第30話 なんと、ノロケ話を始めるCEO。

「それでねぇ、あの人はワタクシに言うのよ。ずっと愛しているって。もう、たまらなかったわ。いくら、ワタクシが愛をつかさどる魔神デーモンだったとしてもね」


「そーなんだ、グレーテお姉ちゃん」

「わたしも、羨ましいなぁ。一人の男性にずっと愛してもらえるなんて」


 俺たちへの提案が終わった後、CEOは雑談を開始した。

 そこでCEOは自らの正体を俺たちに明かした。


「ワタクシ、お察しの通り人間ではないわ。魔法使いならご存じかしら、ソロモン王の従えし72柱の魔神デーモンを」


「はい。古代イスラエルのソロモン王が魔術を使い、多くの魔神を従えたと聞いています」


 俺は、魔法の教育で習った事を思い出す。

 多数の魔神を従え、数々の偉業を行った魔術王の事を。


「ワタクシはその一柱、五十六番目。女侯爵にして二十六軍団を従える魔神、グレモリーよ」


 CEOは、資料を表示させているタブレットで己の姿を映し出す。

 そこには、ラクダに乗ったアラビアンナイト風な美女、いや美魔神のイラストがあった。


「ワタクシが現世に召喚されたのは、もう三十年近く前になるわ。前CEOだったあの人、渕灘ふちなだ 正太郎さんに呼ばれたの」


 CEO、グレーテ・フチナダ、いや魔神グレモリーは頬を染めて過去話を語る。

 彼女が呼ばれた時、前CEOは七十代半ば。

 ガンによる死を迎える直前だったそうだ。


「あの人、自分の命を触媒、生贄にしてワタクシを魔界から呼出したの」


 彼は莫大な資金と権力を使い、古代イスラエルの遺跡から「ソロモンの鍵」と呼ばれる魔導書を見つけた。

 そして自らの命を生贄に懸けて、魔神召喚を行ったそうだ。


「あの人ね、態々わざわざワタクシを呼出してくれたの。他にも魔神は沢山いるのに五十六番目のワタクシをよ? 他ならぬ愛をつかさどる魔神のワタクシをよ? そしてね、願うのよ。自分は今にも死にそうなのに、自分が亡くなった後のフチナダ、そして世界を守ってくれって。愛で世界を救ってくれって!」


 頬をピンク色にしてノロケ話を始める年齢不肖な美女の魔神。

 おそらく世界的にとても珍しいものを見ているのだろう、俺たちは。


「ワタクシは言ったの。ワタクシなら、そんなことよりも貴方を若返らせて不老不死に出来るのよって。そしたらね、あの人言ったの。自分の命には未練は無いって。ただ、残される社員や世界。まもなく起きる異世界からの侵略が心配だって」


 どうやら前CEOは、グリモリーを呼び出す際に同時に入手した情報でダンジョンの発生、異世界からの侵略を事前に知っていたらしい。

 彼は失われつつある自らの命を生贄にして、自分が居なくなった後の世界を魔神に頼んだ。


「そして、一言だけど追加したの。独り身で孤独な自分は最後が寂しいから、出来れば美人な貴方に看取ってもらえたら嬉しいって。それも視線をワタクシから外して恥ずかしがって。魔神のワタクシに看取って欲しいっていうのよ。もー、恥ずかしいし嬉しかったわ。今まで恐れられるか、願いだけを言われてきたワタクシが……」


 後は、俺がフチナダの公式情報で知る通り。

 ひとり身だった前フチナダCEOは魔神と結婚をした。

 前CEOは、それから十五年以上長生きをした。

 そして、前CEOと魔神は仲睦なかむつまじい夫婦としてお互い長い時間を過ごした。


 ……若返りはしなかったけれども、前CEOのガンは魔神が治しちゃったみたいだな。


「あの人ねー。真面目な顔して夜は盛んなのよ。いい歳なのに幾晩も寝かせてもらえなかったわ」

「それ、どういう意味なの、グレーテお姉ちゃん?」

「アヤちゃん、貴方にはまだ早いわ。CEO、ノロけるのは良いのですが、少しは考えてくださいな」


 ……アヤに男女の睦事むつごとは、まだ早すぎるな。しかし、CEOがそんな存在だったとは意外だ。もしかして、噂の百人委員会って人外の集まりだったりして。


 陰謀論の中、今のメガコーポのトップが集う百人員会について、古から続く秘密な魔法結社だとか、人ではない者が古代から世界を操っていた組織だったとかという噂が流れていた。

 しかしCEOの話からすれば、案外事実なのかもしれない。

 それが人類を支配するだけでなく、人類を守る存在だという事を除けば。


 俺は、呆れながらも痴話話で盛り上がる女性たちを見ながら、CEOに命じられた作戦を考えた。


 ……瀬戸内の小島に出来たダンジョンの攻略・破壊か。


 国内のダンジョンは、基本的にメガコーポの管理下にある。

 ただ、全てが管理できるわけでも無く、人間が知らぬ間にコアがダンジョンから運び出されてしまう場合もある。


 今回、俺とアヤによるダンジョン・コア破壊のテストケースとして選ばれたのが、瀬戸内海の無人島にある小規模ダンジョン。

 まだフェイズ1レベル、全部で十層ほどのダンジョンを俺とアヤで破壊するわけだ。


「ハルトくん。僕は必ずキミと一緒にダンジョンを破壊するよ」


 後ろに立っているマサアキさんは、俺の不安を和らげるように話しかけてくれる。


 ……全ては俺とアヤの同調がカギか。俺とアヤならダンジョン・コアも破壊できると。


 CEOが言うには、アヤと俺の間には幼いころからの繋がりが強くあり、お互いの魔力を組み合わせる事が可能らしい。

 そして魔力を何倍にも増幅が可能とのこと。

 それは、先日死の淵にあったマサアキさんを救った「奇跡」が証明しているそうだ。


 ……確かに一度だけ覗いた俺のインターネット掲示板スレッドでも、マサアキさんの治癒は奇跡扱いされてたな。今まで致命傷を負った人を魔法で完全に治癒させた事例は、ほぼ無いって話だし。


 その「奇跡」を攻撃に使えば、存在が半分異次元に存在するダンジョン・コアの破壊も不可能ではないというのが、CEOの見積だ。


「ありがとう、マサアキさん。俺、やってみるよ。これがアヤを取り戻す事にも繋がるからね」


「あら。やっぱり笑った顔が可愛いわね、ハルトくん。ワタクシ、期待してるわよ。アヤちゃんと二人で作る世界をね。愛の魔神が保証するわ」


「ハルおにーちゃん! 二人の愛だって。うれしーなー」

「あー。ハルトきゅんがアヤちゃんに取られちゃうの! アヤちゃんならしょうがないけど……」


 CEOが俺を揶揄からかうので、アヤやナナコさんも騒ぎ出す。


「あのね、ナナコさん。俺は最初からアヤ以外は……。はいはい、一旦落ち着きましょうね」


 そこからもしばらく、俺たちとフチナダCEOの魔神は談笑をした。

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