11-47 成長! 嫁が頼もしい事この上ない!

 この場の全員が共犯者。“国盗り”という目標に向かって進む、利益共同体だ。


 建前は“帝国の侵攻に備えるための挙国一致体制”を整える事であるが、その思惑はものの見事にバラバラであった。



(私はもちろん、この第二の生を満喫するためではあるが、他の連中は違う。ティースとマークは家の再興の足掛かりとして、今回の国盗りに乗っかって来た。アスプリクは自身の平穏と私と叔母と楽しく暮らすためだ。アスティコスは当然、アスプリクと楽しく暮らすため。サームとライタンは自己保身。まあ、サームは若干忠義が入っているが、先程のやり取りでぶち壊してしまったしな)



 なにしろ、先代公爵とその嫡男を始末し、家督を分捕ったと自白したのだ。


 サームの視点で見れば間違いなく主君殺しとなるが、今の主君はヒーサなのである。次男坊であるので、家督を継ぐ正当な理由はあるのだが、その際に暗殺という手段を用いて奪った格好となった。


 “かつて”の主君殺しとして断罪するべきか、“今”の主君に対して忠義を尽くすべきか、迷っているのは複雑な表情を浮かべる点からも伺い知れることができた。



(まあ、余計な事を考える暇を与えず、速攻で権力を奪取すればいい。なにより、これから帝国との決戦が迫っているのだ。有能な武官にはまだ死んでもらっては困る)



 ヒーサの見回す顔触れは、揃いも揃って緊張感を漂わせており、現状の厳しい状況と、これからのさらに厳しい状況を思わせていた。


 首座としてこれをまとめ上げねばならない。口八丁手八丁、これだから国盗りは止められぬと、かつての感覚を呼び起こし、ニヤリと笑うのであった。



(ああ、帰って来たぞ、この感覚! 懐かしの戦場だ。己の知略の限りを尽くし、奪い、奪われ、切った張ったの繰り返し。さあ、楽しい楽しい国盗りの時間だ)



 いよいよ始まる最後の仕上げ。偽装した我が子を国王の座に就け、物言わぬ国王の代理として全権を掌握し、好き放題に振る舞う。


 湧き起こる高揚感に、ヒーサこと松永久秀はこの上ない喜びを感じていた。


 かつての世界では一介の商人から始まり、ついには征夷大将軍を傀儡として大権を振るう位置にまで上り詰めたこともあった。


 そして、この世界では公爵家の次男坊にして医者という立場から始まり、家督の簒奪、嫁実家の財産没収、アーソでの動乱や政敵への攻撃、法王の擁立を経て、国内での権勢は固まりつつあった。


 ヒサコと言う便利な存在を利用できたとはいえ、ここまで早く事が進んだことは、喜ぶべきことであり、その下剋上が形となるか否かが、これからの動き次第である。


 それゆえに、松永久秀の頭は冴えに冴えていた。


 すべては第二の人生で享楽に耽るためであり、女神に依頼された魔王に関することも、はっきりと言えば“ついで”でしかない。



(まあ、依頼はちゃんと達成するがな)



 なんとも“義理堅い”なと考えつつ、会議を進める事とした。



「さて、この場に揃った顔触れで、大芝居をすることになる」



「やっぱりそうなりますか」



 そう言いつつ、ため息を吐いたのはティースであった。その表情からは“自信が無い”という、無言の抗議が漏れ出ていた。


 それはどの顔を見ても同じであり、はっきり言えば、ヒーサ以外全員であった。



(と言いつつ、この場で演技が上手いのは、お前とマークなんだがな)



 ヒーサはティースが発した“自信が無い”という無言の抗議を、“この顔ぶれで大丈夫か”に置き換えていた。


 そもそも、ヒーサはティースへの評価が非常に高い。アスプリクのように初めから共犯者になったのではなく、自力でヒーサの本性を見抜き、裏の顔を拝む機会を得たたった一人の人物だからだ。


 元々、カウラ伯爵家からやって来た三人への評価は高かったが、ここ最近はさらにそれが上がっていた。


 我が子を生贄に捧げてもなお平然としていられる胆力に、ヒーサ自身が惹かれ、感心しているからだ。



(結婚当初は、自信過剰で甘ったれなお嬢様感があったが、もはやそれは完全に払拭されている。よくぞここまで成長したものだと思う。まあ、夫婦のじゃれ合いで鍛え上げられたと思うと、これは思わぬ誤算ではあったがな)



 なにしろ、ティースは結婚してからというもの、散々にヒーサ、あるいはヒサコにやり込められ、へこまされてきたのだ。


 並の女性であればそのまま沈んでいくであろうが、持ち前の精神力がそれを押しとどめ、むしろ成長の糧としてより強くなり、ついには隠匿された真実にまで到達させた。


 だからこそ、ヒーサはティースを却って大事に扱うように心がけるようになった。


 泥臭くもがきながらも、這い上がってきた存在は敬意を表する。


 何しろ、“かつて”の自分がそうであったからだ。



「まあ、そう心配するな、ティース。お前以外には、それほど凝った演技をやらせるつもりはない」



「ああ、余計に心配になってきましたわよ」



「今回の要は、お前とマークだからな。期待させてもらう」



 この言葉には嘘はない。ヒーサはティースを高く評価し、今回もまた“自分の予想を裏切ってくれる”程に活躍してくる事を期待していた。

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