28.不要となるもの
「俺のためとは強く出たな。ならば俺のために、この国から消えてくれるな?」
茶番に飽きていたゼインは結論から言い放った。
「は……い?」
すぐに理解出来なかったのだろう。
時間を置くうち、侯爵の顔からじわじわと血の気が引いていく。
今すぐに倒れそうにも見えてきた侯爵に、ゼインは容赦しなかった。
「お前はこの国に要らぬと言っている。ここまで言えば愚かなお前にもさすがに分かるな、侯爵よ?」
元から静かな会場の空気が一段と張り詰めて、無音に近付く。
王妃となる者を発表する祝いの場であるはずだった城での夜会。
何かあると構えていなかった貴族たちには散々な夜となっていることだろう。
まだ王に挨拶も出来ていない貴族の中には、魂が抜けたように遠い目をした者もあった。
「はっ。何を仰いますか。私どもアウストゥールに古くから続く貴族としてはですね。ただ此度の婚姻にはあまりにも問題があり過ぎるので。陛下の御代の安定のためにも、急ぎ取り止めていただきたいと。アウストゥールの繁栄を願えばこその進言をですね、この場にて私が私どもを代表し、させていただいたというだけにございまして」
侯爵の声からはすっかり勢いが落ちていた。
浮かべた作り笑顔を引き攣らせながら、必死にゼインのご機嫌を取ろうとしている侯爵に、周囲からは同情の視線もない。
仲良くしていた同派閥の貴族らも無関係を装って、遠くから冷えた視線を送っている。
ゼインがそれとて把握済みであったことは、彼らには思いもしないことなのだろう。
「古くからあるせいで、考え方も古くなっているようだな。星屑に戻り生まれ直して一から新しい世を学んでくるといい」
「なっ、なっ……。これまで多くの兵を出してきた我が功績をお忘れですか?小麦……そうです小麦も!野菜も!我が領で有事にも継続して栽培を続けてきたからこそ、兵も民も飢えることなく、戦い続けることが出来たではありませんか!」
この場をやり過ごそうと、侯爵は自身が役に立つ存在であることを主張する。
もうこの時点で、私どもと言ってはいられなかったようだ。
ここで重臣の一人が数歩前へと歩み出た。
ゼインも分かっていたようで、檀上からその重臣へと視線を投げる。
「侯爵はこう言っているが。お前たちからも言いたいことがあったな?」
会話を重臣へと預けたゼインは、フロスティーンを見やった。
するとすぐにフロスティーンと目が合うことになる。
「ミュラー侯爵家の兵士に関して言えば」
重臣が口を開いても、フロスティーンの視線は揺らがなかった。
ただ真直ぐに両の瞳でゼインを見据えているのだ。
──会話中に最も権限ある相手を見ているだけか?
やはり面白くはないゼインだった。
外に出せば今まで見えなかったフロスティーンを知ることになるのだと、ゼインはここで思い知る。
──だが侯爵家の娘は見ていたな。自分の会話の相手を見ることはするのか?勝手に話をしている周りの者には興味がない?……駄目だな、視線を向ける基準ひとつも分からん。
見詰め合いながら、ゼインは口角を上げていく。
それは周りには分からぬ程度であったけれど。
──早く知りたいようで、分からないままにして楽しみたくもある。いつまでも妙な女だ。だが……。
見詰められているのは悪くない。
そうして少しばかり機嫌が上向くゼインだった。
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