少女の回顧録 〜暗い過去と未来の行方〜
北条綱成
第1話 回顧録
「あの世界は狂っていた」
そう私に話したのは前の
彼女はすでに70を超えているが、二十台かと思わせるほどの美貌だ。しかしその雰囲気はいつもの長官とは異なり、厳かな雰囲気を醸し出していた。
「あれは三十年前だったか。当時学生だった私は彼と共に暴れ回っていた。いや、振り回されていたが正しいかな?」
この時私は長官の一度も話したことのない過去と、世界の真実を知ることとなる。
「往時はな、限られたものにのみ使える魔術というものがあった。これは生まれた時に決まる。持たざる者はいかにしても持つことができない。それが差別の原因となったそして、戦争が始まった」
その話は父親に聞いたことがあった。しかしながらそのようなことは全くどこにも情報はなく,ただの嘘だと思っていた。
「政府が深く知ったものを消したのだ。そしてそれから五年は強固な情報統制を行なった。政府の裏の部分となったからな。そしてそれを話したものは北へ連れて行かれた。政府は立憲君主制を正した暗殺国家というのが正しいか」
長官の政府を憎むような言い方が気になり、私は長官に尋ねた。
「なぜそこまで政府を憎むのですか?」
「憎む……か。それが正しいな。今や政府の情報統制が完璧ゆえ気付いているものはいないが、先の
「え?」
「この戦は政府に連れて行かれた北のものを処分するための戦いだったのだ。三十年経ったいまでも政府は恐れる。なぜ捕虜がいないか知ってるか?」
そう問われ気づく。当たり前のものがない戦いだったのだ。戦の後には必ず捕虜が連れて行かれる。自らの戦果を誇示するかのように。
「それが我が野蛮な国の証拠だ。政府は北方の国の民を皆殺しにした。なんの罪もない女子供さえも。老若男女問わずだ。情報統制が治ってからこの20年、政府はひたすら北方の国を悪者に仕立て上げた。されてもいない殺人事件を仕立て上げ、あまつさえ研究所を爆破しそれを北方の国のせいに仕立て上げ、なんの罪もない民を殺戮した!要らない戦いだったのだ!何もかも!」
机を叩き、大声で捲し立てる。それが真実ならばかつての同僚を殺さなければならなかった長官はどれほどの苦痛を味わったのだろうか?
「だからこそ私は!私は!あの国を許すことはない!断固としてだ。この国は狂ってる。それを盲信的に信じている国民もだ!」
そう言い、落ち着いたのか長官は椅子に座り込む。
「北方の国を攻め終えた私の役目は無くなった。そろそろ政府はいま唯一の過去を深く知ってる私を消しに来るだろう。だからこそ君に伝えたかった。これが私の
メリークリスマス。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます