第10話 親友からの矛盾
まぁそんな暗い話は置いといて、誰からの返信かな。
液晶板を操作してMINEを開き、連絡主を見てみると、
「って、風雅じゃん。部活の休憩時間か?」
結局連絡が来るのは親友だけか。
そんな事を思いながら風雅が送ってきたメッセージに目を通す。
瞬間、思わず首を傾げてしまう。
なぜかって?理由は、この前言ったことと矛盾しているからだ。
風雅から届いたメッセージはこうだ。
『明日から2週間、澄玲を寝取るのはやめてくれ』
短くもないし、長くもない極普通……ではないけど、ただの文章だ。
けど、この前風雅は好きなようにやってくれと言った。それは早く柳原から逃がしてくれ、という意味で捉えたのだが……。
「ハッ、まさか……!」
柳原に寝取られせようとしたことがバレて、少しの間様子を見てくれってことか!
いやでも、そう考えても早く助けた方がいいよな。長く付き合わせる方が風雅にとって苦痛だろうし、俺としても不安だ。
すまん風雅。ここは俺の意志を尊重させてくれ。
手を合わせ、心にいる風雅に謝っていると、電話を終えたのかどこか気まずそうな柳原が帰ってきた。
「やっと帰ってきた。無言で何処かに行くのはどうかと思うぞ?」
「あ、え……っと、それは、ごめん?」
「……?」
表情だけでは判断できないと思って声をかけてみたが、明らかに動揺している。
目は泳いでいるし、いつの間にか俺の方に寄っているポテトにも気が付かないほどに、動揺している。
「どうした?今の電話でなにかあったのか?」
「あーうん。まぁ……」
チラっと時計を見た後、なぜか自分のカバンをソファーの奥に置き、俺の耳元へと口を近づけてくる。
「絶対言わないでね」
「お、おう」
いきなりの囁き声に身を震わせてしまうが、声に覇気が感じられない柳原を退かすこともできず、我慢して耳を傾けた。
「この2週間、毎日私と帰ってくれる?」
「……はい?」
「私からの一生のお願いでもいい。一緒に帰って」
やっと声に覇気が戻ったかと思えば、柳原の言葉には熱願が籠もっている。
「理由は?」
初めに理由を説明しなかったから言えないことなのだろう。
そうは思っていても、怪しい人の願いをそう簡単に聞くことはできない。
たった今、風雅から2週間柳原を寝取るな、というMINEが来た。そしてその直後にこれだ。
怪しいという言葉以外になにがあるだろうか。
俺が生活している中で、これを怪しい以外の言葉で表せる言葉を見たことがない。
「理由は……言えない、と答えたら?」
「なら一緒に帰れない」
「……柏野が信じてくれる訳がない……」
「信じてくれる訳がない?」
俺の言葉を聞いて諦める気になったのか、耳元から顔を離した柳原は色の灯らない目をこちらに向け、
「実際に見てね」
という言葉を残してワクドナルドを去って行った。ポテトとハンバーグを少し残して。
いきなりのことで訳も分からない俺は、とりあえず残すのも悪いと思い、ポテトを1つ摘んで口の中に放り投げるのだった。
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