さんは気づいたように言った。


「あぁ、忘れていたよ。

確かに、霊媒師同士の会話には階級を言い合うのが主流だったんだ。」

八重桜さんは息を整え、静かに告げた。


「私の階級は、霊皇ランク。

よろしくね。」

そして慌ただしく店を後にした。


「え...」 俺達は信じられない様子で固まっていた。


「霊皇ランク...まさか、あの人が霊媒師のトップだなんて。」

俺は驚きに打ちのめされた。

天馬も同意した。


「ああ、ほんとにだ。」

突然、春奈が思い出したように口を開いた。


「八重桜、どこかで聞いたことがある苗字だなと思った。

金猷山さんによく聞かされた、霊媒師のトップを走る男のことだわ。」

健斗が答えた。


「ということは、やはりあの人が…」

「ええ、霊媒師のトップなのよ。」

春奈も驚きを隠せなかった。

俺は天馬達と別れ、貴堂亭を後にした。

そして、近くの公園に来て、しばらくブランコに腰掛けながら考え事に耽っていた。


(まさか、あの八重桜さんがトップだったとは...) 後ろから声がした。


「お、健斗じゃないか。」

振り返ると、天峰さんの姿があった。


「あ、天峰さん。」

天峰さんはこちらに歩み寄り、俺の側に立った。


「なぜここに?」

「いやぁ、たまたま近くの『貴堂亭』って喫茶店に向かおうとしていたら、お前がいたからね。」

彼は明るく答えた。


「そうですか。」

俺は不思議に思っていたことを尋ねた。


「天峰さん、前から少し聞きたいことがあるんですけど…」

「ん?なんだ?」天峰さんは笑顔で促した。


「天峰さんは長年霊媒師をやっていて優秀な功績を多く残していますが、そういうあなたでも挫折などそういう経験したことはありますか?」 すると、天峰さんは少し考えてから答えた。


「挫折したことか…まぁ、あるよ。

実はね。

私は昔、霊媒師としては弱かった。

だからたった一体の怨霊の除霊にも苦戦していたんだ。」


「そうだったんですか?」

「ああ...でもな、そんな時にある人が言ってくれたんだ。

『人生には幸も不幸もある。

幸があれば必ず不幸が存在する。

お前は今は不幸の連続かもしれないが、いつかその結果が報われる時が来る。

それまで頑張るんだ』ってな。」


「へえ。」

俺は感心して頷いた。

天峰さんは続けた。


「まぁ、その人に教えられたから今の私があるんだ。

だから私はその人に感謝しているし、尊敬もしているんだよ。

だから、これからいくら挫折しても、この先に待っている幸せを掴むために私は諦めず頑張るんだ。」

そして天峰さんは俺の肩をポンと叩き、公園を後にした。


「幸せか...」俺は今後のことを考えた。


「昇格試験で、今の俺達より実力のある相手と戦うのか。

本当に修行だけで強くなれるのか…」 俺は拳を固め、決意したように立ち上がった。


「くよくよ考えても仕方がない。

あの人たちも努力を重ねてそこまで来たんだ。

俺も頑張らないと。

この先の幸せを掴むために。」

そして俺は家路を歩き始めた。


しかし、これから健斗達を、想像もつかないような厳しい修行が待ち受けていることを彼はまだ知らない。


・・・つづく・・・


今回のイラストは霊媒師の最上位のランク霊皇の『八重桜さん』です。

https://kakuyomu.jp/users/zyoka/news/16818093078596946557

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