009:それがモンスターの生きる術

 私ひとりにむらがる100人の男たち。

 他の女にうらまれても仕方ないわね。

 モテるってこんなに罪なことなのね。


 あぁ、私はなんて罪深つみぶかき女なの。


 って、そんなこと言ってる場合か!?

 相手はゴブリンだぞっ!

 性欲魔物の下劣げれつなゴブリンだぞ!

 モテても、ちっとも嬉しくなーい!


「じゅりゅらぁぁぁああ!!!」


 気のせいだろうか。

 さっきから私の体を求めているというよりは、攻撃を仕掛けてきてるって感じがしないでもないんだが?

 性的な目から鋭い眼光に変わってる気がしないでもないんだが?

 もしかして私、敵としてみなされた感じ?

 性の対象から外された感じ?

 ……もしかしてじゃなくて、そうだよね?


 それならなおさらこの状況やばいぞ。

 なんとか攻撃とか触れられるのはかわし続けているけど、この場から逃げるのが困難だ。

 だからこの場から逃げずにこうしてかわし続けてるんだけど。


 正直な話ゴブリンの動きは遅い。

 基本的な身体能力はミミックの方が上。

 だけど、その身体能力を補うだけの数が……。

 とにかくゴブリンたちの数が多すぎる。


 何か良い策はないものなのか?


「じゅりゅらぁぁぁああ!!!」


 あぶなっ。棍棒こんぼうとかずるくない!?

 こっちは武器とか持ってないんですけどー!?

 あぶなっ。うわっ、こっちからも攻撃が!


 このまま攻撃をかわし続けてもジリ貧でしかないぞ。


 思いっきり飛び跳ねて逃げるか?

 いや、空中だとさすがに無防備になりすぎる。

 それに着地地点にもゴブリンたちがうようよいるぞ。

 飛び跳ねるのは流石に無理か。


 他の手はないか?

 壁を走って……無理だ。壁なんて走れない。 (そもそも足ないし!)

 空は……空なんて飛べるはずないだろ。私ミミックだぞ。 (飛べたら最初からやってるわ!)

 地面を……掘って進めるわけないよね。うん。無理だ。

 手段ゼロ。逃げ道ゼロ。私詰んだんじゃね?


 いや、まだだ。

 きっと攻撃をかわし続けていれば、奇跡が起きるはず。

 まだまだ体は動くんだ。動けなくなったとしても根性でなんとかしてやる。

 奇跡が起きるまで、諦めるもんですかー!


「じゅらぁあああああー!!!」」


 くっそ。こっちは疲弊ひへいしてきてるのに、あっちは元気いっぱいだな。

 そりゃそうか。交代しながら私に攻撃を仕掛けてきてるんだもんね。

 私を逃さないようにしっかりと道も塞いでるし。

 しっかりと死角からも攻撃してきてるし。

 意外と賢いんだな。最悪だ。

 もっと知能が低ければ楽だったのに。


 だから早く! 早く奇跡よ起きてくださーい!

 私を助けにきてよ! イケメン冒険者さ〜んっ!


「じゅじゅらぁああああー!!!」


 や、やばい!

 取っ手の部分を掴まれた!

 一番警戒してた部分だったのに。

 くそっ。油断した。


 すぐに離れないとっ!


「キィイイイイイー!! (手を離せー!!)」


 な、なんて力なの!?

 って、違う。これは1体の力じゃない。

 何匹ものゴブリンたちが力を合わせてやがる。

 大きなカブを取ろうとする昔話みたいにっ!


 くっそ。無理だ。私の力じゃ振り払えない。


 一度掴まれたら終わりの戦いだったか。

 本気で詰んだぞ、これ……。


「「「じゅりゅらぁああああー!!!」」」


 動きを封じられた私に向かって、ゴブリンたちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 拳で殴るものもいれば、蹴ってくるものもいる。

 石斧で殴るものもいれば、棍棒こんぼうで殴ってくるものもいる。

 容赦がない。容赦なんてしてくれるはずもない。

 なんで私がこんな目に遭わなきゃならないの?


「ギィィギィィギィイイ (痛い痛い痛い痛い)」


 私の丈夫な体が破損はそんしていく。

 ここまでの攻撃に耐えられるはずはなかった。

 ドラゴンの炎を耐え抜いたことが自信になってた。

 だってあのドラゴンだよ?

 ゴブリンと比べものにならないほど強いモンスターだよ?

 だから調子に乗っていたのかもしれない。


 強さなんて関係ないよね。

 相手はモンスターだから。

 本気で殺しにかかってくるよね。

 それがモンスターたちの生きる術なんだもんね。


 痛い痛い痛い痛いいたい――


 この痛みも調子に乗っていた私へのばつだ。

 そんな私に奇跡なんて起きてくれないよね。

 いや、奇跡は起きたか。

 ドラゴンカップルから逃げ切った時に。

 あの時点で運を使い果たしてたのかもしれない。

 ううん、もっと前だ。

 ミミックに転生した時点で運なんて使い果たしてる。


 でも……でも、でもだ――!!!


 私は力を振り絞り、体を回転スピンさせた。

 体から取っ手の部分が飛んでいったのがわかる。

 破片の無残に飛び散った。

 その代わりゴブリンたちが警戒を始め私から距離を取った。


 奇跡なんて起きない。

 運も使い果たした。

 だからって諦める理由にはならない。

 そんなもん、前世の時から一緒だろ。

 誰も助けてなんてくれなかった。

 奇跡なんて起きてくれなかった。

 今振り返ってもろくでもない人生だったよ。

 仕事三昧の33歳。年齢イコール彼氏いない歴。もちろん経験人数はゼロよ。

 ろくでもない人生だったからこそこの体――ミミックの体もすぐに受け入れられたのかもね。

 走馬灯のせいでろくでもない人生を思い出しちゃったじゃない!  (ふざけんなよっ!)


 だからこそ無性むしょうに腹が立つ。

 このまま死んでたまるか、ってね!

 それに私はまだイケメン冒険者を拝んでない!!

 箱生はこせい最後に見た生き物がゴブリンだなんて最悪すぎる。


 何もせずにくだばるくらいなら、やってやろうじゃないか!

 私だって、モンスターだ!!

 戦ってやる! 戦ってやるぞっ!!


 私だってミミックに転生したって判明した時に薄々覚悟してたんだ。

 いつか戦う日が来るんじゃないかってね。

 イケメン冒険者が、可愛いミミックちゃんが、宝石が、って現実逃避して隠していたけど、戦わなきゃいけないってわかってる。


 戦うこと――それがモンスターの生きるためのすべなんだから!

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