第25話 再び日常、続く修行の日々。

「ふぅ。まだ本調子じゃないなぁ」


「そんな事を言って、俺をひっくり返しているのは誰ですかぁ、マサアキさん!」


 今日は格闘実習。

 ダンジョン内では銃器による戦闘が主になるとはいえ、弾が切れたら戦えないという訳にもいかない。

 なので、魔法使いな俺も一緒に実習を受けている。

 今はマサアキさんに転がされて、お腹の上でマウントポジションを取られている。


「僕は一応、前衛戦闘職だものね。といいつつ、ハルトくんならここから『かめは……』」


「気弾です!」


 俺はマサアキさんが危ない発言をしそうになったので、訂正する。


「その気弾で逆転できるでしょ?」


「確かにできますが、アレ。本当に威力は期待できないんです。師匠は魔法以上の威力を持たせられていたんですが」


 俺はマサアキさんの手を借りて立ち上がる。

 ふと他の人を見ると、ナナコさんが他の女の子を持ち上げて頭上でくるくる回していた。


 ……すっごい馬鹿力。ミノタウロスの一撃を盾で簡単に止められるのも納得。


御子神みこがみ生徒。気功波の威力不足に悩んでいる様だな」


「はい、教官。俺の場合は魔法を使うのに呪文を詠唱しつつ、印を両手で結ぶ必要があります。なので、とっさの場合に攻撃できる術が他にも欲しいと思っています。師匠もそうやって戦っていたとも聞いています」


 オカダ教官が俺に声を掛けてくれたので、事情を説明する。


 師匠なら、ミノタウロスクラスなら気弾の一撃で仕留められていた。

 後日、師匠の葬式に来られていた高野山筋の退魔師仲間が言うには魔神デーモンや竜のたぐいすらも、師匠は気弾と俺が受け継いだ錫杖しゃくじょう剣で倒していたらしい。


「だったら、俺の知り合い筋に太極拳を使ってモンスター退治をしている老子がいる。彼は気弾も使っていたな。今度、紹介してやろう」


「ありがとうございます!」


「ハルトくん、良かったねぇ。僕も良い師匠がもっと欲しいな。あ、オカダ教官は、もちろん素晴らしい師匠ですが」


 教官が俺に別の師匠を紹介してくれるというのは嬉しい話だ。

 マサアキさんは、俺に新たな師匠が出来るのを羨むが、一瞬オカダ教官の顔が歪むのを見て、急いで教官をよいしょしていた。


「だったら、歴史の授業をもっとよく聞くことだ。あの方、カタオカ教官は本当なら、お前らがお話できるような人じゃない。退官なされてはいるが、元准将だからな」


「え! もしかしてとは思っていましたが、カタオカ教官って『戦場の魔術師』とも『リアル・ヤン・ウェンリー』とも呼ばれていた方でしょうか?」


「何その話、わたしにも聞かせてよー」


 僕らが教官と話し込んでいると、ナナコさんがグイと顔を突っ込んでくる。

 汗を拭いながらニコニコ笑う彼女から、甘いような香りがした。


 ……これ、女の子の汗の匂いかな? あ、エッチな事考えちゃだめだ。


 一瞬、ナナコさんの豊かな胸元に視線が生きそうになった俺は、急いでマサアキさんに聞いた。


「俺も知りたいです。カタオカ教官って凄い方なのですか?」


「じゃあ、僕から説明しよう。オカダ教官良いですよね」


 ……ふぅ。上手く誤魔化せた。


 ニコニコ顔で俺達にくっつくナナコさんから視線を外しつつ、俺はマサアキさんに視線を向ける。

 オカダ教官が、ウムと首を縦に振ったのでマサアキさんは話し出した。


「二人ともテクノタイタン判例は知ってるよね。あの頃は、まだ国家の方が企業よりも力があったんだけど、『世界の覚醒』直前にメガコーポに対し『とある』国家がケンカ、戦争を起こしたんだ」


 「企業統合戦争」と今になり呼ばれている紛争、いや戦争。

 企業に国家の経済を抑えられて独裁が出来なくなった某国が、企業弾圧と資産没収をする為に軍隊による戦闘を起こした。

 それを受けて世界各国でも、あまりに力を持つ企業、メガコーポに対して弾圧を起こした。


 ……その流れでメガコーポたちは百人委員会ってのを作って協力をしだしたんだったっけ?


「その時にわずか数百の兵を指揮し、数万を超える独裁者の軍隊を制圧して、独裁者の首まで取っちゃったのが『戦場の魔術師』カタオカ准将、その時は大佐だったっけ、なんだ。彼は戦術だけでなく戦略、後方の兵站へいたんにも詳しく企業、ことコンビニ等でも用いられるロジスティック理論を駆使して勝利したんだ。それがね、一般市民に殆ど犠牲者を出さずに勝ったっていうんだから凄いや」


 興奮気味にカタオカ准将の偉業を話すマサアキさん。

 聞いてみれば実に凄い。

 猪突猛進をしてしまいがちな俺とは全く違う。

 好々爺の様子を見せる教官と、イメージがあまりに違うのも驚きだ。


「ということだから、俺も実はカタオカ教官のファンさ。個人的にあの方の授業を受けたいとも思っている。お前ら、ちゃんと授業を受けろよ」


「はい!」


 俺は、身近に凄い人が多い事に今更ながら気が付いた。

 師匠はもちろん、マサアキさんもオカダ教官、カタオカ教官。

 企業が権力で横暴をするのは今も許せないが、企業が人助けをしているのも事実。

 商品を購入したりサービスを受ける市民がいなければ、企業もなりたたないし、平和でなければ購買層たる一般市民が生まれない。


 ……要は、どう折り合いをつけるかだな。


 俺の中で、少しメガコーポに対する考えが変わった。

 中に入らなければ分からない事も多かったからだ。


「ちきしょぉ! もう一本、お願いします」


 視線の向こうでは御曹司が真面目に訓練を受けている。

 ダンジョン内での「事故」以降、御曹司の周囲から取り巻きが減った。

 いつの間にか、数名のお付きも士官学校からいなくなった。

 その中には、マスダもいる。


 ……マスダも命やIDまでは奪われなかったのは良かったな。いくら軍事裁判とはいえ傷害事件程度で死刑は無いか。


 俺を恨んで「事故」を起こしたマスダだが、士官学校からは追放されたが、表向きは自主退学。

 マサアキさん情報では、遠く離れた場所でダンジョン前での警備をやらされているらしい。

 また、マスダを送りつけていたフチ・バイオの重役らは粛清を受け、出向。

 系列会社で壁際をしているとの事だ。


 ……まー、企業貴族のままだから、良いんじゃね? また頑張って伸し上がれば良いだけさ。


 こうして、俺の修行は続く。

 もっと強く、賢くならねばフチナダで伸し上がれないし、アヤを救えない。

 アヤを俺の妻にする戦いは、まだまだ続くのだ。

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