第7話 白銀色の髪のエルフ


「フー太が気付いてくれなかったら、急ハンドルを切って危ないところだったよ。ありがとうな」


「ホー♪」


 フー太が気付かなかったら、スピードを落とさずに今の投擲されたナイフに驚いて、急ハンドルを切って横転していた可能性もあった。どうやらフー太の目はとても良いようだ。


 そして拡張された車体強化機能のおかげでフロントガラスは傷ひとつ付いていない。確かフロントガラスは割れやすくて貫通しにくい仕組みだが、ガラス自体が割れていないということはしっかりとキャンピングカーの車体が強化されているようだ。


 それにしても、いきなりなんなんだ!?


「き、貴様らは何者だ! 魔物なのか!」


「ちょ、ちょっと待って!」


 いつの間にかキャンピングカーの前には一人の女性が近付いてロングソードを構えていた。


 一人の女性――言葉にすればその通りだが、彼女の長く後ろにまとめられた髪は元の世界では見たことがない美しく輝く白銀色だ。そして何より、彼女の両耳は


 透き通った宝石のような碧眼、整った顔立ちをした10代後半から20代前半の若い女性、彼女の容姿はファンタジーの中でしか見たことがないエルフのそれだった。


「こっ、言葉が通じるのか!? 大きな魔物の中に人が入っているだと……」


 白銀色の髪色のエルフは驚いた表情を浮かべつつも、こちらに向けて先ほどのナイフよりも断然大きなロングソードをこちらに向けて敵意を表している。


 そうか、こんな高速で移動する巨大なキャンピングカーはこちらの世界の人から見れば、大きな魔物に見えても仕方がない。そりゃ、こんなのが自分の方に向かってきたら、ナイフを投擲して攻撃するのも当然か。


 そして彼女の言葉は普通に日本語として通じている。キャンピングカーの拡張機能の中に異世界言語などの機能はなかったので心配していたが、どうやら言葉が通じるようでほっとした。


 こちらには敵意がないことを証明するため、両手を上げて必死にアピールをする。こちらとしても、無駄な争いは避けたい。


「ホー!」


「なにっ、森の守り神であるウッズフクロウ様だと!」


 おお、どうやらこのエルフさんはフー太のことを知っているらしい。身体のサイズを変えられるようだったし、この世界のフクロウは自在にそんなことをできるわけではなく、フー太が特別な種族だったらしい。


 だけど、そのおかげでどうにかこの場を収められそうな――


「貴様、ウッズフクロウ様をどうするつもりだ!」


「いや、どうもしないよ! 家族もいないらしいから、一緒に旅をしているところだって!」


「とぼけるな! ならばなぜウッズフクロウ様を拘束しているのだ! やはり貴様は森の密猟者だな!」


「ちょっ、誤解だって!」


 いや、拘束しているって、これはシートベルトだからな!? 外そうと思えばすぐに外せるからね!


「問答無用、覚悟!」


「うわっ!?」


 目の前にいるエルフさんが両手でロングソードを持ってこちらに向かってきた。


 くそっ、キャンピングカーのギアをバックに準備しておくべきだった! あんな大きな剣が相手では車体強化機能があっても駄目かもしれない。こうなったら、こちらも前に急発進して向こうが逃げるのを期待するしかない!


「うっ……」


「っ!?」


 こちらがアクセルを踏んで急発進しようとしたところ、エルフの女性が突然倒れた。慌ててアクセルから足を離す。そしてエルフさんは倒れたまま一向に起き上がってこない。


 一体何が起きたんだ?


「……とりあえず、ここから逃げるか」


「ホー?」


 フー太が首を傾げている。


 うん、俺も正直に言って何が起こっているか分からないが、向こうは俺を密猟者だと誤解しているようだったし、何かの罠かもしれない。ここは今のうちに逃げよう。


 ぎゅるるるるるる~


「お……お腹が空いた……」


「………………」


 ギアをバックに入れて来た道を引き返そうとしたその時、倒れていたエルフさんからものすごい腹の虫の音が聞こえてきた。窓を少し開けているとはいえ、フロントガラス越しに聞こえてくるとは、ものすごく大きな音だ。


 どうしたらいいんだよ、これ……




「おい、落ち着いて話を聞けよ。このウッズフクロウは森で怪我をしていたところを治療してあげたら懐かれたんだ。ほら、拘束していないのに逃げ出さないだろ」


「ホー!」


 少し考えた結果、このエルフの女性をこのまま放っておくわけにもいかず、助けることにした。


 というのもカーナビによると、まだこの付近に村や街などの集落はなく、この女性の持ち物も武器以外に何も持っていないことから、このままにしておけばこの女性が死ぬことは間違いないからだ。


 もちろん彼女が盗賊で、お腹を空かせて倒れたのは演技という可能性もあるため、最大限の警戒はしている。……それと腹の虫の音までは演技ではできないだろうという推察もあった。


「うう……」


 返事が返ってこないし、顔も上げてこない。もしかしたら、本当にかなり限界なのかもしれない。


「ほら、水とお粥だ。まずはゆっくりとこれを食え」


 エルフの少し前に水とお椀に入れたお粥を差し出して距離を取る。さすがに剣を持った相手に食べさせてあげるようなことはせずに自分で食べるのを待った。

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