7
その翌日、テスト返しがあった。生徒はみんな、楽しみにしていた。自分はどれだけの実力があるんだろう。どれだけ頑張ったんだろう。もしよくなかったら、もっと頑張らないといけない。
チャイムが鳴ってからの事、生徒は緊張し始めた。自分の成績が気になるのだ。知也もそうだ。夏休みに奈美恵と一緒に頑張ったのは、どれだけの効果があるのか、いい結果を奈美恵に見せないと。そうすれば、共進学園には絶対に行けるだろう。
と、教室の入り口の引き戸を開けて、田川先生がやって来た。田川先生は、解答用紙を持っている。その姿を見て、生徒はみんな緊張している。規律、礼、着席をすると、生徒はみんな田川先生の方を向いた。
「テストを返すぞ!」
その声とともに、次々と生徒が呼ばれていき、実力テストの結果が渡される。生徒は緊張している。自分はどんな成績なんだろう。知也もそうだ。奈美恵先生、見ててね。
「山崎知也」
その声とともに、知也は立ち上がり、田川先生の元に向かった。知也はびくびくしている。どんな成績だろう。自分的にはよくできたと思うんだけど。
だが、田川先生の表情は意外だった。知也がこの夏でかなり成績を上げたからだ。
「お前、よく頑張ったな。みんな90点以上だぞ」
それを聞いて、生徒は騒然となった。そんなに成績が良くなかった知也がここまで上がるとは。夏休みに何があったんだろう。このままでは、受からないと思われていた共進学園に受かる勢いだ。まさか、夏休みの受験勉強で覚醒したんだろうか?
「えっ、そんな・・・」
「知也、どうしたんだ? こんなに取れるなんて」
田川先生も驚いている。まさか、知也が夏休みの間にこんなに成績を上げるとは。まさか、夏休みの間に家庭教師を雇ったのかな? いや、そんな報告を聞いていない。でも、何かおかしい。急にこんなに成長するなんて。
「夏休みに頑張ったからね」
「そっか。近所の人からも、けっこう頑張ってたって言ってるもんね」
噂は聞いていた。夏休み中、知也は全く外に出ていなかった。去年の夏はよく近所の子供とテレビゲームをしていたというのに、今年の夏は全く出かけていない。家の中でテレビゲームをしているという報告も受けていない。勉強ばかりをしていると聞いている。でも、勉強ばかりでこれだけ上がるとは思えない。何か秘密があるんじゃないかな?
「頑張ればここまでやれるんだよ」
知也は不敵な笑みを浮かべている。生徒は呆然としている。
「そうかな?」
田川先生は首をかしげている。あれだけ厳しい口調で言っていたのが、まるで嘘のようだ。
その放課後、知也の成績が急に上がったと知った生徒が騒然としていた。田川先生同様、驚いている。どうやったら、夏休みだけであんなに成績を上げられるんだろう。まさか、誰かに教えてもらった? でも、そんなうわさ、全く聞いた事がない。
「最近、知也、おかしくない?」
「うん」
「最近、成績がよくなったな」
「どうしたのかしら?」
「わからない」
だが、知也はその会話に全く聞き耳を入れずに、普通に下校しようと思っていた。早く帰って、奈美恵と受験勉強だ。共進学園に受かるためには、それしかない。
だが、知也はそのうちの1人の生徒に呼び止められた。
「ねぇ知也、何で最近成績がよくなったの?」
「そりゃあ頑張ってるからさ」
だが、知也は何も言おうとしない。奈美恵の事は誰にも秘密だ。だって、奈美恵は幽霊だから。
「だけど・・・」
「夏休みで頑張ったからだよ」
夏休みで頑張ったから、としか知也は言わない。だが、もっと他にあるに違いない。だが、夏休みに頑張ったとしか結論はない。そうでなければ、あんな成績にはならないもの。
「そ、そうだよな」
生徒は汗をかいている。クールな表情で、何も言わない知也に焦っている。
「誰かに教えてもらえなかったのかなと思ってね」
知也は涼しげな表情で廊下を歩き、下校していった。彼らはその様子をじっと見ている。
「誰にも教えてもらわなかったのに、この上がりはおかしいわ」
「おかしくないよ。やればできるんだよ」
だが、知也の頑張りを認めている生徒もいる。やればできるんだと、知也は教えてくれる。だから自分ももっと頑張らなければと言っているようだ。
「うーん。そ、そうだね」
下駄箱までやってくると、別の生徒がやって来た。その生徒も、知也の成績が急上昇したのを知っていて、明らかにおかしいと思っていた。
「知也、今日返ってきた実力テストの成績がいいけど、どうしたんだ?」
「何でもないよ。夏休み、頑張ったからだよ」
やはり頑張ったからと答えるだけだ。その生徒も、それだけではおかしいと思っている。
「そっか。あんまり成績が良くなかったのに。俺に言われたから頑張ってるの?」
「うん」
すると、また別の先生がやって来た。先生は知也の肩を叩いた。急に成績の上がった知也を応援しているようだ。
「よくやってるな。頑張れよ! 期待してるからな!」
「わかった!」
肩を叩かれると、もっと頑張ろうという気持ちになれる。知也は嬉しくなった。
「さようなら」
「さようなら」
知也は学校を後にして、家に向かった。家に帰ったら、奈美恵と受験勉強だ。受験勉強は合格するまでだ。もっともっと頑張らなければ。
知也はその間、考えていた。奈美恵はどんな人生を送って来たんだろう。どんな先生になりたかったんだろう。もっと聞きたいな。
知也は家に戻ってきた。夏休み前までは日が暮れる寸前になって帰って来たのに。受験勉強によって、生活が変わってしまった。だけど、それは将来のためだ。
「ただいまー」
「おかえりー」
家に帰ると、麻里子の声がした。麻里子はリビングにいる。だが、知也は目もくれずに2階に行く。リビングで休んでいる暇なんてない。受験だ受験だ。
部屋に戻ってくると、そこには奈美恵がいる。知也は肩を落とした。疲れているようだ。奈美恵はそんな知也を、笑顔で出迎えた。
「はぁ・・・」
「お疲れさん」
奈美恵は肩を叩いた。知也はぐったりして、ベッドに仰向けになった。受験勉強までの少しの休息だ。
「あ、ありがとう・・・」
と、奈美恵は実力テストの結果が気になった。今日は実力テストの結果が返ってくる日だ。知也の結果がとても気になる。
「実力テスト、どうだった?」
「よかったよ。奈美恵先生のおかげ」
疲れたような表情で、知也は笑みを浮かべた。奈美恵はほっとした。知也の役に立ってよかった。これが教師としてのだいご味だな。
「ありがとう。役に立ててよかったよ」
「だけど、本当にそう言えるのは合格してからだから」
だが、これがゴールじゃない。共進学園の入試に合格するまでがゴールだ。それまで一生懸命頑張らないと。
「そうだね。合格がゴールだよね」
「うん!」
と、奈美恵は思った。かなり疲れている。どうしたんだろう。受験勉強をしなければならないのに。
「疲れたの?」
「うん。だけど、頑張らないと」
それを聞いて、奈美恵はほっとした。まだ勉強をする気力は残っているようだ。少し休憩をしたら、また頑張るのだろう。その時になったら、私もその力にならないと。
「いいじゃないの。時には休息も大事よ」
「そうだね」
言われてみればそうだ。少しの休息も大事だ。だけど、休みすぎたらだめだ。休みはほどほどにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます