1・2  親友は王子様

「ヴィー!」

その声に起き上がる。笑顔で手を振りながらやって来たのはアルだ。そうして隣に腰をおろす。


さっきも話した通り、アルは王子様だ。けど、家族ぐるみの長い付き合いだから、アル本人もうちの使用人たちも、お客様として認識していない。というより、王子様としての認識もしていないのかも。

彼が訪問したからといって、メイドが知らせにくる訳でもなく。執事が彼を案内するわけでもなく。自分の屋敷にいるかのような気軽さだ。


「やあ、アル。きのうぶり」

「うん、きのうぶり。調子はどうだい?」


 アルはフリスビー事件後に混乱しているわたしを見て、だいぶ責任を感じたらしい。

もともと三日とおかず集まっていたわたしたちだけど、事件後からは毎日うちへやってきて、わたしの様子を心配してくれている。彼はまったく関係ないのにね。


「なんの問題もないよ。それよりぼくはアルが心配だよ。毎日うちに来てばかりで陛下や家庭教師の先生たちに怒られないかい?」

「怒られるわけないだろ。大事な恩人になにかあったら困るからね」

「そんな大層なことはしてないけどなぁ」


 だってフリスビーからかばっただけだよ?


「ヴィー。きみはぼくの大事な恩人だよ。いつもいつも助けてくれて、ほんとうにありがとう。世界一の親友だ」

 そういうアルの顔は恐ろしいほど真剣で。

 雰囲気に気押されたわたしは、うん、とうなずくことしかできなかった。


 そもそもアルはとんでもない美少年。女子高生の記憶を取り戻しちゃったわたしには、目の毒すぎるんだよね。

 さらさらの金髪に濃い碧の瞳。白磁のような肌。顔の造作はもちろん完璧。

齢十歳とは思えない、いや十歳だからこそなのかな。美少女と見まごう美しさ。


 ……まぁ、それも当然か。

 だってアルは乙女ゲームに出てくる王子様。前世の世界の女子たちが惚れ込むようなキャラに作られているんだもん。






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