Memento Furor -聖バシリオ精神病棟慰問日誌-

祇光瞭咲

第一部

前書き

ルカレッリ医師、並びにトマゾ修道士による前書き

■ ルカレッリ医師からペテロ修道士へ宛てた前書き


ペテロ修道士


 あなたがトマゾ修道士の跡を継ぎ、この役目を引き受けてくださったことに、まずは心からのお礼を申し上げます。患者の中には、祈りや告解に救いを見出し、つらい闘病生活の支えとしている者が多くいます。医師としては大変心苦しいことですが、医療だけでは力の及ばぬ分野というものが、精神の領域には確かに存在しているようなのです。


 さて、こちらに同封しているのは、あなたの前任者であられるトマゾ修道士が記した日誌です。患者を見舞いに我が病棟を訪れたあと、彼は必ずその日の詳細な記録をつけていました。

 ここにある記録はすべてではありません。膨大な量の日誌の中から、重要と思われたものを七件選びました。選定基準については後程ご説明いたします。まずは、これらのエピソードを時系列に沿ってお目通しいただきますよう。


 おそらくはこの中に、トマゾ修道士を、そしてその前任であられたタダイ修道士を襲った怪奇の原因が、隠されていると思うのです。


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■ トマゾ修道士による前書き


 この度、我が師タダイ修道士の跡を継いで、聖バシリオ精神病棟を慰問する役目を仰せつかった。

 そもそもこの病棟を我々修道士が見舞うのは、患者たちの心の安寧に少しでも貢献できれば、という修道院長の意向によるものであった。患者の中には信仰心篤い者が少なからずおり、その者たちに傾聴と祈りによる導きを与えることが、私に課せられた使命である。


 精神病患者と深く接する機会の無かった私にとって、彼らの言動は時に奇妙でこそあれ、噂に聞いていたような恐ろしさは、今のところ感じていない。むしろ、強い執着に囚われた彼らを憐れに思う。


 とは言え、先代をあのような状態にまで追い詰めたものが、この病棟にはあるのだ。私も先代に倣い、聖バシリオで見聞きした出来事を書き記しておこう。これが後に何かの役に立つことを願って――いや、この記録が必要とされる事態にならないことを祈って。

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