1・4 妹たちは悪役令嬢

 かわいい妹、ミリアムがそのうち悪役令嬢になる!

 というのも、前世を思い出したわたしがパニックになった理由のひとつだった。例外に漏れず、ミリアムの末路は悲惨なんだ。


 彼女が悪役令嬢として活躍するのは、アルベールルートとヴィットーリオルートのふたつ。

 アルの方では彼に恋するあまり、主人公に意地悪をしまくる。

 わたしの方では、大好きなお兄さまに主人公は釣り合わないと憤慨して、意地悪をしまくる。

 どっちのルート、どんなエンドでも、最終的に彼女は、自分の狭量に嫌気が差して修道院に入ってしまうのだ。


 いやいやいや、そんなのダメでしょ。

 ミリアムは兄思いのとっても優しい子だよ?  そんな意地悪をするような子じゃないよ?

 今のところアルのことも友人としか思ってないようだし、あと五年で何がどうなって、そんな悪役になってしまうのか、さっぱりわからない。

 わからないけど、全力で阻止しないと!

 ミリアムもわたしが守る!







 途中でわたしたちを呼びにきたウェルトンと合流して三人で屋敷に戻ると、ちょうどテラスにお茶の席が設え終わったところだった。


 円卓の中央には見たこともないかわいくデコられたカップケーキが、山と盛られていた。


「うわぁ! かわいい!」


 思わず声をあげると、ミリアムが相好を崩した。


「でしょう ? このカップケーキが今、とても話題になっているのよ。ヴィーを驚かせたくて内緒で買ってきてもらったのよ」


 ヴィーは、“わたし”としての記憶を取り戻す前からかわいいものと甘いものが大好きなんだ。

 ミリアムの影響なんだろうけど、そんな”わたし”との共通点があるから、先になってしまったのかなあ。


 ああ、でも、兄を驚かせたいなんて、なんてかわいい妹なんだろう。

 レティと、やったね!とハイタッチしている様は無邪気そのもの。天使みたいだ。


 ミリアムとわたしは双子だけど、あまり似ていない。銀の髪だけおそろいで、瞳はこの世界でも珍しい紫。わたしが美人系なのに対して愛らしいかわいい系。


 この子をどうやったら守れるか考えたとき、最初に考えついたのは、『お兄ちゃん大好き!』のフラグを折ることだった。

 けど、それは無理。だってわたしもミリアムが大好きだからね。嫌われるようなことはできないよ。




 わたしはミリアムの隣に、アルはレティの隣に座わる。

 うちと違ってアルとレティの兄妹はよく似ている。二人は髪と瞳の色も、華やかな容貌も同じ。こちらのほうが双子みたい。


「ジョーは来ないのかしら」


 呟いたのはレティ。淋しそうな顔をしている。

 レティは。ジョシュアルートの悪役令嬢になるんだよね。ゲームの時点ではふたりは婚約をしている。当然ジョーに接近してくる主人公をレティは嫌い、意地悪をする。

 そして彼女の場合も、どんなエンドを迎えても、修道院に入ることになっている。


 彼女はひとつ年下だから、本来なら学園に入学する年度は違うはずなんだ。けれどなんでかみんなと一緒に入学している。ゲーム内では『特例』としか説明されていないんだよね。


 ジョーと婚約するからなのかなぁと思う。すでにレティからはジョーが大好きなオーラがばんばん出てるんだよねー。

 レティの純粋な恋心は応援したいし、レティ自身も守りたい。




 うーん。わたしひとりで守るものが多すぎやしないか?

 でも未来を知っているのはわたしだけだし。大事な人たちが傷つくのを知っててスルーなんてできる訳ないし。

 がんばるしかないよね。


 きっとそのために前世を思い出したんだな。


 いつの間にか、無心でカップケーキをもぐもぐ食べていたらしい。ミリアムが不安そうな顔で、口に合わなかったかと聞いてきた。


 いけないいけない。

 美味しいよと答えれば、彼女はほっとした顔をする。

 うーん、表情がくるくる変わって本当にかわいい。

 ミリアムが他人に意地悪をするなんて、考えられないんだけどなぁ。

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