第27話 フチナダCEOからの召喚。

「じゃ、じゃあ行こうか」


「大丈夫、そんなに緊張しなくても。僕も数回お会いした事はあるけど、CEOは人を食べたりしないからね」


 運命の土曜日。

 俺、ナナコさん、マサアキさん、そしてアヤは学校制服に身を包み、士官学校前の道路で迎えを待つ。

 数日前にいきなりフチナダ・グループCEOから俺たちに向けて直接召喚状が来たからだ。


「そういえばCEOは女性なの、マサアキさん? 名前や写真を見ると女性に見えたのだけれども」


 グループのホームページにある投資情報やCEO紹介のぺージにある写真には妙齢の美人女性が写っている。

 顔形はアラブ系にも一見見えるが肌は白く、スタイルはかなり良い。

 女性用の後宮ビジネススーツが見事なメリハリを示している。


 名前はグレーテ・渕灘ふちなだ

 紹介欄では二十数年ほど前にフチナダグループの老会長と歳の差結婚をし、会長を看取った後にCEOに就任したとある。


 ……本来なら遺産やメガコーポを目当てに結婚したともいわれるだろうけれども、会長との仲睦まじい様子は多くの動画にも残っているんだ。また、『世界の覚醒』前に彼女が色々動いていたからフチナダがメガコーポになったとも言われているな。


「あ、そうだ。一応禁止事項があって、CEOの年齢については社内社外を通じて秘密なんだ。女性に年齢を聞くのは失礼って事で納得してね」


「……えっとぉ。CEOさんって元会長さんとご結婚したのが二十数年前ですよね。その時も今と同じくらい美人さんで成人過ぎでしたから……」


「ナナコおねーちゃん。そこは聞いちゃダメなの」


 俺の疑問と同じ事を口にしたナナコさん。

 アヤにメッってされてた。


 ……うむ、気を付けよう。女性に失礼があってはダメだからな。


 そうこう話していると、士官学校玄関に大型で黒いリムジンカーが横付けされた。


小日向こひなたさま、御子神みこがみさま、葉桐はぎりさま。そして児山こやまどの。お迎えに上がりました」


 リムジンカーから降りてきた初老白髪の男性。

 如何にもな執事姿で華麗に俺たちに挨拶をし、車内に案内した。


 ……年齢順に呼ぶけれども、最後にマサアキさんを『殿』と呼ぶか。やっぱり、マサアキさんはフチナダ上層部と繋がっているんだ。しかし、この人。セバスチャンって呼ばれても違和感が無いなぁ。


 そして、俺達たちは目的地、CEOが待つ某所に向かって移動を開始した。


「ハルおにーちゃん、凄いね」

「そうよね、アヤちゃん」

「あのぉ。二人とも車内は大きくて座る場所に余裕があるんだけど」


 俺は超高級リムジンの中、後部座席で両手に花状態となっている。

 豪華な車内をきょろきょろする二人の女性にぎゅっと挟まれている。


「だってぇ。アヤ、せっかくおにーちゃんと一緒に座れるんだもん。こんな時くらい、くっつきたいよ。ねー、ナナコおねーちゃん」

「そうよね、アヤちゃん。ハヤトきゅんはアヤちゃんやわたし以外に目を向けちゃダメなの」


「ふふふ、なるほど。CEOの写真を見て、ハルトくんが彼女に目移りしないように、今のうちに手を打っているんだ」


「マサアキさん。笑っていないで助けてよぉ」


 俺は両腕をがっちりと組まれ、二人の柔らかい『頂き』に押し付けられている。

 そして二人が俺を挟んで話し合うものだから、かぐわしく甘い匂いもセット。

 実に嬉しくて辛い状態だ。


「ほっほっほ。若いとは実にいいモノですね。児山どの、毎日楽しいのでは無いですか?」


「ええ、ヤマダさん。僕は楽しく仕事をしていますね」


 俺達の前、進行方向と反対側の席に座り談笑しているマサアキさんと執事さん。

 マサアキさんはどうやら、もう俺たちに対し自らの立場を隠す気は無い様だ。


「マサおにーちゃん、本当に大丈夫なの? アヤ、ハルおにーちゃんがどうなるのか、心配なの。アヤの為に無理している気がして……。アヤは困っていないから、大丈夫だよ?」


「アヤ。君は気にしなくても良いんだ。俺が好きでやっている事だからね」


「そう? アヤ、おにーちゃんが危ない目に合わないか心配なの。だって、執事さんって本当の名前を言っていないんだもの。嘘つきさんはキライ!!」


 アヤは俺がフチナダの内部に近づくのを警戒している様だ。

 そして執事、ヤマダと名のる初老の男を涙目で睨んだ。


 ……アヤ、人の心が見えるんだ。流石は我が義妹いもうと


「あら、ヤマダさん。アヤちゃん相手じゃ勝てないですね」


「……しょうがないです。私の負けです、アヤさま。私はフチナダCEO直属のものにして、体外的な対応をしています。合法的な事ばかりでも無いですので、その際に本名を名乗ってフチナダとの関係をはっきりさせる訳にもいかないのです」


 ヤマダと名乗る執事、柔らかい笑顔をしてアヤに謝罪する。

 どうやら彼はCEOの意向を受け、コントラクターなどに仕事を依頼する事もあるらしく、その為に本名を名乗らないらしい。


「おじちゃん、ハルトおにーちゃんに酷い事しない?」


「ええ、そこは私が約束致します。なにせ、今までも児山どのが幾つかの案を却下していますからね」


 アヤに可愛く問い詰められ、苦笑するヤマダ(仮名)さん。

 これまでもマサアキさんが、色々と俺達に良いようにしてくれていた様だ。


「ヤマダさん。それはナイショにしてって話だったのに。まあ、良いや。僕もハルトくんやアヤちゃん、ナナコさんが大事な友達なんだ。だから、今回も本当なら断りたかったんだけど、どうしてもとCEOに直接言われちゃってね」


「そこはしょうがない、宮仕えは上に従うしか無いですから。マサアキさん、これまでもありがとうございました」


 俺はマサアキさんに頭を下げた。

 今まで何回もマサアキさんの支援で命があった。


「さあ、まもなくCEOが御待ちのホテルに到着いたします。皆様、頑張ってくださいね」


 俺たちはヤマダさん(仮名)に見送られ、リムジンを降りCEOが待つホテル内に脚を進めた。

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