012:名探偵ミミックちゃん

 意識が覚醒した私は目の前の光景に驚きを隠せずにいた。


 えっ……うそ?

 そんな……。


 すぐ傍に置いておいた50個の魔石。

 それが私が寝ている間に5個になっていた。


 何者かに魔石を盗まれた?

 それ以外考えられないよね。


 ちょっと待って!?

 私は? 私は何もされてないよね?


 自分の体を確認する。

 舌を使って自分の体のありとあらゆるところを触って確認。

 もちろん目でも異常がないか確認する。


 うん。大丈夫。異常はない。


 よかった。

 寝込みを襲われたんじゃたまったもんじゃないからね。

 でも何者かが私の熟睡中に魔石を盗んだことは確かだ。


 でもなんで5個だけ盗まなかったんだろう。

 私のことが可哀想に思えて、おなさけでもかけたのかな?

 いや、見た目が完全に宝箱の私におなさけなんてかけると思うか?

 かけないな。


 むしろ魔石を盗むような卑劣ひれつな野郎が宝箱である私を盗まなかったのは何で?

 それこそ罠だと――ミミックだと見抜かれてた?

 いや、私が宝箱だからこそ、盗んだって感覚はなくて、拾ったって感じか。

 それでも5個だけ残していくのは不自然だ。


 う〜ん。


 まあ、いいか。

 私は無事なんだし。考えても答えなんて出ないしね。

 それに私の不注意が招いたことだし。

 忘れよう。忘れよう。

 異世界なんてこんなもん。洞窟なんてこんなもんだよねっ。


 頭がえたせいで目が覚めちゃったな。

 残った魔石でも食べて出発するか。

 寝起きだけど5個くらいは食べれるもんねっ。

 盗まれた魔石のことも考えながらしっかり味わうとするか。


 それじゃ、いただき――


 魔石に向かって舌を伸ばそうとした時だった。何者かの気配を感じた。

 こちらに向かってくる気配。それに小さな足音。

 私はすかさず舌を戻し、じっと様子を伺う。


 ――トタトタトタ……


 小さな足音が近付く。

 薄暗くてよく見えないけど、足音は近付いてきている。

 もう少しで見えそうだ。もう少しで……


 ――トタトタトタトタトタッ!!


 ネズミ!?

 ネズミの魔獣だ!


 そうか。私の魔石を盗んだのはあいつか!

 ネズミさんの小さな体でも魔石くらいは運べそうだ。

 逆に宝箱なんて大きなものは運べない。

 それにネズミほどの小さな生き物なら熟睡中に気付かなくても不思議じゃない。

 点と点が繋がったぞ。

 あっ、こんな状況にピッタリのセリフがあるぞ。言ってみたかったセリフナンバーワンのっ。


 魔石を盗んだ犯人はあなただ。ネズミさん!


 くぅうううー!!!

 探偵みたいでかっこいい。

 言ってみたかったんだよね〜。


 女探偵ミミックちゃん。

 見た目は宝箱、頭脳は大人、ってね。

 なかなか良いんじゃない?

 人気出そうじゃん。


 って、そうじゃなーい!!!

 ネズミさん絶賛窃盗せっとう中じゃないですかー!!!

 あら? 両手で持ち上げて力持ちね。さすが異世界のネズミさん。すごいや。

 って、感心してる場合じゃない!

 現行犯逮捕しなければっ!!


 ――いや、待て。待てよ。

 ネズミさんの跡をつけていけば、盗まれた魔石も見つかるかもしれないぞ。

 それはいい案だ。今日の私は冴えてるぞ。

 よしっ。尾行作戦決行だ!


 すり足、差し足、忍び足。

 さささっと。

 すり足、差し足、忍び足。

 バレずにゆっくりと。


 ――トタトタトタトタトタッ……チュンッ!


 おっ、曲がった。

 見失ってはいけない。急がなければっ!!


 おおおー!!!

 ここか!

 ここがネズミさんの巣か。

 ネズミさんがいっぱいだっ!!

 それなんて数の宝石なのー!?


 私の瞳に映ったのは金銀財宝の山だった。

 宝石はもちろんのこと、剣や防具、その他価値のありそうなものが山のように積まれている。

 剣や防具があるってことは、この世界にも人間がいるって証拠だよね。


 やっふぉーい!

 初めて証拠らしい証拠を発見したぞー!

 イケメン冒険者も存在するぞー!

 イケメン勇者様だって存在するぞー!


 くぅううううー!!


 こうしちゃいられないな。

 魔石を取り戻して早くこの洞窟から出よう。

 あぁ、異世界の男たちをこの目で見たいっ!

 そして私の〝初めて〟を奪って欲しい!!!


 そのためにもまずは盗まれた魔石を取り戻し……ついでに宝石も頂いちゃおうかしら。

 どうせこの宝の山もネズミさんたちが盗んだものなんでしょ?

 なら私がちょっとくらい頂いても問題ないよね。


 でもまあ、よくここまで集めたよなぁ。

 襲われた形跡とかゼロだし。

 他のモンスターたちは宝石とかに興味がないのかな?

 レベルアップに必要な材料だと思うんだけど……。

 まっ、何でもいいか。


 私に手が付いてれば、剣とか盾とかも頂いてたんだけどね〜。

 流石にこの体じゃ剣を振ることも盾を持つこともできないからなぁ。

 いや、体に埋め込めばワンチャン……できなくはないか。


 とりあえずネズミさんたちに気付かれないように宝の山に近付こう。

 気付かれても問題ないと思うけど、かじられるのは嫌だからね。


 すり足、差し足、忍び足。

 さささっと。

 すり足、差し足、忍び足。

 バレずにゆっくりと。


 ん?

 なんだろう。

 ネズミさんたちが突然震え出したような。

 怯えてるよね?


 あっ、わかったぞ。

 原因はあれか……。


 金銀財宝の山のすぐ傍でのしのしと歩く巨大なネズミがいる。

 きっとここのボス的存在なんだろう。存在感ありすぎっ!

 キングラットとでも呼ぼうか。

 うん。ピッタリの名前だ。 (王冠頭に載せてるし)


 オーガよりも大きいな。

 ドラゴンよりは少し小さい感じかな。

 でも横には大きいぞ。ぶくぶく太り過ぎだよ。

 何食べたらあんなになるんだ。 (私も気をつけないとな)


 はい、撤退、撤退〜。

 キングラットなんかに見つかったらタダじゃ済まなそうだからね。

 ここは大人しく撤退だ。


 バレないように……って、キングラットさん、なんかこっちに向かってきてない?

 もしかして私の存在に気付いた?

 宝の山を狙う盗賊だと思ってる感じ?

 やばいやばいやばいやばい!

 今すぐここから逃げないとっ!

 エスケープ! エスケープッ!!


 って、うぉおおおおおー!!

 遅かったっー!!!

 捕まった! 捕まってしまったぞー!!

 このまま握り潰されてしまうー!


 ん?

 って、あ、あれ?


 宝の山に置かれたんだが?

 もしかして宝の山から転がり落ちたって思った感じ?

 私をただの宝箱だと思った感じ?


 ふーっ。

 セーフ。

 危なかった。宝の山を狙う盗賊だと思われてたら殺されてたよ。

 このキングラット確実に私より強いだろうしね。

 危なかった。危なかった。


 とりあえずは助かった。

 助かったけども……


 私、キングラットのコレクションにされちゃったー!!!!

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