第2話 汚れなき美しく


 女は屁をしない。


 ──Cはそう断言します。



「当たり前じゃない。あんなのは男の特権よ。女があんなのをすると本気で思ってんの? やめてよ。屁ってナニって感じ」


 付き合って二年、同棲してもうすぐ一年の彼女。そういえば僕はしぃが屁を放った瞬間を目撃した事がなかった。


「トイレでしてるだけだろ。だってしぃいつも言うじゃん。女のトイレの後にすぐ入るな! って。臭いからって」


 そう言った次の瞬間、しぃはまるで透明にでもなったかのようにその存在を虚ろにした。


 そして、視線だけを僕に向けてくる


 静かに、けれど圧力はしっかりと込めた視線を。


 じー……と、


 じー……と、


 じー……と。


「……しぃ、ごめんなさい。臭いからとかって、言ってもない脚色までしたことも含め、本当にすいませんでした」


「あ、二度目は無いから」


 無言の圧力、ようやく解除。


 しぃはどうすれば僕が屈するかを、誰よりもよく知ってる素敵な彼女。


 女は屁をしない。


 子供の頃に母や姉や叔母やらが、ブッ。としたのを耳にした事があったような気もするのだけど、それはきっと彼女らが女ではなく、母さん、姉ちゃん、親戚のおばちゃんという特別な種類だからだ。


 しぃは屁を放たない。


 まだ女という汚れなき美しい生きものだから。

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