第4話

 隠れ婆の説教が続く。説教というより、人間界で潜んで生活していた時間が長いニャモの認識違いを正す為。


――――化け猫は猫の変化へんげだ。

―――――猫又ねこまたは妖怪だ。


――――化け猫には親がいる。

―――――猫又ねこまたに親はいない。


――――化け猫は死ぬ。 

―――――猫又ねこまたは死なない。


――――化け猫は生物。

―――――猫又ねこまたは生物ではない


――――根本の存在、在り方が異なる。


 ニャモは5年前にまれた。ニャモは妖怪で生物じゃにゃいから親はいにゃい。隠れ婆曰く、妖怪は『概念』みたいなモノらしいけど、良く分からにゃい。


 ある日、意識がまれた。気付いたら、猫又として存在していた。目的もなく強い想いもなく、つむじ風が吹くように唐突にまれた。


 何も分からなにゃい時に、ニャモが街中を駆け抜けると人間は驚いたり、捕まえようと武器を手に取った。だから同じような姿の猫を見て真似た。


 その後、老夫婦の家でとして飼われていた。猫は『にゃお』と鳴くので真似をしていたら、『ニャモ』と名付けられた。ずっと続けていると普段の喋りにも癖がついた。


 実は人の言葉は理解出来るのに、普通の猫の言葉は理解出来にゃい。猫の言葉は理解出来にゃかったけど、命令に従わせたり、なんとなくの意思の疎通が出来た。老夫婦は、いつもニャモを可愛がってくれた。優しい言葉と愛情を込めて世話をしてくれた。


――――気配がした。妖怪特有の気配


 ある日の深夜、背中の毛を引っ張られるような感覚がした。同類が近くにいるんだと気付いた。神経を研ぎ澄まし、周囲の警戒を行う。視線だけが刺さるように感じる。隠す気のない攻撃的な視線。いつもなら視線を避けるように行動し、相手から気付かれにゃいように心掛けるのに。今回は、相手が先にコチラに気付いている。というより挑発に近い嫌な視線にゃ。


「こんばんわ」


 強烈な視線が消え、柔らかい女性の声が天井から聞こえた。天井をすり抜けて、淡い黄色く透き通った着物姿の猫又が降ってきた。


「ごめんね。同業かと勘違いしちゃった」

「同業?同類じゃにゃくて?」


 初めての同類にニャモは警戒が解けにゃいのに、女性は気安く顔を近付けて値踏みするように笑った。


まれたての所属無しかな?」

「もう5歳にゃ」


 少し警戒を解きながらも距離を取りつつ、逃げ道を探る。挙動不審のニャモの気配を感じつつ、彼女は両手を広げクルリと背を向けた。


「さてさて自分勝手な興味は置いておいて。まずは仕事を終わらせなきゃね」


 部屋の中でステップを踏むと、再び壁に吸い込まれるように消えた。気配は老夫婦の部屋へ向かっていた。老夫婦が危ういと感じ、身震いさせると幽体化させた半透明の身体を壁に押し込んだ。

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