第118話 護衛
「そんなわけでカルラも俺たちの旅に同行したいらしいんだけれど、どうだろう? もしも同行するとしたら長い時間を一緒にいるわけだし、少しでも嫌な気持ちがあったら、正直に言ってほしい」
カルラの言葉がわからないフー太にも改めて説明をする。
数日間行動を共にするだけならともかく、一緒に同行するとなると話が変わる。俺としてはカルラのさっぱりとしている性格は好ましく思えるけれど、人には合う合わないがあるからな。
一緒に旅をしている誰かがほんの少しでも嫌なら同行は断るつもりだ。レッドドラゴンを一緒に倒してくれた恩人になるけれど、今旅をしているみんなの方を優先したい。
「ホーホー!」
「そうか、フー太は問題なさそうか」
まずはフー太が俺の肩の上で両方の翼を広げながら頷く。
見て分かる通り、これはオッケーということだろう。
「僕も賛成だよ。カルラお姉ちゃんは僕にも普通に接してくれる優しいお姉ちゃんだったし、すっごくおいしそうにシゲトお兄ちゃんが作ってくれたご飯を一杯食べてくれていたもんね。きっと一緒に楽しくいろんなところへ行けると思うよ!」
コレットちゃんも大丈夫そうだ。カルラは不吉の象徴と言われている黒狼族のことも知らなかったみたいだし、カルラ自身もそういうことを気にしない性格っぽいもんな。
「……私も大丈夫です。彼女はさっぱりとした性格のようですし、それなりに自衛できる力もあるようです。私たちに同行しても問題はないでしょう」
最後にジーナだが、言葉の上では同意しているみたいだけれど、なんだか少しだけ歯切れが悪い。
昨日からのジーナとカルラのやり取りをみるに、性格的には問題なさそうに思っていたんだけれどな。
「ジーナ、こういう時はみんなに気を遣わないで本心を言ってほしい。少しでも合わないなと感じていたなら、一緒に旅をするのは辛くなるからね」
本音を言うと、俺もカルラと一緒に旅をしたいと思っている。明るくて、俺の料理やアステラル火山からの素晴らしい景色を一緒に楽しんでくれた彼女と旅をするのはきっと楽しいものとなるだろう。
それに彼女の強さはすでに見させてもらった。空を飛べるという機動力に加えて、鋭い爪でドラゴンの攻撃を弾いていた身体能力も持っている。そして魔法かはわからないけれど、小規模なドラゴンブレスみたいなのも使えたようだ。
護衛を頼んでいるジーナはあと半月ほどしたらハーキム村でお別れになるし、俺とコレットちゃんだけでフー太を守り切れるかどうか不安だったこともあって、戦闘能力のあるカルラなら大歓迎だ。
とはいえ、今同行しているジーナが少しでも気が合わないと感じるのなら、ジーナの気持ちを優先してカルラの同行は断るつもりでいる。
「いえ、カルラと気が合わないと感じているわけではありません! ただ――」
ジーナは目線を泳がせながら、少し言い難そうにしている。やっぱり何か気になることがあったらしい。
「みんなの護衛は私の役割です! ……確かにいろいろと迷惑を掛けてしまうことはありますが、それだけはカルラに任せるつもりはありません!」
「………………」
なんだ、そういうことだったのか。確かにさっきカルラは護衛も任せておけみたいな感じで言っていた。ジーナはそのことを気にしているらしい。
まったく、このポンコツエルフさんは変なところで不安になっているようだ。
「もちろん俺たちの護衛はジーナだよ。前にフー太を悪党から助けてくれたし、今回もジーナがいてくれなかったら、間違いなく俺たちはあのドラゴンにやられていた」
今回のドラゴンだって、ジーナとカルラが最初の急襲を防いでくれなかったら、俺はあの時点で死んでいた可能性が高い。それに燃料をあんな高さまで投げるのにはジーナの力が不可欠だった。
「ジーナが一緒にいてくれるから、俺やフー太やコレットちゃんは安心して旅を楽しめているんだ。それに狩りで食料も手に入れてくれているし、普段から本当に頼りにしているよ」
「うん! 強くて優しくて頼りになるジーナお姉ちゃんがいてくれて、僕たちは本当に嬉しいよ!」
「ホー! ホー! ホー!」
俺の言葉にコレットちゃんが同意し、フー太も翼を広げてこれでもかというくらい頷いている。
「み、みなさん……」
ジーナが顔を真っ赤にして少し涙ぐんでいる。まったく、みんなジーナを信頼しているのだから心配し過ぎだ。たとえカルラの戦闘力がジーナよりも高かったとしても、ジーナを頼りにしていることに変わりはない。
「だけどジーナはひとりで突っ込むことが多すぎるから、そこだけは少し反省するように」
「うう……すみません……」
今回のドラゴンの止めもそうだけれど、ジーナは猪突猛進あるのみだからな。幸い今回ドラゴンに止めを刺すことができたけれど、いつか危険な目に遭う気がするから今のうちに言っておかないと。
たぶんみんなを守るために自分がと思っているのかもしれないけれど、それでジーナが傷付くのはみんなが悲しむ。そういう意味だとカルラは意外と冷静に考えているようだし、良い感じでお互いを守り合えるのかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます