23.厄災の王女
このひと月、自分の影響がほとんどなかったことに気付いて、ゼインは面白くないと感じていた。
すでにこの状況に面白さなど何もなかったが。
頼ってくれれば、こちらですべて処理してやるのに。
フロスティーンの能力をこの場で見定めると決めておきながら、そんな不満も知らず抱える。
「な、何を言っているの?事実なら認められたのではなくて?」
「呼ばれていたことは事実ですが、私が本当に厄災の王女であるかどうか、それは事実として認めることは出来ません」
令嬢はすっかり困惑していたが、どうやら父親である侯爵も大分戸惑っているようだ。
途中で侯爵領の話になったのだから、娘よりも侯爵自身で受け答えすべきだった。
それが出来なかったのは、その程度の男だということ。
その顔には隠せずに、予定とは違うと書いてある。
すぐに泣き出す王女でも想定していたのだろう。
なお侯爵夫人は、侯爵から一歩下がったところに立って、一度も口を開こうとはせず。
彼女が何を想っているかは謎に包まれままだった。
「事実だから厄災の王女と呼ばれていたのでしょう?違うと仰るの?」
フロスティーンは笑みを浮かべたまま、ゆったりと首を振った。
そしてその視線は、なかなか口を開かぬ侯爵へと向かう。
「ミュラー侯爵にお尋ねいたします。その素晴らしい情報収集力を用いて、私がその名に相応しい王女であるという裏付けは取られましたでしょうか?」
「裏付けだと?」
焦りと怒りが混在する侯爵の顔。
王女と言っても、他国でぞんざいに扱われていたであろう娘に、言い返されるとは思ってもいなかったのだ。
だから王女相手の言葉選びを間違うし、怒声に近い声が出る。
普通の王女ならここで泣くこともあるかもしれない。
でもそこはフロスティーン。
短期間で身に着けた笑顔を崩さず、侯爵をじっと見詰めて、淡々と選んだ言葉を告げていく。
「輸出国ではないサヘランまで届く広いお耳をお持ちのようでしたから。私が知らない情報をお持ちではないかと思いまして、お尋ねしています」
──武器となる笑顔を与えたのは俺だ。だが……。
ゼインはぐっと眉間に皺を寄せていた。
──これは面白くない。
謁見の間で自分だけを長く見詰めていたフロスティーン。
ゼインの目にはあのときの再現のようにフロスティーンの姿が映っていた。
フロスティーンが長く人を見詰めるとき。
それは会話の相手として認識しているだけだったのだ。
これでゼインはいよいよこの場が面白くなくなってしまった。
侯爵の一族郎党すぐにでも星屑にしてくれようかなどと考え始める。
しかし侯爵がフロスティーンから目を逸らすのは早かった。
少しの間は命拾いしたかもしれない。
「もしや王女様は何か疑っていらっしゃるのですかな?商売をしていれば、他国の情報に精通するのは自然なこと。私には何もやましいことはございませんよ?」
侯爵の発言は怪しさが増すだけだった。
疑ってくれと言っているようなものだったが。
意外なことが起こった。
ぱちぱちぱちとフロスティーンが三度も目を瞬いたのだ。
これにゼインは目を瞠ってしまう。
──計算ではなかったのか?
「何かまた誤解を与えてしまったようですね。私はただ、私が厄災の王女と呼ばれるに至った理由をご存知であれば教えていただきたかっただけなのですが」
多くの貴族たちが王女の声を聞き洩らさまいと息遣いにまで注意して耳を澄ませた。
気が付けば楽団の演奏も止まっている。
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