悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
13-45 邂逅! 因縁深き二人の転生者!(2)
13-45 邂逅! 因縁深き二人の転生者!(2)
今のところ、事前計画通りに事態は推移していた。皇帝ヨシテルを挑発し、怒りで忘我状態に陥れ、視野狭窄の状態に持ち込めた。
ヨシテルはヒーサの挑発にまんまとハマり、視野が狭くなっていた。
普段ならば気付いたであろうことも、気付けないでいた。
(さて、バカ将軍を発狂寸前にまで追い込み、視野狭窄にして意識を私に集中させた。ゆえに、“ルル”が城壁上からいなくなっている事に気付かない)
ヒーサは既にルルに対して指示を出しておいた。
「一騎討ちの前に奴と会話して、怒り狂ってもらう。で、露骨に怒りをあらわにしたらば、それを合図に姿を隠し、所定の位置に移動して合図を待て。天に向かって高らかに拳を振り上げた時が“その時”だ」
これがルルに出しておいた指示の内容である。
素早く所定の位置に着く以外は特に難しい話でもなく、それが一騎討ちにどう作用するのかは分からないが、恩義ある公爵からの指示である。
ルルはそれを了承し、今まさに所定の位置に急行していた。
(さて、今少し時間を稼がねばならんか)
すでに策は動き出し、ヨシテルは術中に落ちつつあるが、完璧ではない。
こここそ、
激怒させても激発させない、ギリギリのところを攻めねばならない。
かと言って、攻めが弱ければルルの不在に感付かれる可能性もある。
目の前の化物を倒すには、ヒーサはあまりにも弱すぎた。ゆえに知恵を絞るのだ。
「おお、そういえば、今一つ、伝えておきたい事がありましたな~」
「……なんだ?」
怒ってはいるが、ギリギリで保っている。震える手で刀を握りつつも、斬り掛かるのを堪えているのが、ヒーサには手にとるように分かった。
もう少し付き合ってもらう。綱渡りを思わせず、余裕の態度で口を開いた。
「あれですよ。公方様が発注なさっていた『
「なんだと!?」
ヒーサの口より飛び出した意外な言葉に、ヨシテルは目を丸くして驚いた。
松永一党に御所を襲撃され、命を落とした足利義輝、その最後の遺品がそれなのだ。
ヨシテルは生前、日ノ本最大の絵師・狩野派に依頼を出していた。それが京の街並みを描く『洛中洛外図屏風』であった。
だが、完成前に松永一党によって殺害され、ついにその絵を見る事なくあの世へ旅立つ事となった。
そんな昔の話をいきなり持ち出すとはいかなる意図か。ヨシテルは次なるヒーサの言葉を待った。
(よし。興味を引いて意識を私に向けつつ、激発を抑え込めた。重畳重畳)
一歩ずつ慎重に進むヒーサであった。まともにぶつかればどう足掻いても勝ち目はないが、それでもこれをこなさねばならなかった。
勝つためにはあやゆる努力も策謀も惜しむつもりはなく、知恵と話術の使いどころだと奮起した。
「完成した屏風、それは見事な物でございましたよ。さすがは
「誰のせいだ!」
「公方様が弱いのが悪いのですぞ~」
「貴様ぁ!」
再び激高するヨシテルであったが、ヒーサはニヤニヤと余裕の笑みを浮かべるだけだ。
なお、余裕などと言うものは一片もない。
はっきり言えば、準備が整う前に斬り掛かられたから、万一にも勝ち目はない。
今のヨシテルはそこまでの、超越者なのだ。
それでも、今まで培ってき演技の実力で、それを一切感じさせず、話を続けた。
「狩野永徳に感謝するのですな。あれは本来、日の目を見ない作品になるはずだった。なにしろ、発注元の公方様が死んでしまい、引き取り手がなかったのですから。ですが、そんな中にあって、狩野永徳は作品を完成させた。依頼主が死に、お蔵入りが確定していたにもかかわらず、その心の内より湧き立つ情熱によって、作品を放り投げる事をよしとせず、なおも仕上げた。その情熱こそ人を、人々を動かす原動力足り得るのです」
実際、狩野永徳の『洛中洛外図屏風』は完成しても引き取り手がなく、長らく倉庫に保管されていた。
後に織田信長がこれを手にし、さらに越後の上杉謙信に友好の証として贈っていた。
「はっきりと申し上げますと、公方様にはその“情熱”というものが感じられません」
「言うに事欠いて、そのような戯言を抜かすか!」
「公方様こそ、現実が見えておらぬようですな。あなたのなさり様は、言ってしまえば時の流れを逆さにするようなもの。潰れかけの幕府を元通りにし、かつての、応仁の乱以前の状態に戻す事。それが甚だ間違いだと言うのです!」
「なんだと!? 秩序を取り戻し、安寧の世を築くのが間違いだとでも!?」
「元に戻すのではなく、新たに作ることをしなかった。それが間違いだというのです」
日本全土を戦国乱世に陥れた応仁の乱以降、室町幕府はその権威と、統治能力を失い、実力主義が前面に出る弱肉強食の世界となった。
この二人もまた、その戦国の流儀の中を生き、駆け抜けた乱世の住人である。
ただ、道を違えた。秩序を取り戻す“足利義輝”と、新たに作り出す“松永久秀”とに、だ。
「かつてのやり方では立ちいかぬと言うのに、無理に戻せばまた歪が生まれる。それを上手く調整して新たな秩序を構築する事こそ肝要。ゆえに、私は三好の御曹司・
「義継、だと!? 義重め、なんたる恩知らずか!
ヒーサの発した言葉はヨシテルに衝撃を与えた。
足利将軍家では、名前に“義”を用いてきた。初代・
ゆえに、足利将軍家にとって“義”の一字は極めて重要であり、将軍弑逆の後に“義を継ぐ”と改名することは、将軍家の後を継ぐとも取れる、大胆かつ不遜極まる改名なのだ。
「足利将軍家を必要としない世を作る、という“ワシ”なりの宣言ですよ。まあ、結局は
「遊ぶ、だと!?」
「そう、たまたま物好きな女神がいて、“ワシ”に第二の人生を用意した。ならば、この生は面白可笑しく生きねば損と言うものだ。公方様も刀を捨てて、かつての恩讐も忘れ、文字通り生まれ変わってみませんか?」
「断る! 我が刀を置くことがあるとすれば、それは秩序と安寧を取り戻した時だ!」
その言葉を聞いたヒーサは、ため息を吐いた。それも深い深い、ヨシテルにまで聞こえるほどの大きなため息だ。
失望を通り越して、絶望すら覚えるほどの落胆ぶりを見せ付けた。
「語るに落ちましたなぁ、公方様。平和と安寧を志向しながら、軍を率いて他国に攻め入るなど、言動が矛盾しておりますぞ~。結局あなたは変わらない。秩序を口にしながら混乱を呼び起こし、平和を唱えながら刃を振るう。はっきりと言わせてもらうが、それが貴様の限界であり、無思慮な言動の表れだ、バカ将軍めが!」
今度はヒーサが激怒した。
ヨシテルを睨み付け、どうしようもないほどの愚物を見るかのような、やり場のない怒りを滾らせた。
マークの口からヨシテルに伝えた“将軍の御守りを仕舞いとする”を、本気で実行するべきだと改めて再認識した。
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