13-42 危険人物!? 獅子身中の虫はそこにいる!

「それにもう一つ、厄介な点がある。むしろ、これが一番重要かもしれん」



「まだあるんですか!? どれだけ案件溜め込んでいたの!?」



 ティースとしては、夫にそう突っ込まざるを得なかった。


 いかにヒーサが強引な手法で抑え込み、下剋上を成したかが分かると言うものであった。その反動が、一番出て欲しくない時に、一気に噴き出したのだ。



「現状、後方の留守居の鎮護は、ヒサコとコルネスに任せている」



「不穏分子に目を光らせつつ、中央政府の切り盛りをして、幼い王様の御守りまでしてますからね」



「そう。で、そのコルネスが寝返る可能性だ」



「コルネス将軍が!? ……あ、そうか。コルネス将軍の奥方は少し前まで、クレミア様の近侍だったわね。今はマチャシュ陛下の世話係で、ヒサコとクレミア様の間を走る伝奏役でもある。情報を抜いたり、あるいは偽情報を拡散させるのに都合のいい位置にいる!」



 思わぬ落とし穴があった事に、ティースは顔を更にしかめた。


 一つ崩れれば、次々と崩れる。まるでドミノ倒しだと、無作法ながら頭を掻きむしった。



「コルネスはヒサコを守る盾だ。だが、その盾がいきなり剝がされたら?」



「丸裸ですよね。となると、ヒサコが動かせるのは実質、自分の手勢だけ。それじゃあ、どう考えても反乱が起きたら守り切れない!」



「そういうことだ。エレナ姫に加えて、カイン・クレミア親子がこちらから離れるだけで、ここまで崩壊するんだよ、現状は」



「ツケ払いは一気に来るんですね」



「ジェイクの派閥をかなり強引に取り込んだからな。何かの拍子にそれがひっくり返される。そこに大きな穴が生じて、こちらも危うくなるんだ」



 そこまで読み切っているのはさすがだとその場の面々は感心したが、読んだところでそれに対処する人手が全然足りていないのは厳しい現実であった。


 しかも、強引に推し進めてきた“下剋上”の歪である事を考えると、素直に褒めれなかった。



「なるほど。ヒーサが短期決戦に拘るのは、理解したよ。黒衣の司祭ばかやろうが後方を扼してくるのは分かっていたけど、そんな大掛かりな事になるとはね。ジェイク兄がなんやかんやで上手く切り盛りして、まとめていたって事だよね~」



「そうだな。調停役が消えるとだいたいこう言う事になる。時間が経てばたつほど、実はあちらが有利というわけだ。本来の籠城戦であれば、攻め手が諦めるのを待てばいいが、今回に限って言えばそうした事情があるため、まずは速攻で前面の敵を叩き、疾風のごとく引き返して反乱軍も鎮圧せねばならん」



「忙しいね~」



「同感だ。だが、これを凌げば、魔王の件も一応の落ち着きは見せるはずだ」



 むしろ、そこが本命だと言わんばかりに、ヒーサはアスプリクとマークを見つめた。


 なにしろ、この少年少女のいずれかが“真なる魔王”であり、目の前の皇帝など、所詮は魔王を演じさせられている“魔王もどき”に過ぎないのだ。



黒衣の司祭カシン=コジはどういうわけか、私の生け捕りを狙っている。まあ、世界破壊までの時間稼ぎの意味もあるのだろうが、とにかくこれを防がねばならん。皇帝ヨシテルを用いて私を拘束し、同時に自分はヒサコに仕掛けて、こちらも捉える。これでスキル【入替キャスリング】を使う間もなく、生け捕りと言うわけだ」



「つまり、皇帝を始末しさえすれば、今回みたいな危機的状況を回避できる、と?」



「いくら奴が厄介な相手とは言え、一人ではどうにもならんからな。皇帝と言う強力な手駒があればこそ、同時攻撃を企図できるのだ。これと同等の駒を用意するなど、さすがに難しかろうて」



 結局のところ、いかに手早く皇帝ヨシテルを撃破できるのか、これに尽きると言うわけであった。


 しかし、最大の難点がある。


 それは“倒せるかどうか”と言う話だ。



「ヒーサ、勝てるの? あいつ、メチャクチャ強いよ。僕の術式が全然ダメだったんだ」



「なぁに、心配することはない。今回の要は私ではない、そう、お前が主役だ」



 そう言ってヒーサが視線を向けたのは、すぐ横に侍っていたテアであった。



「ほへ? 私!?」



「そうだ、お前だよ」



「あなたが、私を頼る、と!?」



 まさかの不意な御指名にテアは目を丸くした。


 同時に嫌な予感もしてきて、ろくでもない“共犯者”に対して身構える女神であった。

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