第28話

 水路で採れた魚を火に焚べ、焼けるのを今か今かと待つ間、ゼリウム女、ルビリスにヴェインが興味津々とばかりに身を乗り出し、根掘り葉掘り話を聞き出していた。


「本当!? 本当の本当に、ルビリスって“貪欲なる喝采”なの!?」

「ほっほっ、本当じゃ。儂はつまらん嘘なぞつかん」

「うわぁ、うわぁ……!」


 生きる伝説、とでも言うのか。数日前にガレリアが話していた能力者、その一人が“貪欲なる喝采”であるルビリスだ。こうして見ると、ゼリウムに似た幼い少女に見えるが、その実、性別や年齢といった概念をこいつはもっていない。

 ならなぜ俺が“ばーさん”と呼ぶのか。こいつと会った時から既に成長しておらず、話し方もばーさんのようだったからだ。


「ルビリス様は、なぜゼリウムのお姿になっておられたのかしら?」

「なっておるのではない。儂がゼリウムと同一化しておるのじゃ。同一化したその時から、儂は人間ではなくなったからのぅ。まぁ、それもあって日の下では生きづらいのじゃが」


 陽気にルビリスは笑ってみせるが、こいつの出生を知れば、そう笑えるものではないことくらいわかる。笑ってしまえるほど、ルビリスは長く生き過ぎてしまっているのだ。

 辺り一帯に焼き魚の香りが充満してきた頃、ルビリスが「ほれ、食え」と魚が刺さった串を差し出してきた。


「……」


 リーフィが渋い顔をするのも仕方がない。

 ここは首都の地下、その湿った水路だ。そこに泳ぐ魚なぞ、食えたものじゃあないだろう。普通なら。

 なかなか受け取らないリーフィに、ルビリスが「やはり嫌か」と苦笑いし串を引っ込める。俺はその手を引っ掴んで引き寄せると、頭から魚にかぶりついた。


「ディア坊……」

なまってねぇようで何より。ほれ、お前らも食え」


 俺が食ったことで決心がついたのか、ヴェイン、ガレリア、フェリカ、最後にリーフィの順で魚を食べていく。廃水で育ったとは思えないその旨さに、リーフィの顔が一瞬で輝きを取り戻した。


「……おかわり」

「ボクもおかわり、欲しいです!」


 さっきとは打って変わって魚を強請りだす二人。ルビリスは「そうじゃろ、そうじゃろ」と次の魚に串を刺していく。


「ルビリスの能力って、一体なんなの?」

「おいヴェイン、一応このばーさんは年上でだな」

「ほっほっ、構わんよ。そうじゃな、儂は循環、浄化系の能力に近いかのぅ。ここを流れる水は、このまま飲むことも出来るぞぃ」

「へぇ、すごいんだね!」


 意味がわかっているのかわかっていないのか。俺は「なぁ」と新しく魚を焼き出すルビリスの手元を見つめた。


「ばーさん、何があった」

「……うむ」


 魚を焚べ、焼き上がるのを待つ間、ルビリスは「覚えておるか」と話を切り出す。それに対して返事はしなかったが、ルビリスにはそれでよかったらしい。


彼奴きゃつめ、儂が時間の流れに疎いことを利用して、いつの間にやら首都を我が物としておるではないか。儂がそれに気づいた時にぁ、儂の力ではどうにもならんかった……」


 そう語るルビリスの目には、先代領主の、穏やかな笑みが写るようだった。

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