第115話 秘密兵器


「よし、これが駄目だったら全力で逃げるよ」


「うん!」


「ホー!」


 みんなに作戦を説明し、一度キャンピングカーの中に入ってある物を外に持ち出す。キャンピングカーの中はドラゴンブレスで熱され、サウナみたいになっていたが、目的の物は無事だった。


「ジーナ、これを!」


「はい! いきますよ!」


 この中で一番力の強いジーナに蓋を若干緩めた金属製の容器を渡すとジーナはそれを思いっきりドラゴンに向かって投げた。


 それは勢いよくドラゴンの方へ一直線に放物線を描いて進む。ドラゴンはまだ目に見えていないのか、こんな小さなものは脅威とならないと判断したのか、ジーナが投げた物をまるで気にしていない。


「カルラ、頼む!」


「おうよ! ガアアアア!」


 そして空で待機していたカルラが先ほどの炎のブレスを放つ。狙いはドラゴンではなく、ジーナが放った金属製の容器だ。


「早く、こっちに!」


「ああ!」


 ジーナとカルラも俺たちがいるキャンピングカーの後ろへ急ぎ、先ほどと同じ態勢を取る。


 ドーーーーーンッ


「GYAAAAAA!」


 そしてキャンピングカーの後ろがどうなっているのかは分からないが、巨大な爆発音と衝撃がキャンピングカー越しに伝わり、ドラゴンの悲鳴が聞こえた。


 そう、先ほどジーナが投げた物は金属製の容器の中に入ったキャンピングカーの燃料だ。こいつは何かあった時のために用意していた予備の燃料である。


 その燃料がカルラの放った炎のブレスによって爆発した。


「うう……すごい音……」


「ホー……」


 耳がいいコレットちゃんとフー太は爆発音によって耳が痛そうだ。


 しばらく前に気付いたことなのだが、調味料や香辛料が補給されて増やせるということは水や燃料なんかも増やせるのではないかと考えた。それを実行してみたところ、俺の考えは的中した。


 つまり日付が変わる前にキャンピングカーの水タンクと燃料タンクから水と燃料を抜いて、それをコップとポリタンクに入れて車外に置いておいたら、日付が変わった際にキャンピングカー内の水と燃料は満タンに補給され、車外に出しておいた容器の水と燃料はそのまま増えたわけだ。


 一日の燃料を使い切った後に予備の燃料があればさらに進めると思って用意していた物だが、まさかこんなことに使うとは思ってもいなかった。


「ドラゴンは!?」


「地面に落ちています! 私が止めを!」


「ちょっ、待ってジーナ!」


 俺が止める間もなく、ジーナが地に落ちたドラゴンへ向かって走り出す。


 ここから見る限りは動いていないが、まだ生きていて反撃してくる可能性もあるのに!


「せいやあああ!」


 ザンッ


「シゲト、やりましたよ!」


「……ていっ」


「あいたっ!」


 嬉しそうな笑顔でこちらまで戻ってきたジーナのおでこにチョップをする。


「シ、シゲト……どうして?」


「ひとりで突っ走らないでくれ。今回ドラゴンは動かなかったからよかったけれど、反撃してくる可能性もあった。止めを刺すにしても、撤退して様子を見るにしても全員で行うべきだった。みんなを守りたいというジーナの気持ちはとても嬉しいけれど、ジーナはもっと自分を大切にしてくれ!」


 幸いなことにさっきの燃料の爆発によって、すでにドラゴンは息絶えていたか瀕死の状態であったため、ジーナがロングソードでレッドドラゴンの首を落とすことができた。


 だけど行くなら全員で行くべきだった。何かあった時にみんながいれば対応できたことだってあるはずだ。


「俺やフー太を護衛するという気持ちもわかるけれど、ジーナも大切な仲間なんだから、無茶はしないでくれ」


「は、はい。ありがとうございます!」


「……いや、一応怒っているつもりなんだけれどな」


 軽くとはいえ頭にチョップをして、説教をしたつもりだったのだけれど、なぜかジーナは嬉しそうに顔を崩している。


「す、すみません! 次からは気を付けます。ですが、シゲトがそう思ってくれていたことがとても嬉しかったので……」


「………………」


 そりゃジーナは大切な仲間なんだし、ジーナの身を思うのは当然のことだし、大切だと思っているのも事実だ。


「……お~い、イチャイチャするのは終わったか?」


「はわわわ……」


「ホー?」


「イ、イチャイチャなんてしていないです!」


 カルラとコレットちゃん、フー太もこちらへやってきた。ジーナはカルラの言葉に顔を真っ赤にしている。


「そうだ、すぐにこの場から離れないと!」


 冷静になって考えたら、ここでのんびりしている暇はなかった。ドラゴンは倒せたようだけれど、こいつが現れたことは他の観光客も見ていただろうし、まだしばらくはかかると思うが、討伐部隊なんかがやってくるかもしれない。


 それにさっきの燃料が爆発した音はかなりの大きさだった。レッドドラゴンが現れたことを知らない観光客がさっきの音が何かを確かめに来るかもしれない。


 どうやってドラゴンを倒したのか聞かれても面倒だし、さっさとドラゴンの遺体を回収して逃げるとしよう。




【新作】

いつも拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾


先日より新作の投稿を始めました!

当分の間は毎日投稿を続ける予定ですので、こちらも読んでいただけますと幸いですm(_ _)m


『異世界転生して大賢者となった元教師、【臨時教師】として崩壊した魔術学園を救う。〜クソガキ&無能教師&モンスターペアレントはすべて排除する~』

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