第24話
“天降る国”の首都を訪れるのは、かれこれ十年ぶりになる。十年と一言で言うには短いが、子供一人が成長するには十分ともいえる月日が経っている。
そうして久方ぶりに訪れたその首都は、俺が知っているものとは、だいぶんかけ離れた姿へと変わっていた。
「許可がないヒトを通すわけにはいかんのだよ」
門番に至極当たり前のことを伝えられたヴェインは「え、駄目なの!?」と目を丸くした。
まぁ、ヴェインが驚くのも無理はない。“風舞う国”にも一応の門番は立っているが、それは魔物から民を守るためのもので、基本旅人や行商、どんなヒトであろうと、その門が閉ざされることはない。
この首都は、どうやら四方をぐるりと高い塀に覆われているらしく、各方角に門がある造りになっている。さらに塀を越えたとしても、それを囲うように深い堀があって、そう簡単に外へ出すつもりはなさそうだ。
「僕たち、王様に言われて来たんだよ?」
「王様?」
周囲を確認している間に、またヴェインが勝手なことをしていたようだ。
「おい、ヴェイン」
迂闊なことを口走る前に襟首を引っ掴んで下がらせた。
「うわ!? な、何するんだよ」
「いいから黙っとけ。いや何、なんでもない」
訝しむ門番に愛想笑いを返し「それより」とご立派な塀を仰ぎ見る。
「俺は各地を旅をしてるんだが、この塀、十年前にはなかったはずだ。一体こんなもん、いつ出来たってんだ」
「ん? あぁ、領主のアークベルト様だよ。といっても、前領主様が急死しちまって、その跡を継いだだけなんだがね。これはその後すぐぐらいかな、半年かからずに作っちまったのさ」
口の軽い門番で助かった。いや、恐らくこの門番に限らず、少なくない人数がアークベルトに忠誠なぞ誓っていないのだ。“風舞う国”と違って。
「ニイサンの言う通り、昔は許可がなくても入れたんだけどね。アークベルト様になってから、警戒心が強くなったというか、他国との交流もほとんどしなくなったというか」
「やはりそうか……。助かった、礼を言う」
「お? お、おぉ、まぁ気をつけてな」
気をつけろと言われたところで、最早この周囲には村も、簡易宿泊施設も、雨を凌げるような場所すらない。それをわかってて言っているのだ、あの門番は。
だがどうしようもないのだろう。フェアリー族に逆らおうなんて自殺行為、能力開花したヒトですら首を横に振るに違いない。
襟首を掴んだままずるずると塀から離れ、俺は「隠し通路を使う」とヴェインを離してやった。ヴェインが「え!? 隠し!?」と目をキラキラさせている。
「そんなものがあるんですか?」
「あぁ。表面を気にするアークベルトのことだ。この首都の歴史も、造りも、気にしたことなど何ひとつとしてないだろうからな。そこをつく」
「ふぅん、そのアークベルト様って余程つまらないヒトなのねぇ」
ガレリアにとっての“つまらない”基準がいまいちわからんが(わかりたくもないが)、確かに面白味に欠ける奴だったとは記録している。
「ねぇねぇ! その隠し通路って、どこにあるの!?」
ヴェインの年頃は、こういった秘密が好きな年頃だ。早く教えろと言わんばかりに、顔を右に左にと振っている。俺は黙って堀に沿うように歩いていき「ここだ」とある一点で立ち止まった。
「……ディアスさん、あの、ここ」
「泥水、汚い」
「あらあら、これは、ちょっと……」
「うわぁ! うわぁ……!」
堀が最終的に流れ着くであろうその場所は、生活水がこれでもかと流れ込む、一段と濁りの強い水溜まりだった。
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