第10話 底辺配信者、『白い虎』を瞬殺する。

 95階へ到着する。

 先程、昨日討伐したモンスターがレッドドラゴンではなく『空飛ぶトカゲ』だということを視聴者に伝えるが誰も信じてくれなかった。

 しかし、俺の配信は美月と紗枝が楽しむことのできれば問題ないことを思い出し、冷静になる。


(別に視聴者からレッドドラゴン並みに強いモンスターの討伐をお願いされても、視聴者のために配信してるわけじゃないから無視してもいいや)


 そう思い、俺は美月と紗枝以外の反応を気にせず配信を行う。


「こほんっ!さっそくだが95階の探索を始める」


 そう言ってから俺はフロア内を歩き出す。


「えー、みなさんご存じの通り、このダンジョンには雑魚モンスターしかいません」


〈存じてねぇよww。初めて聞いたわww〉

〈強いモンスターしか出現しないダンジョンなんだけど!〉


「……え?みんな何言ってるんだ?ここには雑魚しかいないぞ?」


〈お前が何言ってんだよww〉

〈このダンジョンにはS級モンスターがウロウロしてるんだぞ!?〉


「S級モンスター?どこに?」


〈至る所にだよ!〉

〈誰かコイツにモンスター図鑑を見せてこい!〉

〈って、そんなこと話してたらモンスターが現れたぞ!〉


 そのコメントを読み終える前に、後ろから「ガルルル」との声が聞こえてくる。

 振り返り、声がした方を向くと、このフロアで出現する雑魚モンスターの『白い虎』がいた。


 ソイツは全身が白い毛で覆われており、俺よりも図体が大きい。

 そのため、近くで見ると上から威圧されてるように見える。


〈やっぱり『白い虎』ってS級モンスターの白虎じゃねぇか!四聖獣の!〉

〈ヤベぇぞ!白虎もレッドドラゴン同様、誰も討伐したことがないS級モンスターだ!〉

〈海外で活躍するSランクパーティーが手も足も出ず全滅したって聞いたぞ!〉

〈コイツは1人じゃ無理だ!急いで逃げろ!〉

〈私、一度でいいからあの虎さんをモフモフしてみたいんだよねー!お兄ちゃんに頼んだら連れて帰ってくれるかなー?〉

〈私はフリスビー投げて遊びたい〉

〈殺されるわ!〉

〈誰だよ!S級モンスターと遊びたいって言ってる奴は!バカなのか!?〉

〈あ、その2人のコメントは無視してくれ。いつものことだ〉

〈いつものこと!?この2人もコイツのヤバさ知らねぇの!?〉

〈〈〈〈〈そうだ〉〉〉〉〉

〈まさかの共通認識!〉


 俺は『白い虎』を視認しつつ、視聴者に向けて語り掛ける。


「えー、コイツは図体が大きくて強そうに見えますが雑魚です。図体がデカいだけの雑魚です」


〈いや、見かけ通り強いわ!〉

〈そのモンスターも強いからね?誰も討伐したことないS級モンスターだからね?〉

〈絶対逃げた方がいいって!〉

〈骨すら残らないレベルで噛まれるぞ!〉

〈行けー!お兄ちゃん!特攻だー!〉

〈ウォーミングアップに時間をかけてられない。はやく特攻して〉

〈S級モンスター相手に特攻するよう命令しとる!〉

〈この2人もヤベぇ奴だなww〉


 戦う最中にスマホを見るわけには行かないので、コメントなど確認せず、一方的に話し続ける。


「では、どの辺が雑魚かというと、このように突っ立ってるだけで……きたっ!」


 俺が話し続けていると、『白い虎』が俺に突進してくる。

 俺は突進してくる『白い虎』をジャンプで躱し、その場に着地する。


「こんな感じで勝手に突っ込んでくるところです」


〈いや待って。白虎と『yu-ya』の動きが全く見えんかったんだが?〉

〈おい!いつの間にか『yu-ya』と白虎の位置が入れ替わってるんだけど!〉

〈このスピードこそが白虎の厄介な点。この速さに何人もの冒険者が殺されてきた〉

〈虎さんと戦う時、毎回画面が激しくブレて虎さんの動きが見えないんだよねー。気づいたら移動してることばっかり。カメラ、故障したのかな?〉

〈ホントそれ。私の画面もブレて2人が瞬間移動したように見えた。カメラを買い替える時かも〉

〈この2人、白虎の動きが見えない理由をカメラのせいにしてるんだけど!〉

〈カメラは壊れてないよ!お兄さんと白虎の動きに俺たちの目が追いついてないだけだよ!〉

〈てか、『yu-ya』の奴、白虎の動き見えてんのか!?どんな動体視力を持ってんだよ!〉

〈そもそも、突っ込んでくる敵=雑魚じゃねぇよww〉


「みんなコイツが弱いこと理解できたかな?じゃあ倒すよー」


 俺の姿を見失っていた『白い虎』も振り返って俺を視界に捉えたため、コメントを見ることができない俺は、みんながコイツの雑魚さを理解したと思い、腰にある剣を握る。


「『白い虎』も『空飛ぶトカゲ』同様、勝手に突っ込んでくれる雑魚モンスターです。そして、コイツの弱点はモフモフした毛です」


〈いや、モフモフしてるけどめっちゃ硬いから。全然弱点じゃないから〉

〈全滅したSランクパーティーの攻撃、全て避けずに喰らっても無傷だから。そのモフモフ、防御力ヤバいから〉

〈誰かコイツに白虎のヤバさを教えてやれよ!〉


 俺は「ガルルルっ!」と声を上げながら牙を剥き出しにして突っ込んでくる『白い虎』を視認する。


「モフモフしてて柔らかいため防御力は0なので………はぁーっ!」


 俺は『白い虎』をギリギリまで引き付けて一気に剣を引き抜く。

 すると、『白い虎』が真っ二つに切り裂かれ、魔石を残して消える。


「こんな感じで瞬殺することができます」


〈できるかぁぁぁぁ!!〉

〈待って!瞬きした一瞬で白虎が魔石に変わってたんだけど!?〉

〈相変わらず剣筋が見えねぇ!〉

〈さすがお兄ちゃん!強そうな虎さんだったけど、やっぱり弱いね!〉

〈見かけ倒しにも限度ってものがある。雑魚は雑魚らしく弱そうな外見で十分〉

〈だからめっちゃ強いんだって!〉

〈相変わらずこの2人はS級モンスターを雑魚モンスターと思ってるなww。俺、この2人と『yu-ya』の両親に会って、どんな育て方をしたのか聞いてみたいww〉

〈両親が冒険者協会の偉い人だったらめっちゃ笑うww〉


「と、いうわけで今日も雑魚モンスターである『白い虎』をたくさん討伐しまーす」


 俺は視聴者に向けて、そう宣言した。

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