第10話
まだ夜も明けきらない中、俺はリーフィの若草色の髪を頼りに歩んでいく。つか、あいつ俺が追えるようにギリギリ距離を保ってやがる。
それがさらに俺の苛立ちを刺激して、思わず舌打ちと共に足元の小石を蹴り飛ばした。寝ているゴロツキに当たり睨まれるが、こちらも負けじと睨み返せば、ゴロツキはすごすごとまた寝始めた。
「ったく、どこまで行きやがる……」
もうすぐ柵の外に出てしまうというところで、やっとリーフィが立ち止まる。ここからは建物の角になっており、リーフィが誰と話しているかまでは見えないが、聞こえてくる怒号にロクな相手ではないということだけはわかる。
「――を渡せば――」
「お願いし――を助けて――」
ロクな相手ではない上に、どうやら訳アリでもあるらしい。あそこにいるのがリーフィでなければ無視しているところだ。
にしても、何も聞こえてきやしない。これではリーフィの安否どころか、あの少女が何をしたいかすらも確認できやしない。
「クソが。面倒くせぇことにしやがって」
舌打ちをし、それから建物の周囲をぐるりと回れないか確認をする。ここら一体は全て繋がった造りになっており、切れ目から周るのではリーフィたちの姿が確認出来なくなってしまうだろう。
それはマズい。
仕方なく、今度は反対側に立ち並ぶ建物を見やる。そこらにある積み上げられた木箱を漁れば、紐が何本かと長い木の棒がいくつかあったため、それをいくつか拝借した。
「なんでオレが……」
これが身体強化系だったなら、こんな手間をかけることなく登れたというのに、と我ながら安易な考えが浮かんでため息が出た。
「っと……。四、五メートルってとこか」
木の棒に紐を巻きつけ、その棒を屋根のほうへ投げ引っ掛ける。何度か引っ張りいけそうなことを確認してから、俺は器用に両手両足を使い紐を登り始めた。
ギシッ、ギシッと嫌な軋みが鳴るが、大人一人分ならなんとか耐えてくれるだろう。むしろ耐えてくれなきゃ困る。
「うおっ!?」
真ん中辺りに差しかかった頃か、バキッと嫌な音が屋根から響き、そのまま一部が壊れて地面へと派手に落ちた。
朝方でよかった、と胸を撫で下ろす暇もなく、俺はよじ登るように屋根に上がると、先ほどの角が見える場所へと急いだ。
どこかの店の商人だろうか。「誰だ、悪戯したのは!」と騒ぎ立てる声が聞こえてくるが、知らん。たぶんどこぞのガキのせいだろう。
「父親がどうなってもいいのか!」
聞こえてきたダミ声に、俺は足音を忍ばせ近づき、目立たないように下を覗き見た。
三人の大柄な男。そして近くに倒れている、布製の少し薄汚れた服を着た男。大柄な男に頭を踏まれ、今にも頭が潰されてしまうのではないかと思うが、痩せたあの体では抵抗すらできやしないだろう。
「やめてください! ちゃ、ちゃんとエルフのヒトを連れてきました! だからお父さんを離してください!」
「エ、エルフの御方、娘を、娘を連れて逃げてください!」
「少しは黙ったらどうだ? 口を削ぎ落としてやろうか?」
どうやら父親を人質にとられ、娘はエルフを
だがあいつらはとんでもない勘違いをしている。エルフという種族は、そもそも他種族と関わることを極端に嫌う。というのも、やつらは自分たちの血肉が高級品なことをよくよく理解している。
それで争いが起こることも。
だからこそ、リーフィが俺たちについてきたことも驚いたが、あの少女に自分からついていったことが奇跡にも近い話なのだ。
といっても、連れてきたのがあのリーフィでは……。
「で、話、終わった?」
「いやまだ終わってねぇだろ! 見てわからねぇのか? ほら、ほらほら、父親が死んじまうぞ?」
頭を踏む足に力を入れる。痛みで叫び声があがり、聞いていられないとばかりに少女が耳を塞いだ。
「父親……? 人間、父親、違う」
「お前のじゃねぇ! その、そこの、子供の父親だよ!」
リーフィはいつもの無愛想な顔のまま、踏まれた父親と、そして傍らで震える少女を交互に見た。それから「ああ」と納得したように口を開き、
「なら、関係、ない」
「じゃなんで来たんだよ!?」
「来てって、言われた」
とあまりにも素直すぎる答えを返した。
エルフらしからぬ安易なそれと、
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