50.異例のお茶会


 時折薄い雲がゆったりと流れるうららかな午後。


「最初はわたくしの話を誰も真剣に聞いてくれなかったのですわ。それが戦争がはじまって、殿方たちが順に兵士として連れて行かれるようになったでしょう?それがよろしかったのですね」


「あら?そちらでもそうだったの?領内のことを女性が動かすようになってからは本当に仕事がしやすくなったわ」


「まぁ、うちもでしてよ。けれども戦争を免れた文官たちは厄介でしたわね」


「分かるわぁ。殿方たちが減っておとなしくなるかと思いきや、かえって偉そうに振舞い始めて」


「殿方であるだけで自分は凄い存在だと勘違いしている可哀想な方々のことね。ほほほ。わたくしは少し脅しましてよ」


「まぁ、どのように?」


「当主代理のわたくしが必要と思えない殿方たちには、兵士として戦場の最前線で頑張っていただきましょうと零しただけですの。立派な殿方ならば、きっと領地より国の役に立つ行いをした方がよろしいでしょうと」


 ぐるりとフェンスで囲まれた中庭に面したテラスに女たちが集っていた。

 煌びやかなドレスを着る者は誰もなく、皆が皆、暗い色味のシンプルなデイドレスを纏っている。

 これは王城内としては極めて違和のある光景だった。

 

 しかも彼女たちが囲んでいたのは、他国の王女さまで、まもなくこの国の王妃となる人物である。


 王族に会うとなれば、それに相応しい衣装を纏う礼儀が、アウストゥール王国にも存在していたからには、彼女たちは通常ではあり得ない無礼な行いしていることになった。


 しかし今日に限っては、これが許される。


「それで従うようになりましたの?」


「えぇ、もう。下僕のように従ってくださいましたわ」


「まぁ、情けない。その程度で態度を変えるだなんて」


「本当にそうよねぇ。この国の殿方たちにがっかりなさらないでくださいませね、王女さま」


「そうですわ、王女さま。この国にも立派な殿方たちはございますからね。そうでなくては戦争には勝てませんでしたわ」


 微笑みを浮かべ頷いた王女は、一人この場に浮いているように目立っていた。

 こちらも簡素な服装を選んではいたものの、そのデイドレスが明るい水色だったからだ。


「どうぞ、皆さま。私のことは気になさらず。お好きなように話してください」


 どうぞ、お好きなように。

 そう言われても、王女の御前だ。


 いつもの彼女たちだったら、会話を慎んでいたであろう。

 しかし今日この場では不思議と女たちのおしゃべりは止まらなかった。


 それは彼女たちがいい意味で開き直っていたからかもしれない。



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