止まる世界と残る場所

現無しくり

止まる世界

私以外、誰もいなくなった。

そう思って、私は音のしない砂浜に倒れこんだ。

真昼の海は凪いでいて、空は馬鹿でかい入道雲を抱えている。雲の流れは無く、静止画のような空は、その通り、本当に静止していた。

「あー」

 空に向かって叫んでみる。

「私の名前は青崎葵ー」

 自己紹介もしてみる。

「三峰先輩のことが好きー」

 特大の秘密を空に放り投げる。

「──」

 静寂が返事をした。一番の秘密を公開したというのに、何とも寂しい反応だった。とりあえず普段やれないエモいことをやってみたのだけれど、「絶対にバれる心配のない」馬鹿は、感動を私に与えなかった。

 正直、自分自身で何をしていいものかわからない。

 誰もいないというのは例えであって、本当のところは一人ではなかった。けれど、私以外が完全に静止している世界は、実質孤独だった。

「みーんな動かなくなっちゃった」

 砂浜から起き上がってあたりを見回す。全部止まっている。数百メートル先にいる人はかれこれずっと同じ位置に立っているし、波も空も音も、みたいに止まっている。後ろを振り返ると、車道は全車両堂々路駐の有様で、さぞかし警察は点数が稼ぎ放題だろうな──とそんなことを思った。

「どーすればいいんだろう」

 自動車の隙間を縫いながら、私は国道を歩く。潮風も吹かない静止した道は、あまりにも乾ききっていて冷たかった。


 



 

 

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