第6話  ママの手は魔法の手(!?) 現代の鬼子母神

 その少年は不遇な国に産まれ、案の定不遇な暮らし向きをしていた。


 しかしひもじい思いはしていない。


 欲しい物は他の子供よりも容易く手に入ったのではあるからだ。


 その少年の母は魔法の手を持っていた。


 お金が欲しければ、食べ物が欲しければ、玩具が欲しければ、しばらく街を歩けば簡単に手に入った。


 少年はそれが母が、魔法の手を持っているからだとやがて理解した。人の財布をポケットやら鞄からスルリと抜き取り、札だけを引き抜きサラリと返す。


 スーパーやお店では誰にも気付かれる事なく万引きをしてしまう。


 不遇な国の不遇な家に暮らす、やがて崩壊する家庭のモデルケースである。


 しかし少年は母のお陰で悪いことなど一切手を付けずに成長した。しかし遂に少年が高校を卒業した頃、母が警察に捕まった。


 しかし充分に成長した少年は母の隠し財産を使い、この国の有名企業を興す事に成功する。


 その服飾メーカーの名は語られる事は無いが、そのCEOは胸を張って答える。


「母の手は魔法の手なんだよ。子供の為なら何でも出来ちゃう不思議な手なんだよ」


 今日も保釈させた母親と、貧しい母親達が出社する。


 母の手をもっと素晴らしい魔法の手にしたい。


 少年だったCEOの果てしない野望は潰える事は無いのである。

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