ちゅーへん🐾

「はぁ、はぁ……何とか逃げきれたね」

「安心するのはまだ早いよ。いつまた襲ってくるか分からないからね」

「ええ、じゃあどうするの!? 逃げてばっかりじゃ、いつかはやられちゃうよ!」

「方法は無いわけじゃないけど……ねえコネ子、君はもしあのニャミ墜ちした化け猫と戦う力が手に入るとしたら、どうする?」


 え、戦うって、あの大きな化け猫と?


「君を襲った化け猫を、返り討ちにできるくらいの大きな力。それがあれば、アイツをボッコボコにできるんだけど、欲しい?」


 ミーは効いてきたけど、うーん、どうだろう。

 このままやられるのは、もちろん嫌だけど……。


「あの化け猫も、元は普通の猫ちゃんだったんだよね。なのにいじめるなんて嫌。そんなの可哀想だよ!」


 今は狂暴な化け猫になっちゃってるけど、猫好きとして傷つけたくない。それが私の、正直な気持ち。

 だけどそれを聞いたミーは、何故かニッコリ笑った。


「……うん、合格。もしここで容赦なくやっつけようとしたら、力を与えられなかったよ」

「ふえ、合格って……ひょっとして、私に戦えってこと? でも、今の話聞いてた? 私、猫ちゃんをやっつけるなんて……」

「安心して。戦うと言っても、傷つけるわけじゃない。闇を浄化して、大人しくさせるんだ。それならいいでしょ」

「本当? そんな事ができるならいいけど、でもどうやって?」

「答えは簡単。魔法猫少女に変身するんだよ」


 へ? 魔法猫少女って?


 またも聞きなれない言葉に困惑する。

 だけどそんな私に、ミーは前足を差し出してきた。


「さあ、ボクの肉球に手を合わせるんだ。そしたら契約が結ばれて、変身できる」

「ええと、でも私まだやるとは……」

「早く! あの化け猫を放っておいていいの? 君を見失って、今頃どこかで暴れてるかもしれないよ!」


 げ、それはヤダ。


 言われた通りミーの肉球に手を触れると……あ、ぷにぷにしてて気持ちいい。


「じゃあ行くよ。ボクの後に続けて……ニャンダフルチェンジ!」

「ニャ、ニャンダフルチェンジ?」


 復唱した瞬間、私の体がピカーっと光った。

 うわ~、何なのこれ~!?


 すると着ていた中学校の制服が、形を変えていく。

 まるでアニメの魔法少女みたい。


 そうしているうちに光が収まっていって。

 自分の姿を見ると着ていたのはフリルのついた可愛い、本当に魔法使いみたいな白い衣装。

 ふんわりとしたスカートに、胸元のピンクのリボンがとってもキュート。

 しかも頭には、猫の耳まで生えてるよ。

 私、本当に変身しちゃったんだ。


「よし、変身成功だね」

「うん……って、ミー!?」


 思わず声を上げる。

 だってミーだと思って返事をしたのに、目の前にいたのは黒いローブを身にまとった、魔女のような姿の女の子だったんだもの。

 そしてその頭には私と同じ、猫の耳が生えている。

 けど、ひょっとしてこの子って……。


「アナタ、ひょっとしてミーなの!?」

「他に誰がいるっての? 契約を結んだから、ボクも変身できたんだよ」

「ミーって、女の子だったんだ……あいた!」

「こら、こんな美人を捕まえて、失礼なこと言わない」


 頭を叩かれちゃった。

 だって自分のこと、ボクって呼んでたんだもの。勘違いもするよ。


 それと、もう一つ気になることが。


「そういえばさ。契約したらミーも変身するんだね。こういう魔法少女ものって、普通変身するのは人間だけなんじゃないかなあ?」

「別にいいでしょ。一人で戦うよりも、二人の方が良いじゃない」


 まあそれもそうか。


「それと、この姿の時はボクの事は、黒ニャンって呼んでよ」

「え、黒ニャン?」

「正義のために戦う魔法猫少女、黒ニャン。それが変身後の名前だから。あと君は白ニャンね」


 黒ニャンと白ニャンかあ。可愛いけど、戦うからにはもうちょっと強そうな名前の方がいいんじゃないかな?

 例えば、ニャンブラックとニャンホワイトとか。


「さあ、お喋りはここまでだ。早くあの化け猫を止めに行こう」

「あ、そうだね」


 こうして私達は大通りの方に移動したんだけど、化け猫はすぐに見つかった。 

 だって化け猫、大暴れして町を破壊していたんだもの。


「酷い、鍋島の町がこんなに……」


 町のあちこちから煙が上がっていて、ビルは崩れ落ち、何千何万人もの人達が逃げ回……って、いやいや違う違う。さすがにそこまで大きな被害はないから!

 だいたい鍋島にそんな大きなビルは無いし、人だってたくさんはいないもの。


 あ、でも電柱。電柱はちゃんと、ポッキリ折れてるよ! 

 ちょっとした交通事故レベルの被害かな。

 まあそれでも、あの化け猫のせいで町に被害が出てるのは確かなんだけどね。


「でも良いのかなあ。フィクションとはいえ、実在する町を壊しちゃって?」

「大丈夫だよ。佐賀県を舞台としたゾンビの女の子をアイドルにするアニメだってあるくらいだし。佐賀の人はきっと、寛大な心で受け入れてくれるよ」


 そ、そうかなあ?

 ああ、そんな事を言ってる間にも、化け猫は道路に穴を空けて、お家を壊していってる。


 やっぱりちゃんと謝っておこう。

 佐賀県の人ごめんなさーい!

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