第12話 底辺配信者、師匠の話をする。

 俺は散らばった13個の魔石をバック積める。


「それにしても、この場所は最高だな。みんなに拡散しとくか」


 そう思い、俺は視聴者に向けて宣伝をする。


「みんなー!ここは『白い虎』を一歩も動かずに倒せるからオススメスポットだぞー!」


〈そもそも95階に行けねぇよww〉

〈誰か教えてやれよ!そのダンジョンで95階に行けるのはお前しかいないって!〉

〈聞いても信じてくれそうにねぇよww〉


「さて、他の冒険者が来る前に移動するか。フロアボスを倒す体力はあるが、カバンが一杯になってしまったから今日のところは帰ろうかな」


 そう思い、俺は視聴者に向けて話しかけようとすると、驚愕の数字を目にする。


「はぁ!?同接者1億1000万人!?」


〈ほう、やはり超えてきたか〉

〈世界中の人が視聴してるからな。すげぇよ、この配信〉

〈すごいペースで拡散されてたからな。さっきSNSを見たら『yu-ya』が最初に倒した白虎の動画、リツイート数が5000万超えてたぞ〉

〈30分程度で5000万リツイートww〉

〈拡散されすぎww〉


 俺は1億1000万という数字から目を逸らしつつ、視聴者に向けて話しかける。


「と、いうわけで今日は95階を探索しました。雑魚モンスター相手に配信することとなり申し訳ありませんが、これが俺の実力です。俺よりも強い冒険者はたくさんいますので、この虎よりも強いモンスターと戦ってる配信が見たい方は、俺の配信ではなく他の方の配信を見てください」


〈お前より強い配信者はいねぇ〉

〈そもそも白虎は雑魚モンスターじゃねぇww〉

〈今まで誰も倒したことのなかったS級モンスターだからww〉

〈今日も面白かったから次の配信も見るよー!〉


「皆さん、お世辞が上手いですね。そんなに褒めても配信のペースは上がったりしませんよ?」


〈お世辞じゃねぇよww〉

〈頼むから他の冒険者の実力を知ってくれ!〉

〈お前、他の冒険者見たことねぇだろ!?〉


「いやいや!俺だって他の冒険者を見たことあるぞ!」


〈〈〈〈え?〉〉〉〉


「驚きすぎな」


 まさかの反応に俺はツッコミを入れる。


〈お前は他の冒険者を見たことないから、自分が最強だってことを知らないのかと思ってた〉

〈〈〈〈うんうん〉〉〉〉


「はぁ。なにを勘違いしてるかは知らんが、俺にだって冒険者として生きていくための指導をしてくれた師匠がいるんだぞ?」


〈………え?師匠いんの?〉

〈おい、『yu-ya』に師匠がいるんだってよ〉

〈お前を指導した奴がいることに驚きを隠せない〉

〈『yu-ya』が師匠と言ってる存在だ。きっとソイツは白虎を吐息だけで殺してるぞ?〉

〈そんな奴いたら見てみたいわww〉

〈てか、どんな指導をすればこんな常識知らずの化け物が生まれるんだよww〉

〈ちなみに師匠って誰ですかー?〉


「あぁ。俺の師匠は『春野和歌奈はるのわかな』さんだ」


〈え、和歌奈さんが師匠なの!?〉

〈春野和歌奈ってA級モンスターならソロで倒せるくらい強かったぞ!?〉

〈どんな人ですかー?〉

〈春野和歌奈を知らない方へ。春野和歌奈はA級モンスターをソロで倒すことのできる数少ない冒険者の1人だったが、2年前のある日、「私は歳をとり過ぎたみたい。これからは若い子たちが冒険者として頑張れるようサポートさせてもらうよ」と言って冒険者を引退。現在は星野愛菜ちゃんたちが所属しているギルド『閃光』のギルドマスター〉

〈なお、歳をとり過ぎたと本人は言ってるが、その時はピチピチの23歳。めっちゃ可愛いかった〉

〈アイドル並みに可愛くてファンクラブまで存在していた〉


「説明ありがとう。その和歌奈さんから冒険者として生きていくと決めた次の日、指導という形で和歌奈さんとダンジョンに潜ったんだ。その時、『魔素』の使い方やダンジョン探索の極意を学んだ」


〈へー、贅沢な指導を受けたな〉

〈和歌奈さんの指導を受けて、この常識知らずの化け物が生まれたのか?〉

〈それ。和歌奈さんは『yu-ya』に何を教えたんだろ?〉


「俺は1階層のモンスターが出現しないエリアで和歌奈さん指導のもと、『魔素』のトレーニングを行った。それと同時にダンジョン探索の注意点も学んだんだ」


〈おぉ、ここまでは一般的な指導だな〉

〈モンスターのいない1階で『魔素』のトレーニングを行うことは冒険者なら誰もが通る道だ。『魔素』を上手く使えないとモンスターと戦うことができないからな。ここまでは和歌奈さんの指導法に間違いはない〉

〈え、じゃあ、どこで常識知らずの『yu-ya』になったんだろ?〉

〈それ。まぁ、続きを聞いてみようか。きっと今から常識知らずの化け物が生まれた理由を話してくれるさ〉


「そして和歌奈さんから様々な指導を受けたその日、俺は80階層のフロアボスを1人で倒した」


〈〈〈〈なんでだよ!〉〉〉〉

〈初めて潜った日に80階のフロアボスを1人で倒したとか聞いたことねぇよ!〉

〈80階のフロアボスってA級上位のモンスターだぞ!?どんな指導を受けたら1日で討伐できるんだよ!〉

〈和歌奈さーん!聞きたいことが山ほどありまーす!〉


「ちなみに討伐時間は20秒だ。昔の俺に喝を入れたいくらいの遅さだな」


〈いや速すぎww〉

〈速すぎて草………いや草も生えんわ〉

〈探索初日から化け物だったとはww〉


「で、倒した瞬間、和歌奈さんからめっちゃ褒められた。『すごいよ!裕哉くん!』って」


〈いや、すごいけど!すごすぎて褒めるところだけど、ツッコむことが先!〉

〈おかしいから!探索初日にA級上位のモンスターを1人で討伐してることがおかしいから!〉


「そして、和歌奈さんから『80階のモンスターを1人で討伐できるなら、2〜79階も雑魚モンスターになるから、裕哉くんは行かなくていいよ』と、言われたので、現在までひたすら80階より上のモンスターと戦ってる」


〈そこかぁー!2階層とか行ったことないから、S級モンスターを雑魚モンスターだと思ってるのか!〉

〈コイツ、もしかして2階層にいる『スライム』を見たことないんじゃね?〉


「へー、やっぱりスライムっているんだな。きっと、『捕食者』や『大賢者』のスキルを使い、青い髪を腰の辺りまで伸ばした人間にも変身できる強い奴だろうなぁ……出会ったら逃げよ」


〈それは『転⚪︎ラ』に登場するスライムww〉

〈そんなスライムが2階層から出てきたら冒険者全滅するわww〉

〈てか、何で逃げるんだよww。お前の中でスライムは最強モンスターかww〉

〈和歌奈さーん!あなたの指導法は間違ってますよー!〉


「そんなわけで話は脱線したが、俺は他の冒険者を見たことあるぞ。和歌奈さんだけだがな」


〈うん。お前が常識知らずになってる原因が良く分かったよ〉

〈まさか雑魚中の雑魚が出現する下層をすっ飛ばしてるなんて〉

〈原因は和歌奈さんにもあることが分かった〉


「あ、でも俺、和歌奈さんが冒険者として活動するの1回しか見たことないんだよ。何故か俺に指導をした翌日に冒険者辞めたし。だから和歌奈さんから指導を受けたのは、その日だけなんだよなぁ」


〈〈〈〈〈和歌奈さんが冒険者を辞めた原因、お前かぁぁぁ!!!〉〉〉〉〉


 俺は視聴者から一斉にツッコまれた。

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