016:ミミックVSキングラット〝我慢比べ〟

 殴られ、蹴られ、それでも食べて、食べて食べて食べて……。

 宝石なのか、魔石なのか、武器なのか、防具なのかもわからない。 (大人のおもちゃの時もあるぞ)

 殴られた先、蹴られた先にあるものをひたすらに口の中に放り込む作業。

 時々反撃してみるも、通じるはずもなく……。

 だけど私は諦めずに食べ続けた。


 私の体が限界を迎える直前、脳内であの声が響き渡った。


 《個体名〝ミミックちゃん〟はレベル7に上がった》


 レベルアップを告げる声とともに私の体は回復。そしてより一層頑丈な体へと生まれ変わった。


 よっしゃー!!

 痛みもさっぱりと消えて元通りだー!

 時間は掛かったけどちゃんとレベルアップできたぞー!


 レベルアップしたからと言って、キングラットと対等に戦えるかと問われれば、そうではない。

 格上なのには変わりない。

 なら、格上相手の戦い方をしたらいいだけ。

 弱者には弱者の戦い方があるんだっ。


「キィイイイイ!! (うぉおおおお!!)」


 我慢比べだ。


 私は攻撃を受け続ける。でも魔石を食べてレベルアップして回復する。

 キングラットは私を攻撃し続ける。何度も回復する相手に体力もじわじわと削られてるはずだ。


 格上相手にはこうした戦い方が効果的だって、昔やったゲームで学んだんだ。

 時間をかけてじわじわと。我慢比べで勝つ。

 それが格上相手の戦い方。

 それが弱者の戦い方だー!


 ――ガリッ!!


 この味は魔石だ。


 ――ぐはぁッ!!


 急所に当たったぞ。めちゃくちゃ痛い。


 ――バリボリッ!!


 チッ。ハズレだ。

 武器か防具の破片だな。


 ――がはぁッ!!


 くっそ。なんて威力の蹴りなんだ。

 我慢比べって言っても、その我慢が全然対等じゃない。

 一撃一撃が確実に重い。

 それなのにこっちは魔石を食べられずに失敗することだってある。

 不運が続けばゲームオーバーだな。

 なんてベリーハードな戦いなんだ。

 コンティニューだってできないんだ。

 一回一回が命懸けだ。


 殴られ、吹き飛ばされた先で舌を伸ばす。

 そして確認する余裕もなく舌の先にあるものを掴み、口の中へと放り投げる。

 咀嚼する力はある。自らの力で咀嚼して味を確認。

 宝石や魔石なら成功。その他なら失敗。

 成功か失敗か判明したときにはまた吹き飛ばされる。

 再び吹き飛ばされた先で舌を伸ばす。

 これの繰り返し。

 もはや作業ゲーってやつ。

 体力もそうだが、精神的にも削られていく。


 まあ、精神的にきついはあっちも同じだよね。


 キングラットは不死身とも思える私を見て、驚きと不安を混ぜ合わせたような表情をしている。

 このままキングラットが諦めてくれるのが一番いいけど……。

 そんなことはないってわかってるよ。

 だってモンスターだから。

 私たちはモンスターだから。

 敵が目の前にいるんなら戦わないと。そして倒さないと。

 それがモンスターの生きるすべだもんね。

 そうじゃなきゃ私と戦ったゴブリンたちは逃げ出していたはずだ。

 最後の1体になっても勇敢に立ち向かってきた。

 きっとあの時のゴブリンも今の私と同じ気持ちだったのかもね。

 絶対負けてやるか、ってそんな気持ちだったかもね。

 だから立ち向かってきたんだ。


 ここで心まで殺られたら、あの時のゴブリンにも負けた気分になる。

 だから私は何度でも立ち上がるぞ。

 先に精神崩壊してもいいんだよ? キングラット!


「ズズズズズラァアアア!!!」


 ――ぐほぉッ!!


 なんて威力の拳……怒りで威力が増してる。

 差し詰め精神のキツさを怒りで誤魔化したってところだな。

 怒りは自分を滅ぼすだけだぞ。冷静さが欠けたらできるものもできなくなる。

 これも格上相手に戦ったゲームで学んだことだ。

 地道な作業を一生懸命こなした先に勝利がある。

 その勝利を私は掴むんだ。


 ――ガリガリッ!!


 よしっ!! 魔石だ。

 レベルアップは……まだか。


「ズズズズゴォオオオオオ!!!」


 かかと落とし!?

 これは喰らったらやばいぞ!


 ――ぎゃはぁあー!!


 な、なんとか躱したけど、あれを喰らってたら本気でやばかった。

 死んでたかもしれない。


 あぁ、そうか。

 切羽詰まってるからキングラットもついに本気を出したんだな。

 そして認めてくれたんだ。私を厄介な敵だと。

 ちょっと早すぎるかもしれないけど……こうなってしまったんなら仕方ないよね。

 私もさっき以上に動かないと。

 1撃受けたらゲームオーバーになる可能性もあるからね。


「ズズズズガァアアアー!!!」


「キィイッ (危ないっ)」


 レベルが上がったおかげかギリギリだけど躱せるぞ。本当にギリギリのギリギリだけどね。

 ならレベルが上がった瞬間から躱しまくればよかったんじゃないか?

 でもそれだと魔石を食べてる余裕がないっ。

 今だって躱すのに精一杯で魔石を食べてる余裕がない。


 くっそ。これだとジリ貧だ。

 状況が悪い。

 やっぱり1撃受けて吹き飛ばされないと……いや、無理だ。

 怒ってる状態のキングラットの1撃は無理だ。受け止め切れない。


 うひぃいいい。

 今のも危なかったぞ。

 足技もしてくるから気をつけないとっ!!


 攻撃を躱し続けた私は、キングラットの背後へと移動した。

 私の目にはなんとも隙だらけのキングラットの背中が見えている。


 逃げる? いや、ダメだ。すぐに追いつかれる。

 魔石を食べる? いや、絶対に間に合わない。

 それなら……こうするしかない!


 必殺――噛み付き攻撃ボックスファングッ!!!


 ――ガブッ!! (反撃だっ!!)


「ズズズァアアアアッ!!」


 私はキングラットのお尻を噛んだ。

 別にお尻を噛みたいって趣味はないんだからね。

 柔らかいお尻の方がダメージが通るって思ったの。

 って、全然柔らかくねー!!

 なんて硬いお尻なの?

 これ全部筋肉!?

 でも私の顎と牙は宝石をも噛み砕くほど強靭きょうじんよっ!!

 そう簡単に離れてあげないんだからっ!!


 お尻をかじる私を振り払おうとするキングラット。

 激しい動きだけど、振り回された時と比べたら、全然目なんて回らないわっ。

 手も届かないみたいだし、お尻が弱点みたいねっ!


「ズズズァアアアアアアー!!」


 よしっ、効いてる効いてる。

 このままじわじわとダメージを…………え?


 私の体が宙へ浮いた。

 否、私だけじゃない。キングラットの体も一緒だ。


 これって……まさか……!?


「ズズズズズラァアアアー!!!」


 ヒップドロップ!?


 ――ドゴガーンッ!!!


 凄まじい跳躍からのヒップドロップ。

 金銀財宝の山は雪崩のように崩れ落ちる。

 そして金銀財宝の山から金銀財宝の絨毯と化した床に私は転がった。


 あ、危なかった……。

 お尻をかじり続けてたらぺちゃんこに潰されてたぞ。

 というか対応力早すぎ。もうお尻かじれないじゃん!!

 柔術じゃない限り近付いての攻撃は危険だな。

 くっそ。いけると思ったのに……次の手を考えないと。


「チュチュチュチュッ」


 スモールラットめ。見つけるのが早いんだよ。

 これじゃ考えてる暇なんてないじゃんか。

 だけど、こうして金銀財宝の山が崩れてくれたのはありがたい。

 魔石を食べれる確率がぐーんっと上がったからねっ。

 今だって、ほら!


 ――ガリガリッ、ボリッ!!!


 2個も食べられたぞ!

 まあ、1個は大人のおもちゃだったけど。 (まじでなんでこんなにあるの?)

 でももう1個は確実に魔石だ。

 味はそんなに美味しくなかったから、きっと経験値も少ないはず。

 でもレベルアップには1歩近付いた。


「ズズズズズラァアアー!!」


 キングラットの怒りの咆哮だ。

 さっきよりも怒ってるよね。

 そりゃそうか。

 お尻をかじられたんだからね。


 さて、ここからまた我慢比べの長期戦だ。

 戦術は変えないぞ。

 格上相手の戦い方はこれしか知らないんだからっ!!

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