第11話 父、帰宅する

(は?コイツなんで入れ替わってることまで分かるんだ)


俺は、半田のその言葉を聞き一瞬はっとしてしまう。


「え、入れ替わりなんのこと?」


俺は、白々しい態度でそう言った。


「お前、一瞬動揺しただろ。やっぱり入れ替わってることは間違いないな」


半田はニヤッと笑いながら、頷く。


(コイツ、何者なんだ?怖ええ)


「飯島の偽物、そんな怖がんなくていいよ。俺はお前の味方だ。それだけ言っとく」

「え…」


心の中が覗かれているようで怖かったのと急な味方発言で、俺は言葉が詰まってしまう。


「もう、暗いし帰るか。さっき言った通り途中まで送るよ」

「う、うんありがとう」


そして、俺は咲希のクラスメイトの半田という人物と2人きりで駅まで帰ることとなった。

(この状況側から見たらやばくね?男女2人きりとか咲希が変な誤解されちまう)


そんな風に思いながらも、緊張しながら帰り道をひたすら歩く。

色々な学校の下校する生徒の声、車道を走る車の音色々な音が聞こえたがそれどころではなかった。

そして、終始無言だった半田が口を開く。


「お前さ、そんな緊張しなくていいから」

「わ、わかった」

(こいつは、超能力者か。なんでそんな人心読めるんだよ)


さらに歩き、電車の音が聞こえてくる。

駅に到着した。

こいつと、さっさと離れたかったので徐に俺は別れを口にする。


「じゃ、じゃあ私はここで」

「飯島の偽物、今日は疲れただろうからゆっくり休めよ」


何から何まで意味深めな発言をする半田。

俺は、こいつの発する言葉一言一言に緊張していた。


「うん、それじゃあ。さようなら」


俺は、背を向けさっさと改札に入ろうとした。


「本物の飯島咲希によろしくな」


背中でその言葉を受け止め俺はゾッとした。

そして、俺はそのまま改札の中へ入りホームに行く。

(あいつ、俺たちのことどれだけ知ってんだ…)


「まもなく、1番線に電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください」


また、朝と同じ人がパンパンの電車に乗り込む。


サラリーマンの帰宅ラッシュにぶつかり辺りはスーツを着た俺みたいなおっさんばかり。

(しっかし、咲希の人生も大変だなあ。アイツいつもこんな面倒な生活送ってたのか)


胸が痛くなる。


俺は、自分の娘の人生の大変さ、理解の足りなさを突き詰められへとへとで満身創痍になっていた。

(はあ、家帰ったら咲希に停学の件なんて言おうか…)


物思いにふけっていると、電車はゆっくりと停車し自宅の最寄駅へと到着する。

電車から降りれば、あとは自宅へと歩くだけだ。

自宅への道。

辺りは、もう暗くなり電柱の光なんかが目立つ。

大通りは、車のライト、コンビニや店の光で明るいが住宅街に入るともう寂しげな雰囲気になる。

(この角を曲がると我が家か…)


俺は、早く家に帰り休みたい気持ちと改めて娘に会う緊張感。

これまでにない、ぐちゃぐちゃな気持ちで家のドアを開ける。


「ただいま」


家に入ると、リビングから妻の咲月が出てきて出迎えてくれた。


「もう、咲希またこんな遅くなって!」


咲月は、眉間にシワを寄せ俺には普段見せない表情で俺を叱る。

(咲月のやつ入れ替わってること忘れてんのか)


「おい、咲月、俺は飯島直希。お前の夫だ。今朝咲希と入れ替わっただろ」


そう指摘すると、咲月は思い出したのかハッとした表情になり急いで俺に謝ってきた。


「ごめんなさい、お父さんだったわね。とりあえずリビングで休んで」

「ああ、咲希は?」

「まだ、帰ってきてない」


靴を脱ぎ、制服姿でスカートをヒラヒラとさせながらリビングへと向かう。

(はぁ、咲希のやつまだ帰ってないのか…。でも、もう会社終わる頃だよな)


リビングのソファーへと腰をおろす。

1日の疲れをソファーが吸収してくれるかのような感覚だ。


「お父さん、じゃなくて咲希遅いわね。もうご飯できてるのに」


咲月は、ダイニングの椅子に座りながら不安そうな顔でそうぼやく。


「今日は、会食も面会の予定もないからもうすぐ帰ってくるだろ」


俺は、咲月の独り言に反応する。

しばらくすると、車のエンジンの音が家の前から聞こえてきた。

すると、控えめに玄関の扉が開く音がする。


「ただいま」


いつも、俺が発してる声が聞こえてくる。

不思議な感覚だ。


咲希が帰ってきた。

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