6.ロイヤルな飲み物
「それで、我に何の用だ」
「あ、ああ。一度、あなた達に会ってみたかった」
ルクスさんに声をかけられ、王子は慌てて目的を告げる。
概ねルクスさんの読み通り。
だがそこに私も加えないで欲しかった。
目を逸らしたい気持ちをグッとこらえて、平静な表情を保つ。鏡がないので出来ているかは分からないけれど。
それはそれは遠いところご足労いただき〜なんて嫌味が出なかっただけ上出来である。
「我々も確認してみたいと思っていたので同席させてもらうことにした」
「まさかここまで仲良くしているとは想像以上だったな」
サルガス王子に大人二人が続く。
けれどそこでプツリと会話が途切れてしまった。
二人は聞かれたからそれらしい目的を答えただけ。主な用事は王子を届けることと守ることだろう。
この先、ルクスさんと会話を続けるべきはサルガス王子である。
だが彼は小さく口を閉じたり開いたりを繰り返すばかり。
お茶会では多くの令嬢や令息の相手をしていた彼だが、慣れぬ相手に緊張しているのかもしれない。
「言いたいことはそれだけか?」
「っ!」
「会って我らの姿を確認したいだけなら用は済んだだろう。まったく……期待外れにもほどがある」
確かに早く帰りたいと願った。
時間を取って欲しいのなら事前に連絡くらいしてくれとも思う。
ルクスさんとの約束も問いかけには答えるようにとのものだった。
この状況は想定していなかった。
だがこれではサルガス王子があまりにも可哀想だ。
「ルクスさん、意地悪言っちゃダメですよ。それにお菓子だってまだ来てません。楽しみにしていたんでしょう?」
どんな期待をしていたかは分からないけれど、彼がお茶とお菓子に期待していたのも事実だ。お茶もおかわりくらいはあるだろう。
これで少しくらいは待ってくれるかと思ったが、ルクスさんの口から出たのは無情すぎる言葉だった。
「部屋に運ばせればいい。行くぞ、ウェスパル」
「でも……」
「待ってくれ! あなたに聞きたいことはまだある」
「ならなぜすぐに聞かなかった? 予定も聞かずに無理矢理押しかけておいて、真っ先に聞くべきだろう。第一、我相手に手土産一つないとは……」
ルクスさんは「はぁ……」とため息を吐きながらフルフルと首を振る。
いきなり不機嫌になった理由はそれか。
まさかの理由に周りの大人達は目を丸くして驚いている。
王子なんて頑張って声を出したら、そんな返事だったのでもう泣きそうだ。
「手土産なら魔林檎を」
「それはファドゥールからだろう。ファドゥールは林檎、スカビオは石鹸、シルヴェスターは芋だ。王家は自らを示すために我に何を贈るのだ?」
そこまで贈り物に固執しなくても……と思うのは私だけだろうか。
それともルクスさんにとってそれだけ重要なものなのだろうか?
なにせ元神である。
贈り物には人柄や性格が出るなんてよく聞く話だが、ルクスさんにとって他者を測る物差しになっているのかもしれない。
まぁただ単にがめついだけかもしれないけれど。
「それは……」
「名産でなくとも構わぬ。お前の好物を寄越せ。言葉を交わすのは人となりを表してからだ。さぁウェスパル、今度こそ帰るぞ」
「まあまあ遠路はるばる来てくれたんですから、もう少し話しましょう? 紅茶だってまだ残ってるじゃないですか」
「もういい」
お菓子もダメ。
紅茶もダメ。
もう完全にお部屋に帰るモードである。
この様子では部屋に帰ってからも不機嫌な状態が続くのだろう。
今のうちにご機嫌を取らなければなるまい。
「紅茶の葉っぱがあるならミルクティーも飲めますよ!」
「ミルク、ティー? なんだそれは牛乳と関係があるのか? 美味いのか?!」
「美味しいものと美味しいものを掛け合わせたらもっと美味しいものが出来上がるなんてこの世の常識ですよ〜」
紅茶単体でダメなら牛乳を足せばいい作戦は、ルクスさんの心を動かした。
ゴクリと喉を鳴らしている。
もうひと押しだ。
「ルクスさんがもう少しここに残ってるっていうならロイヤルミルクティーにしてもらえるかもしれませんね〜」
「ロイヤルミルクティー……」
「ただでさえ美味しいミルクティーをさらにグレードアップさせた飲み物です」
「ウェスパルが美味いというのだから美味いのだろうな……」
「美味しいですよ〜。あ、もしルクスさんが気に入らなかったらその時は私が全部飲みますから! 無駄にはならないので気に入らなかったら遠慮なく残してくれてもいいですからね」
『遠慮なく』を強めるのがポイントである。
するとふぅ〜と長い息を吐いた。
「なら今すぐ用意させろ。出来上がるまでは話を聞いてやる」
さすがは牛乳好き。
ロイヤルな飲み物に陥落である。
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