第19話  ラフェ

 ◇ ◇ ◇ ラフェ


 不思議なくらい体が軽くなった。


「あんたは今まで無理して働いて食事もまともに摂っていなかったから弱っていたんだよ、働きすぎ!」


 おばちゃんが「ほら、もっと食べなさい」とパン粥を作ってくれたり大好きな野菜スープを作ってくれた。


 この1週間、グレン様が毎日のように顔を出してアルバードと遊んでくれた。


 

 この1週間の間にグレン様がーー


「このボロ屋、嵐でも来たら一瞬で壊れて中にいる二人死ぬんじゃない?」

 と呆れていた。


「ま、部屋の中は掃除は綺麗にしてあるからいいけど、ほんっとボロ。何この床、ほら、ここ、穴空きそう!」


 そう言ってうちの家の中でぴょんぴょんと跳ねるから……アルバードも真似するようになった。


「ギュレンたのしい」


「アルバード、やめなさい!本当に穴が空いて怪我をするから」


 ーーほんと、グレン様いい人なのに碌なことアルバードに教えないのよね。


 そして案の定、床に穴が空いて「うわっ、すまない、アル、危険だこの家、ボロ過ぎる」


「ぼろすぎ?やったぁ!」

 穴が空いて喜ぶアルバードと頬をぽりぽりと掻きながら、「すまない」と謝るグレン様……



 グレン様は「ま、いいか、大工今日から来ることになってるんだ。二人は隣のおばちゃんの家にしばらく移動だ」 

 そう言うとわたし達はこの家を追い出された。


 そして我が家は綺麗にペンキで外壁は塗り直され、床も綺麗に張り替えられていた。


 壁もクロスが貼られてリフォームされていた。


「すっごい、きれい、ねっ?」


 アルバードは綺麗になった我が家を見て目をキラキラさせていた。


 またぴょんぴょんと跳ねたので

「跳ねるのは禁止よ!」


「はあい」とシュンとしていた。




 そして今日はアレックス様まで何故かやってきて

「この子がラフェの息子?ふうん、なかなか可愛らしいな」


「アル、かわい?やったぁ」アルバードが喜んでニコニコしていると


「アル、男はなかっこよくなくっちゃいけないんだぜ、グレン様のように」


「ギュレン、かっこいい?アルも、なる」


「おうっ、俺はかっこいいんだ、お前はまだまだだな」


「まだまだ、だ」


 そんな二人の会話をアレックス様は聞きながら大笑いをしていた。


「ラフェ、お前を襲った男達はしっかりこれから罰を与えることになる。ついでに街の警備隊の奴らを鍛え直すことにした。

 女一人襲われていて誰も助けに来ない警備隊なんてあってもなくても一緒だからな。

 これからは安心して街で買い物できるようになるからな」


「ありがとうございます。お二人にはいろいろしていただいて感謝しています、ただ……この家のリフォームなのですが、感謝はいていますが、床の修理ぐらいならありがたく受け入れられるのですが、ここまでしていただくのは流石に受け入れられません。

 なので一気には返せませんが少しずつ返済させてください」


「ラフェ、君は俺の友人の妹だろう?だからいいんだ」


「いくら貧しくても施しは受け入れられません。過分すぎる施しは惨めでしかありません」


「ほんっと人に甘えられないその性格、可愛くないな」グレン様が横で大きな溜息を吐いた。


 唇をギュッと噛んで泣きそうになった。


 だって、あまりにも優しくされたら一人で立って生きていけなくなる。甘えてこの優しい時間が当たり前になったら、現実に戻らないといけないのに辛くなるだけだもん。


「ギュレン、いじわる!おかあしゃんなかせるの、ダメ、きらい!」

 アルバードがグレン様の足元に駆け寄りぽこぽこ足を叩いた。


「おいチビ、痛いだろう?虐めてなんかいない。ただ、これだけの修理代払える金ないだろう?甘えればいいんだよ、勝手にこっちがついでにしたんだから」


「ラフェ、すまない。君の許可も得ず勝手にしたこと。

 してあげる方はいいことをしたつもりだがされた方は施しを受けた気持ちにしかならなかったんだな。考えなしだった。だがしてしまったものは変えられない。

 今回だけは受け入れてくれ」


 アレックス様の言葉に頷くしかなかった。


「せっかくしてくださったのに、嫌な気分にさせて申し訳ありません。本当に感謝しかありません」


 アレックス様の優しさに泣いたらいけないと思いながら涙が出てきた。


 この家に移り住んで、たくさんの優しさの中で暮らしてきた。

 周りにいい人たちがいたから、アルバードをなんとか育てられた。


「今日からまた働くことが出来そうです。グレン様もお忙しい中アルバードと遊んでくれてありがとうございました。またいつかお礼をさせてください」


「なあ、俺は仕事の合間にアルと遊んでただけだ。二人暮らしの家に俺が遊びに来ると近所から変に思われるから、俺は隣のおばちゃんちにきて遊んでたんだ。また暇なときはアルに会いに来るよ、な?アル?」


「うん、おばちゃん、ギュレンくるのたのしいって」


「そうだろう、おばちゃん達とお茶するの楽しいもんな」


 いつの間にかグレン様は近所のおばちゃん達と仲良くなっていた。だからわたしの家に来ても周りは変な目で見ていないようだ。


 隣のおばちゃんも「ラフェのお兄さんの知り合いにあんなすごい金持ちがいたんだね、あんたあんまり過去のこと言わないから私達も聞かないようにしていたんだけど、やっぱり訳ありだったんだね」

 と言われた。


 訳ありではあるけど、グレン様やアレックス様とは元々無縁です、と今更言えなくて笑って誤魔化すしかなかった。







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