第6話

 四つ脚で街中を走り抜ける彼女の背中を追い掛ける。幽体化していれば人間には見えないらしく風が吹き抜けた程度にしか感じられにゃい。もしくは普通の猫が走り抜けたように見えているのかもしれにゃい。


「ねぇ、ボクはニャモ。君の名前は?」


 彼女の横に並びながら声を掛けた。彼女は横目でニャモを見ると笑った。


「私の場合には名前って言うより、区別名だけど『檸檬れもん』」

「名前とは違うの?檸檬」


 少し悩んだ結果、面倒くさそうに言葉を吐き出した。


「貴方みたいに呼ぶ為の名称では無いって感じかな?猫又は同種が多いから、区別用にめいがあるだけだよ。だから今は檸檬だけど明日からは黄色だったり最悪『お人好し』かもね」


 ふっと笑うと檸檬の足が加速した。そのまま無言で数分、駆けると神社の鳥居前で立ち止まった。


「さて、到着」


 静まり返った深夜の神社を前に軽く体を伸ばす。檸檬は、二本足で立つと周囲に人が居ない事を確認すると、うたい始めた。


――――かごーめ、かごめ

――――籠の中の鳥は いついつやる

――――夜明けの晩に 鶴と亀が滑った

――――後ろの正面だあれ?


 最後の言葉を発した瞬間、目の前の風景がヒラリと舞い、祭囃子が聞こえてきた。手招きする檸檬に誘われながら、祭りの中に足を運ぶ。


「な、なに。ここは、なんなんにゃ」


 誰も居なかった神社の参道の両端には露店が多く並び、多くので賑わう祭りが開催されていた。


 参道を歩くモノも露店の店主も、人外の姿をした者や半透明な存在が薄れたモノや真っ黒で覗き込んでも何も見えないモノで溢れかえっていた。


「あまりウロウロしてると、攫われちゃうよ」


 彼方此方あちこちを眺めながら、ふらふらと歩いていると、「早くおいで」とばかりに少し先を行った檸檬が声を上げた。


 少し駆け足で檸檬の横に付くと、檸檬が説明を始めた。


「ここはね。妖怪『隠れ婆』が作った妖怪の世界『奇界きかい』。見た目は人間世界と同じだけど、隠れ婆曰く、少しだけ空間的にズレた世界らしい。私には難しい事は分からないけど」


 檸檬は、何かを思い出すように眉間に皺を寄せた。


「隠れ婆は、人間を自分が創り出した世界に連れ去る妖怪――人間は神隠しなんて呼んでるみたいだけど」

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