第二話

 みんなと話すのが好きだった。みんなと遊ぶのが好きだった。走るのが好きだった。


 好きだったんだよ。





 ☆





 九時半頃。間借りさせて貰ってる知り合いん家の一室で起きた俺は、朝飯を食いながら昨日の出来事を考えていた。


「どうすっかな」


 皿の横にあるのはスマホ。画面にはアイツとのメッセージ欄。


 これから遊びに誘うか迷っている最中だった。暇だったら遊ぼうとは言いつつも、昨日今日で三年ぶりに会った相手を誘うのはどうなんだ?とか。アイツにはアイツの人生があるんじゃないか?とか。うざがられてるんじゃないか?とか。


「子供の頃は、遊びの誘い方なんて考えた事もなかったのにな」


 家のチャイムを鳴らすか、公園で遊んでるとこに合流するか。そんなもんで良かったのに。余計なことを考えてしまう。


「……考えてても仕方ない」


 こういう時は思考放棄だ。ぱっぱっぱっとメッセージを打ち込んで迷わず送信。


『起きてる?どっか行かね』


「アイツが寝坊したの見た事ないし寝起きは良かった筈だけど……お」


 割とすぐに既読が付いた。そこからしばらく経った後、返信も来た。


『いく』


『じゃあ駅前集合。十一時ごろで良いか?』


『いい』


『おっけ。あそこらへん久しぶりだから楽しみ』


 さらっと約束を取り付けられた。華とメッセージでやり取りすんのは初めてだから新鮮だ。


 と、感傷に浸りながらも何気なく開いた華のプロフィール欄を見てしまう。


「高校でも部活には入ってるんだな。多分陸上、か?」


 アイコンには陸上のスパイクらしい写真。背景には部員たちで撮った集合写真っぽい写真が設定されていた。


 昔と変わらないところを見つけて、なんとなく安心する。ただ、この写真に写ってるアイツは髪が黒で短いし中学時代の面影がある。服装的にも集合写真を撮るタイミングを考えても、多分これは高一の春頃の写真だろう。


 つまり少なくとも、そこまではアイツに外見的な変化は無かったということになる。何かがあったとすれば高一と高二までの間。


「……あほらし。詮索はしないんだろ。気色悪いことしてんじゃねえよ」


 自分の性格を自嘲しつつ、俺は画面を消してのろのろと外出の準備をし始めた。





 ☆




「うっす。待った?」


「う、ううん。さっき来たばっかり」


「そっか、良かった。久しぶりでちょいちょい街並みも変わってたから迷っちったよ」


 ここらで一番賑やかな駅前。俺達はそこにある時計台の前で合流した。


 華の恰好はふつーの冬場に出かける時の恰好って感じだったが、黒い帽子を深く被り込んでマスクをしてる上に落ち着かない様子で、周囲を気にしてるように見えた。


「とりあえず昼飯食おーぜ。なんかここ最近でいい感じの店出来てたりする?」


「パスタのお店とかあるけど……」


「お、いいじゃん」


 そう言ったものの、なぜか華の表情はあまり乗り気じゃなさそうだった。華が何を警戒してるか分からんし、ここはもう華に決めて貰おう。


「というか任せるわ。高すぎなかったらどこでも」


「えっ?ん、うーん…………ファミ、レス?」


「めっちゃ良いじゃん」


 ファミレスは神だよな。金無しの味方だ。


「確かほら、ここらの婆さん達行きつけの美容院あったじゃん。あそこらへんにあったよな」


「そこ無くなってる……」


「あ、マジぃ?はー、三年経ってるってのを感じるわ」


「……最近出来たとこがあるから、そこ行こ」


「おっけ」


 そう言って自然と俺の前を歩き始めた華の背中を見て、懐かしい気持ちになった。昔から俺らが何かする時は大体華が先頭に立って俺は付いて行くバターンが多かった。


 昔を思い出して頬が緩むのを感じながら、俺はかじかんだ手をポケットに突っ込んだ。





 ☆




 ファミレスで飯食った後は近くのショッピングモールを適当にぶらつくことになった。イベントのショー見てみたり、フードコートでクレープ食ったり。特に面白かったのはゲームコーナーだった。


「これと似たようなの滅茶苦茶流行ってたよな。ほら、でっかい剣が生えてるヤツ」


「剣押し込むと必殺技が打てるヤツ?」


「それそれ。今どうなってんのかなっと……なんじゃこれ」


「紙……?」


 懐かしのアーケードゲームの最新版みたいなヤツをやってみたら、昔みたいなカードじゃなくてペラペラのシールみたいなのが出てきて何とも言えない気分になったり。


「クッソ!昔から思ってたけど、ぜってえ一発で勝てねえようになってるよなこれえ……あ?そっち勝ってね?メダル大量じゃん!すげえ!」


「……へへ、これコツがあるんだよ」


 現役何年目なんだっていうメダルゲームで遊んだり。


 室内の熱気と、ゲームコーナー特有のあの騒がしい音。徐々に華の口数が増えていったのはそこらへんの雰囲気が良かったのかもしれない。


 で、その後はカラオケに行こうって話になった。


「お前……歌が絶妙に上手くないの、変わってないのな」


「う、うるさい!海斗も歌ってよ!同じ曲でいいから、ほら!」


「おっけー。――――どうよ?」


「……海斗も下手じゃん。私の方が上手いよ」


「はあ!?俺の方がうめえって!」


 流行りの曲、定番曲を順番に。たまに音楽の授業で歌った曲を入れてみたり。ここら辺からはもう、それまであった余所余所しさとか遠慮みたいなもんは無くなってたな。その代わりなんか空気悪くなった気がしたけど。


 ……それはともかく、カラオケから出た時にはもう結構な時間だった。日が暮れる前に帰るかって話をしすると、それまで調子の良かった華が気落ちしたような顔になった。


 俺は、それを見てホッとしたし、嬉しかった。少なくともこの時間は華にとっても、ただ純粋に楽しかったんだなって思えたから。


 と同時に、一つ思いついた。そういや今日、身体動かしてねえなと。

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