悪癖添い寝ー3

 姉は、最近はかなり精神状態も安定している。

再会した頃は、泣いてばかりだった。

何を聞いても、返ってくる返事は、

「わからない」


最近は、少し心の霧が晴れてきたと言う。


「果穂ちゃんのおかげだよ」

と言ってくれる。

泣きながら。


 そんな私だって、姉と向き合うには時間がかかった。


何もできない。

体は弱い。

一緒に歩いていても、ジロジロ見られる。

下手したら、売られた喧嘩を買う。


 しかし、お互い新しい環境に慣れたら慣れたで、新しい問題も多くなる。


 口数も少なく、感情も露わにしない姉だか、これで結構寂しがりやでわがままだ。

ロンドンで、どれだけ甘やかされてきたのだろう。


 夜中に、眠れないと電話がきたりする。

同じマンションの同じ階ということでパジャマのままで行ってやる。

そういう時は、大体バンドメンバーのレイちゃんやショウくんに断られた後だ。


「お姉ちゃん、もう大人なんだから」


と言っても、泣かれるだけだ。

最近は、同じベッドで寝てくれとせがまれる。

ベッドに横になったまま涙を流す姉のその顔は、変に色気があって困る。

ティシュを渡して、涙を拭いてやって、ベッドで添い寝をしてしまったのが運の尽きだ。


姉を抱きしめて寝ることが増えた。


「お姉ちゃん、私はあなたの親じゃないんだから」


「ごめんね!こんなこと頼めるのは、果穂ちゃんしかいないから」


「いつから、この添い寝の習慣始まったの?」


「私の左眉の途中から赤くあざになってるじゃない。

あの頃、ここにリングのピアスを2つ付けていたの」


「写真でみたかも」


「パブのトイレに行ったら、男は入ってくるなって言われて。

でも、アイツら、私が女の子って知ってたくせに」


「それで?」


「数人に囲まれてボコボコにされた」


「そして、最後に、私の左眉のピアスに手をかけて、笑いながら引っこ抜いたんだよ、アイツ」


「うそ!怖っ!」


「結構傷が深くて、血がダラダラ出て、何針も縫ったんだよ」


「その時に、ボスがずっとそばにいてくれた。

悔しくて、悲しくて、痛くて、

泣き止まない私の頭を、ずつと撫でてくれてたんだけど、寝ちゃったんだね」


「朝目覚めたら、隣でボスが、私の頭に手を置いたまま寝てたっていう話」


「その時に、私の体には触れず、隣で横になってたボスは、この世で一番信用できるって思った」


姉が受けた酷い仕打ちや

姉の悔しさ

そして、

八木さんと姉の信頼関係

を思うと、私は泣いてしまった。


「果穂ちゃん、泣いてるの?」


と言って、振り返った姉が、今度は私を抱きしめてくれた。

なんだか心地よく感じた。

ヤバいぞ!





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