第8話 食べるものは同じなんだよ
結局分からずじまいで会話は終わってしまい、考え込む俺は目を細めていたのだが、ワクドナルドを前にそんなものは今考えても解決するわけもないので、一時思考を停止させる。
そしてもう1つ、ワクドナルドに入る前に俺はとあることに気がつく。
柳原の鞄の位置だ。これは細かいことなので口にはしないが、俺との間ではなく、俺にはぶつからないように逆側に鞄を下げている。
当たり前のことかもしれないが、この女子が俺に対してそんな優しさを見せるのは滅多にない――というかない。断言する。
「今日はなにを食べるの?多分私と一緒だろうけどね」
「なんか……テンションが異常に高い柳原、気持ち悪いな」
「ひどっ!?珍しいんだから拝むなりしなさいよ」
「しねーよ」
メニュー表を見ることなく俺は柳原よりも先にレジに立ち、いつ来ているのかわからない同級生の学校のアイドルに俺は注文をする。
「チキン鳥バーガーと、ポテトのLにゴガゴーラのLください」
「かしこまりました」
流石と言っていいだろう。学校でも真面目な人は、バイト中でもしっかりしている。
全くもってバイトをしていない俺とは大違いだ。
カルトンにお金を置き、レシートを受け取る。そして後ろに立つ柳原に目を向け、
「同じか?」
と、言葉をかけると「うん同じ」と言葉を返してくる。
「……パクりか?」
「別にパクってないわよ。私が食べたいだけ。それともわけっこでもする?」
「しねーよ。同じやつ頼め」
「ケチね」
「うるせ」
そう言葉を返すと柳原も注文を始める。
先程俺と同じか?と言った御蔭か、どことなくスムーズに注文が終わった気がする。
レシートを貰った柳原は俺の隣に並び、上にある画面に自分の番号が表示されるのを一緒に待つ。
「今日は人の飲み物飲むなよ?」
「どうかな」
「どうかなってなんだよ。普通に考えても勝手に飲むという思考にはならんぞ」
昨日言うべきだった言葉を今言ってみるが、
「あなたの普通と私の普通を一緒にしないでもらっても?」
社会的に目を向けられそうな言葉で返されてしまい、思わず目を逸らしてしまう。
「……それはごめん。俺の配慮不足だ」
「謝れて偉い。後でポテト1つあげる」
「…………ども」
別にいらねーよとも言えるわけもなく、素直に頷く俺は店員さんに自分の持っている番号を呼ばれ、トレーを受け取る。
昨日と同じ席が空いていたので、トレーを机においた俺は椅子に座り、その隣の席に鞄を置いた。
ここで先に食べ始めるというのはダメだ、とどこかのネットで書いていたので食べ物に手を付けることなくポケットからスマホを取り出し、なにか連絡が来ていないかを確認する。
けど、残念なことに連絡は1つも来ていない。
「なに?連絡が来てなくて悲しんでるの?」
「別に悲しんでねーよ」
「悲しそうに見えたのだけど……気のせい?」
「気のせい」
俺の対面に腰を下ろした柳原とそんな会話をしながらスマホをポケットにしまい直し、ゴガゴーラにストローをさす。
「ていうか、昨日の学び早速使ってるじゃん。そんなにモテたいんだ?」
「別にそういうわけじゃないけど……使った方が良いかなと」
「モテたいんじゃん」
「……うるせ」
こちとら寝取りたいなんてことはひとつも言えねーんだよ。
ゴガゴーラを口に含みながらそんな事を心の中でぼやき、目の前の美人に目を向ける。
こいつがDVねぇ……。今の態度を見ればそんな事をするようにも見えないんだがなぁ……。
けど、この俺に見せる態度が演技だとして、裏の顔を俺に隠しているとするなら有り得るんだよなぁ……。
なにを思ったのか、俺の心は一瞬揺らぎ、柳原に肩入れをしそうになってしまう。
思わず本心を止めろと言わんばかりに首を振り、風雅を信用するように言い聞かせる。
「え、なに?ヘッドバンキングにでもハマったの?」
「ちげーよ!」
ヘッドバンキングは縦に頭を振るだろ!というツッコミも付け加え、ハンバーガーに噛みつく。
昨日はできなかった、女子と食べる時間を合わせるというやつを今日は成功させてやる!という勢いでいつも程噛むことなく、バクバクポテトとハンバーガーを食べた。
途中で苦笑を浮かべてきた柳原に「ゆっくり食べなよ」と言われたが、どの口が言ってるんだと思い、頷くだけ頷いて柳原の方を見ることもなく、チキン鳥バーガー達を食べ続けた。
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