第56話  エドワード

 ◆ ◆ ◆ エドワード


 朝目覚めるとシャーリーとオズワルドと束の間の時間を過ごす。


「リオ、おはよう」

 ベッドの隣に寝ているシャーリーは眠たそうに目を擦りながらも俺を見るとふわっと笑った。

 最近のシャーリーは妻として母として落ち着き、我儘も言わなくなった。


 オズワルドへの愛情も惜しみなく与えてくれるようになった。


「リオ、オズワルドがわたしを見て抱っこを求めてくるのよ」

「わたしを見ると笑ってくれるの」

「あんなに可愛い息子をどうしてわたしは放っておけたのかしら?」


 自分がしてしまった行動をとても悔やんで今は失った時間を必死で取り戻そうとしている。


 それは俺に対しても同じで、


「今までごめんなさい。貴方が忙しくて寂しかったの。もう馬鹿なことはしないわ。貴方の妻としてオズワルドの母として頑張って行くつもりよ」


 その言葉通り、シャーリーは屋敷で女主人として母として必死で頑張っている。




「じゃあ仕事をしてくるよ」とシャーリーにキスを落とし、オズワルドを一度抱っこして

「オズワルド、いい子にしているんだぞ」と頭を撫でて執務室へと向かった。


 俺の幸せはここにあるんだ。


 ジミーの報告書には俺にはやはりラフェという妻がいることが書かれていた。


 ラフェは俺の4歳年下で幼馴染だったらしい。

 幼い頃からの婚約者で元伯爵令嬢。


 両親が亡くなり伯爵の地位を返上して兄と共に平民になり暮らしていたらしい。


 俺が行方不明になった時妊娠がわかりアルバードという息子を産んだらしい。


 オズワルドより二つ年上の息子。


 会ったこともない元妻と息子。


 さらに伯爵家次男だった父上。今は騎士爵を賜り貴族として暮らしているらしい。


 母上は男爵家の娘。


 妻だったラフェと同じ歳のアーバンと言う弟もいる。


 俺は王立騎士団の第一部隊の副隊長をしていて戦いの最中、子供を助けて川に落ちて行方不明になり、遺体が見つからないまま死亡したことになっている。


 俺は死んだことになっているのか。


 ならばそのまま死んだことになっていれば、今の生活が脅かされることはない。

 王都にさえ行かなければ俺を知るものはここではあまりいないだろう。


 俺が今大切なのはシャーリーとオズワルドとの生活だ。

 記憶にない会ったこともない二人のことは、気にはなるがそっとしておくつもりだ。


 ジミーにも誰にも言わないように口止め料はしっかり払っている。


 そう、俺は今の生活が大事なんだーーー何度も自分にそう言い聞かせた。


 記憶のない元妻に会っても愛情は湧かないはずだ。ならば息子だと聞いたアルバードには?


 わからない、自分でもどうしたらいいのかわからない。気にはなる、だが今の俺には家庭がある。


 知らなければそのままでよかった。知った今知らん顔ができるのか?


 そんなことを繰り返し考えている。


 シャーリー達と過ごしているとこの幸せを壊したくない。だけどふと記憶にはないもう一つの家族がいることを考えてしまう。


 どうすればいいのか悩んでいた。


 そしてもう一つの問題。


 サリナル商会の薬のことだ。


 俺が調べても証拠が出てこない。真実がなかなか掴めない。


 執務に追われ調べる時間が取れないため他の者に調べてもらっているが何かに阻まれているのではないかと思うくらい証拠もなく確証が掴めないでいた。

 自分で動こうとすると何故かたくさんの仕事が舞い込んでくる。その仕事に追われ身動きできなくなる。


 そんな時執務室に向かうと、辺境伯の騎士団長からの手紙が来ていた。

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