第11話
◇ ◆ ◇ アーバン
ベルを送り届けてすぐに帰って来た。
ベルには泊まっていって欲しいと言われたが、最近はベルとそう言う関係になるのは避けていた。
ベルと別れられないでいるのにベルを抱くのはおかしい。自分の中でそれだけは守ろうと思っていた。ベルの優しさに漬け込むのも愛していないのに性の捌け口にするのも男として最低なことは出来ない。
同僚達には「女なんて適当に付き合ってなんとなく結婚したらいいんだよ」と軽く言われたが、俺はラフェへの気持ちを諦められない、だから適当な恋愛はもうしたくない。
ベルとはズルズルと付き合っているがなんとか上手く別れようと思っていた。
そしてベルに泊まるのを断ったら
「アーバンったら全く泊まらなくなったのはラフェさんの所為なの?彼女は貴方のお兄さんの奥さんだった人だよ?死んだばかりなのに今度は弟に靡くなんて尻軽だわ」
「ラフェの悪口はやめてくれ」
「今日もわたし達が来ているのに子供と二人で部屋に篭って出てこようともしなかったわ。あんな非常識な態度よく取れると思わないの?わたし達がデートの時間を割いて気を遣って会いに行ってあげていたのに失礼な態度ばかり。親がいないで育つとあんな非常識な子になるのね」
「いい加減にしろ!あいつは非常識なんかじゃない。いつも周りに気を遣って、遣いすぎて、我慢ばかりしているんだ!」
「酷い!わたしだってラフェさんの所為でアーバンと喧嘩ばかり。別れようなんて言い出したのもラフェさんの所為でしょう?だからアルバードくんにちょっと悪戯したら泣き出……あっ………」
「どう言うことだ?」
「何でもないの。ちょっと間違えて言っただけ……」
「説明しろ。次はこのまま警備隊に突き出す!」
「ちょっと見えない太もものところをつねって怪我させただけよ。まさかあんな大きな声で泣き叫ぶと思わなかったの。いつもは少し叩いても泣かなかったから、今回はもうちょっと強くしてみようかと思ったの」
「いつもは叩く?どう言うことだ?」
「だってエドワード様が亡くなってからアーバンの態度は変わったわ。全てラフェさんが悪いのよ!だからちょっとだけ意地悪をして憂さ晴らししていたの」
「……もしかしてベルが色々ラフェに言っていた言葉も意地悪だったのか?」
「ほんと、アーバンってバカね?隣にいて気づかなかったの?あー、楽しい!それだけでわたし気分がスッキリよ」
「ふざけるな!どう言うことだ!」
「あら?ちくちくと嫌味や意地悪な言葉を言ってもアーバンはどうして素直にベルの話を聞かないんだ!ってラフェさんに直接言ってたくせに!今更何よ!貴方だってわたしと同じくらい意地悪をしてたじゃない」
「俺が………」
守りたい、守るんだ、そう思っていたのに、俺は傷つけていたのか?
「ベル、子供を怪我させたことの罪は償うんだ。今から警備隊のところへ行こう」
「えっ?嫌よ。証拠なんてないもの。今言ったことは全て冗談よ、冗談!もうアーバンったら冗談もわからないの?さぁさっさと帰ってちょうだい」
ベルは慌てて俺を追い返した。
「待て、一緒に行くんだ!」
「冗談がわからない人となんて付き合えないわ。帰って!帰ってよ!」
ベルの家の前で呆然と立ち尽くした。
無理やり引きずって警備隊に突き出すことは出来る。だがまだアルバードの怪我を見ていない。俺は急いで家へ帰り離れに向かった。
だがラフェは玄関を開けて中に入れてくれることはなかった。
「ラフェ、すまない。ベルに聞いた。アルバードの怪我を見せてくれ!」
全く返事はなかった。
そして次の日にはラフェの姿は消えていた。
父上に仕事から帰って来て呼び出された。
「ラフェはこの屋敷から出ていった。もう二度とお前はラフェと関わるな!わかったな」
父上は少しだけ語気を強めただけで怒ることはなかった。
母上はラフェのこともアルバードのことも可愛がっていたので落ち込んで泣いていた。
俺は大切にしたい、守りたいと思っていたラフェを傷つけてこの屋敷から追い出してしまった。
父上に探すなと言われた。
後悔の中、街の人混みの中からいつもラフェの姿を探している。いつかまた会えるだろうか。その時謝っても遅いのだろう……だけど俺はやっぱりまだ諦めが悪いようだ。
◆ ◆ ◆ エドワード
村から逃げて来た。
迂回したおかげで追っ手は来なかった。
俺は王都を目指した。途中お金が無くなって数日間日雇いの仕事をした。
一日薪割りをしたり、馬の世話をしたり、村でいろんな手伝いをしたおかげでとりあえず何でもできるようになっていた。そのことには感謝するしかない。
仕事さえ選ばなければお金を稼ぐことはできた。そのお金で腹を満たし、寝床を借りる。
記憶は戻らないがとにかく急いで帰らないといけないと言う焦りがあった。王都を急ぎ目指した。
なのにあと数日で王都へ着くと言う時に俺は高熱で倒れた。
「リオ、おい、大丈夫か?」
金を稼ぐために伯爵家で護衛の仕事に就いていた。伯爵家の令嬢が王都に向かうための護衛騎士として俺も仕事に就くことができた。
それは俺が持っていた紋章とブローチのおかげだった。
俺は記憶はないが俺の実家のバイザー家は騎士爵を承っていて俺の父親はバイザー伯爵家の次男らしい。だから記憶はない俺を雇うことを快く了承してくれた。
なのに長旅の疲れからか高熱を出して寝込むことになった。
護衛をしていた令嬢であるシャーリー・コスナー様は俺の容態を気にかけてくれた。
「二、三日この町でゆっくりと過ごしましょう。その間リオをお医者様に診てもらってちょうだい」
そして熱が下がった三日目、目が覚めるとシャーリー様が椅子に座って本を読んでいた。
「あら?目が覚めたの?よかった」
優しい笑顔で俺の額に手を置き「熱が下がったわ」とホッとした顔をした。
「すみませんでした、ご迷惑をおかけしました」
「いいのよ、別に急いでいたわけではないし。みんなもこの町でゆっくり休めたから喜んでいたわ」
怒りもせずそう言われ恐縮してしまった。何度も詫びを言うと
「そんなに謝るんだったら王都に着いたらデートして欲しいわ」と言われた。
「デートですか?」
「そう、だってリオってカッコいいもの。わたしの理想の人なの。駄目かしら?」
こてんと首を横にする可愛らしい仕草に俺はふっと笑顔になった。
「わかりました、記憶がないので王都を案内することは出来ませんがおそばでお守りすることは出来ます」
「守るんじゃなくてデート!一緒に買い物をしたり美術館に行ったり植物園に行ったり、劇を見たり。本屋さんにも行きたいわ」
「一日で全て行くのは無理だと思います」
「一日で行くなんて言っていないわ。何日間かかけて行くのよ!その間はまだわたしの護衛として伯爵家で働いてね?」
18歳のシャーリー様はとても愛らしい。貴族なのに傲慢ではなく下の者に対しても気を配り話しかけてくれる。
そして俺は熱も下がり次の日には護衛として王都へ向かい、しばらく約束通り伯爵家で仕事をすることになった。
その間不思議なくらいシャーリー様と気が合い仲良く話すようになった。
そう、記憶がない俺はいつの間にかシャーリー様に恋愛感情を持つようになっていた。
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