第3章 驚愕・ダンジョンが生まれた意味

第23話 マサアキさんのお見舞い

「やあ、わざわざお見舞いありがとう」


「いえ。俺の身代わりに怪我したんですから、このくらいは当たり前ですよ。アヤも本当は来たがったんですが来れず、すいません」


 今日、俺とナナコさんはフチナダグループ経営の大病院にお見舞いに来ている。

 二人して、お菓子などを持ってマサアキさんの病室に来ている。


 ……アヤは、やはり外出許可が出なかったんだ。


「いやいや。アヤちゃんが来られない事情は、僕も知っているからね」


 かなり血色も良くなったマサアキさん。

 一時は命の危険もあったのが嘘みたいだ。

 なお、入院費用は労働災害扱いでフチナダが全額持ち。


「で、あの時話していたことは事実なんですか? マサアキさんが俺とアヤのボディガードだったなんて」


「え、僕ってそんな事言ってたっけ? あの時は意識がはっきりしてなかったからねぇ」


 俺の質問を、またも誤魔化すマサアキさん。

 しかし死に際に嘘を言うのは、俺に対して罪悪感を持たせないからにしても違和感がある。


「あのね、マサアキくん。わたしもちゃんと聞いているんだからね。まあ、貴方にも事情があるんだろうけど。でもね、ハルトくんやアヤちゃんを泣かす様な事なら、わたしも許さないよ?」


「脅かさないで欲しいなぁ、ナナコさん。僕がハルトくんの友達なのは確か。まあ、出会いに作為的な事があったのは否定しないけど、その後は僕が選んだ事。絶対に君たちを泣かせるエンドは迎えさせないよ」


 ナナコさんの可愛い怒り顔に苦笑するマサアキさん。

 しかし、その笑顔と言葉に嘘は一切感じない。

 俺は、マサアキさんを信じる事にした。


 ……だって、いくら仕事でも俺の身代わりになってミノタウロスの斧を受けないよな。


「うん、マサアキさんの事を俺は信じるよ。で、何時頃になったら退院できそう? 実はウチのパーティが実技遅れててね」


「外傷はハルトくんやアヤちゃんのおかげで入院前から無いんだけど、出血量が多かったから今も貧血気味なんだ。リハビリで身体も少しずつ動かしてはいるけど、退院は再来週くらいになりそう」


 あの「事故」で多くの怪我人が発生した。

 幸い、俺とアヤの治癒魔法で全員外傷は無くなったものの、「心の怪我」までは治らない。

 あの後、士官学校を去る者が多数発生した。

 フチナダ上層部としても無理やり戦わせるよりは、他の部署に回す方が効率的。

 聞いた話では、事務官の育成学校や魔法研究部門へ移った子達がいるそうだ。


「なら、それまで俺は魔法関係の勉強をしておきます。今回は、とことん自分の実力不足を感じましたから」


「ハルトくんが実力不足なら、僕なんてどうするの? 結局、ハルトくん一人で殆どミノタウロスを倒しちゃったんだしね」


「それでもですよ。あんなに感情的に魔法を使わうのはダメです。魔法使いはパーティの要であり、頭脳。背後から的確に魔法や作戦を使う役目ですし」


 ミノタウロス戦では、俺は怒りのあまり非効率的な戦い方をし、その為にマサアキさんの治癒に使う魔力残量マナプールが危なかった。

 的確に相手の弱点を突く戦い方を行わなければ、ダンジョン最下層での戦いまで魔力が残るはずも無い。


「ハルトくんは可愛くて強いで良いと、わたしは思うよ。今もネットで大人気だもの。知ってる? 個人スレッドが何個も立って居るんだけど?」


「ナナコさん。それは教えてくれなくても良いです。俺、恥ずかしくて一切見ていないんです」


「エゴサーチはしない方が、精神衛生上は良いよね。まあ、ハルトくんを悪く言っている意見はほとんど無い。いや、ナナコさんとアヤちゃんの両手の華に対しての『やっかみ』はあるかな。ははは」


 俺のネット上での話題で盛り上がる病室。

 しばらく談笑した後、俺とナナコさんは病室を去る。


「で、一体『誰』がやったのかな?」


 去り際、マサアキさんが俺の背に向けて問う。

 今回の「事故」、いや「事件」は誰が起こしたのかと。


「……マサアキさんなら分かりますよね。『彼』の事は教官とも相談してます。対処は俺に任せて下さいね」


「うん、分かった。ハルトくんに全部任せた。ただ、殺し合いにだけはならないようにね」


「ええ、俺も人殺しは嫌ですから」


 俺はマサアキさんに背を向けたまま手を上げ、病室を去った。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ワザワザ、ひと気のない処に俺を呼び出すなんていい度胸だな、御子神みこがみ


「いえいえ。貴方も誰かいない方がお話しやすいと思いまして」


 今は午後八時、消灯時間前の自由時間。

 俺は、「彼」をひと気が無く、監視カメラも少ない宿舎裏庭に呼び出した。


「……一体何が言いたい?」


「分からないとは言わせません。貴方は俺を恨み狙って、ミノタウロスに殺させようと画策しました。その為にボスフロアーの扉を解放していたドアストッパーを傷つけ、時間差で扉が閉じる様になさりましたね?」


 俺は手に持った錫杖を振り回しながら、「彼」に問いかける。

 「彼」が俺への恨みを募らせ、俺以外の人を巻き込むような事件を起こした。

 これは原因でもある俺が事件解決をしなくてはならない。


 ……誰も死んではいないけれども、心が傷ついて一般生活にも戻れない子もいるんだぞ!


「……分かっているなら、俺を教官に突きだせばいいじゃないか? それとも証拠も無しに俺を疑っているのか?」


「証拠なら既に教官に提出してますよ。ドアストッパーに切断跡がありましたし、貴方がドアストッパの近くで立ち止まった映像記録もありますしね」


 ニヤニヤ顔だった「彼」。

 既に証拠が提出済みと知り、凶悪な顔を見せた。


「なら、ここでお前を殺して俺は逃げる! 馬鹿が、お前が俺にもう一度勝つ事なんて無い! 死ねぇ!」


 鈍く銀色に輝くサイバーアームやサイバーリム脚部から高周波ブレードを飛び出させ、俺を殺そうとする「彼」。

 しかし、既にチェックメイトなのだ。


「オン・ハンドマダラ・アボキャ・ジャヤデイ・ソロソロ・ソワカ! 不空羂索ふくうけんさく観音菩薩かんぜおんぼさつ |捕縛呪ほばくじゅ!」


 俺は懐にしまっていた五色の紐、羂索けんさくを取り出し、呪文を完成させた。

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