第49話 連邦議会での対決
「――というわけで、ここに、臨時連邦議会の開催を宣言する」
議長国であるオーストレーム帝国の皇帝、フェルナン三世が、長々とした開会宣言を終える。
彼の全名は、フェルナン三世・カミル・リオン・ヨーナス・フランクリン・マルティン・フォル・ヴァルテンブルク・ファルハーゲン・オーストレームだ
国家を滅亡させるのではなく併呑した場合、併呑した国の王は、
彼の長い名前は、帝国が
長い名だが、これでも
オーストレーム帝国の前身は、神聖ローマニア帝国であり、かつては空前の大帝国だった国だ。
一つ残さず全て書き連ねていたら、姓は百を優に超えてしまう。
「まずは、当議会にブルークゼーレ王国の第二王子の殺傷を報告したエンゲルラント王国から、詳しい事情を聞かせてもらおう」
議長に促され、フィーリップは説明を始める。
もちろん、全てを説明するわけではない。
マルガレーテの霊宝や、フロリアン王子の千人級のお守りについて、フィーリップは話さなかった。
「――フロリアン殿下は、
そのため、我が国は止むを得ず、悪魔の軍勢とフロリアン殿下を討ち取ったのです。
被害についてですが、死者はフロリアン殿下およびブルークゼーレ王国に加担した騎士一名の計二名です。
負傷者はいません。
王宮内の施設の被害は、樹木が数本傷付いた程度で軽微でした。
ブルークゼーレ王国の使節団は現在、我が国の王宮に滞在中であり、フロリアン殿下に加担した我が国の貴族たちは全員捕縛しています。
以上が、今回の事件の概要です」
「
我が国が侵略を
ブルークゼーレ王は、強い口調で反論する。
「では、なぜ我が国に
そんなものを持ち込んだなら、侵略の意図は明らかではありませんか?」
「フロリアンは、そんなものを持って行ってはいない!
持って行ったのは、
それも、通商に関する重要書類を安全に運ぶためだ!
侵略の姿勢など、我が国は一貫して、
「その通りです!!
あなた方がフロリアンを殺した理由は、明白ですわ!!
フロリアンが持っていた
霊宝を奪うために、フロリアンを、わたくしの息子を
ブルークゼーレの王と王妃は、エンゲルラントに
しらを切るのは、カタリーナたちの予想通りだった。
ブルークゼーレから侵略を仕掛けていたなら、もちろん戦争の大義名分を失ってしまう。
それどころではない。
連邦国家とは、軍事同盟以上に結び付きが強固なものだ。
連邦議会に無断で連邦内の国を侵略したなら、連邦内の全ての国を敵に回すことになる。
経済的に孤立し、連邦内の全ての国から宣戦布告され、ブルークゼーレはあっけなく滅んでしまう。
無断侵略の事実は、絶対に隠さなくてはならないことだ。
彼らはまた、しらを切っても問題はないと考えているはずだ。
ブルークゼーレ王家は、マルガレーテの霊宝を虎視眈々と狙っており、またエンゲルラントの旧不可侵貴族たちとも密接に
小国に興味が薄い他の国とは違い、領地戦での情報も得ており、カタリーナの戦力も把握しているはずだ。
その上で、フィーリップが報告した戦果を挙げることは不可能だと、彼らは考えるはずだ。
被害状況は、両軍併せて死者二名、負傷者無し、王宮の損壊は庭園の樹木が少し傷付いた程度だ。
もし、本当に
それが、常識的な考え方だ。
カタリーナの馬鹿げた強さを知らなければ、誰もがそう考えるだろう。
フロリアン王子は、
侵略の情報が漏れてしまい、エンゲルラントが先手を打ったに違いない。
それが、ブルークゼーレの出す結論だろう。
フィーリップは、そう予測した。
そして今、その推測が間違いではなかったことが明らかになった。
ブルークゼーレが読み誤るのも無理はない。
カタリーナはそう思う。
前世で、ターン・アンデッドの魔法が初めて使用されたときもそうだった。
アンデッドの軍勢と人間の軍が入り乱れて戦う中、アンデッドだけを一瞬で
「それでは、
「もちろん、我が国で厳重に保管しておる!
貴国に運び入れたという事実は、一切無い!」
カタリーナの質問に、ブルークゼーレ王は自信満々で答える。
「……確かに、王宮の外壁の外ならともかく、王宮内部に悪魔の軍勢が現れたというのに、死者は二名で負傷者は無し、物的損害も軽微、というのは信じ難い話ですな」
「カタリーナ殿下が悪魔の軍勢を全滅させた、とのことでしたな?
歴史書を
しかし、どれも呪術師数人でやっと一体倒せたという記録です。
正直なところ、一瞬で一万もの悪魔を全滅させたというのは、夢物語としか思えませんな」
出席者たちもまた、フィーリップの報告に疑問を呈する。
それを見てブルークゼーレ王は、にやりと笑う。
この流れなら、連邦議会も戦争を承認する。
そう思ったのだろう。
「エンゲルラント王の説明は荒唐無稽であり、霊宝を奪うためにフロリアンが殺されたことは明らかです。
よって、フロリアンの遺体および
それらが終わり次第、エンゲルラント王国に対して宣戦布告を行いたいと思います。
ご参加の各国には、
ブルークゼーレの王は、そう言って頭を下げる。
(やっぱり、
ブルークゼーレは、そう主張した。
霊宝を使用する前にフロリアン王子は殺されたため、
そう思っているのだろう。
「霊宝を奪うためにブルークゼーレ王国の王子を
我が国としては、とても赦せませんぞ」
「その通りですわ。
連邦としても、制裁が必要だと思いますの」
各国の代表が騒ぎ出す。
(始まったわね)
戦争となる流れは、止まりそうにない。
そうなったときに各国がするのは、戦争を利用して利益を得ることだ。
国力差から言って、勝ち馬は明らかにブルークゼーレだ。
ブルークゼーレに加担し、分け前を
だが、現段階では、どの国も匂わせるだけだ。
参戦を明言する国は、今のところない。
参戦後の役割を考えているからだ。
あまり積極的に参戦の意思を表明してしまったら、先陣の一角を担うことになりかねない。
彼らの望みは、自ら血を流す先陣ではない。
労せずただ戦利品だけを得られる、少し後方の陣だ。
各国のこの動きもまた、フィーリップの想定通りだった。
「議長。採決を行う前に、我が国が持つ霊宝について議会の承認を申請しますわ」
フィーリップの目線での合図を受け、カタリーナはカードを切る。
「おお! 呪術が使い放題になる霊宝をお持ちだとの
これは、楽しみですな!」
「まさか、噂の新たな霊宝が見られるとは!
出席した
カタリーナが持つと言われる霊宝について知る者は、新たな霊宝が見られると聞いて喜ぶ。
「ほう? それは楽しみだのう」
ブルークゼーレ王も、そう言ってにやりと笑う。
彼が笑うのは、純粋な好奇心からだけではないだろう。
霊宝の承認に際しては、霊宝の持つ能力について議会の検証を受けなくてはならない。
霊宝の性能は、そこで
未知の霊宝の性能が分かれば、戦争で大いに役立つ。
きっと、そんなことを考えて笑ったのだ。
カタリーナはそう考えた。
「霊宝が承認されれば、国家の等級も上がって議決権も増えるが……今から議決権を増やしたところで焼け石に水じゃろう。
エンゲルラントは、何を考えておるかのう?」
「うーむ。
ここで霊宝の有用性を見せ付けたら、霊宝に釣られてブルークゼーレに加担する国が増えそうなものじゃが……」
連邦議会で承認された霊宝の数が、その国が持つ議決権の数だ。
今から議決権を増やそうとするカタリーナたちの意図が分からず、ひそひそと相談する王たちもいる。
「承認しよう。
霊宝をこの場に出してくれ」
「ありがとう存じます。
それでは、ご覧に入れますわ」
議長であるフェルナン三世が認め、カタリーナが礼を言う。
「な、なんだと!!?」
「それは!!?」
地面に黒い影が広がり、そこからヌッと二つの物が出て来た。
それを見て、ブルークゼーレの王と王妃は目を見開く。
「
「なんだと!?」
「なんですって!?」
出席者たちもまた、
特に、一等国の代表は、大きな驚きを見せている。
「
どちらも、ブルークゼーレの霊宝ではなくて!?」
一等国の代表であるアンゲーリカ王女もまた、目を大きく見開き、カタリーナにそう尋ねる。
木っ端の如き小国であるエンゲルラントの動向は知らなくても、ライバル国の事情にはかなり詳しいようだ。
連邦議会から承認を受けた
「先ほど、ブルークゼーレ王が
ブルークゼーレ王国が我が国に持ち込んだ霊宝は
ですから、これは
我が国を侵略しようと、これらを持ち込んで国内で使用したならともかく、他国で厳重に保管されている霊宝を奪い取るなんて不可能ですわ」
アンゲーリカ王女の疑問にカタリーナが笑顔でそう答えると、場はしんと静まる。
誰もが懸命に計算を巡らせているのだろう。
ブルークゼーレの王と王妃もまた、無言だった。
読み違えたことを理解したのだろう。
憎々しげにカタリーナたちを
しかし、今更「実は、
連邦内の国家に対する侵略は、王子の殺害とは訳が違う。
連邦議会の承認も無くそれをしたなら、連邦内の全ての国から苛烈な制裁を受けることになる。
フロリアン王子は未承認で侵略を試みているが、国内貴族のクーデターによる国家滅亡という偽装も、彼は同時に準備していた。
真実を覆い隠す策があったからこそ、それを試みる勇気を持てたのだ。
「……先ほど霊宝が突然現れたが、それも何かの霊宝の力なのか?」
「承認を申請するのは、この二つだけですの。
他の霊宝については、黙秘させて頂きますわ」
二等国の王の質問に、カタリーナはにっこりと笑って答える。
カタリーナの近くに突然霊宝が現れたのは、アシスタントのオンブルの能力だ。
彼女は今、カタリーナの影に潜んでいる。
「それでは、霊宝の効果について検証してみたいと思う。
まずは、
議長のフェルナン三世が言う。
カタリーナから霊宝それぞれの説明を聞いた彼は、その検証のための準備を整えていた。
彼の合図により、騎士たちが会議室に入ってくる。
(
王宮の警備に当たる騎士たちが、
オーストレーム帝国では、霊宝を上級、中級、下級に分けている。
下級の霊宝は、騎士や貴族たちにも貸し与えられる。
霊宝とは、王権の象徴であり、極めて貴重なものだ。
ほとんどの国では、王族以外の者が触れるのを許していない。
それなのに、オーストレーム帝国では騎士にまで貸し与えている。
この国は一体、どれほどの霊宝を持っているのだろうか?
とんでもない国力に、カタリーナは
「確かに、私の霊宝には使用制限が掛かります」
「私の霊宝も同じです」
騎士たちは、霊宝に付いている黒い板を会議出席者たちに見せる。
そこには、古代語で「使用制限中」と表示されていた。
「特別な霊宝でなければ、いくつ持っていても無意味……ということか……。
厄介な霊宝だな……」
「……そうですわね」
フェルナン三世は、難しい顔で
アンゲーリカ王女も、不愉快げな顔でそれに同意する。
連邦議会の出席者たちは、会議室とは別の部屋に来ている。
その部屋で、各国の王族は部屋の扉付近に固まり、王たちを囲むように騎士たちが陣を組んでいる。
「さて。次は、
エンゲルラント王よ。
実際に
召喚する悪魔の数は、この場の騎士たちの三分の一以下で頼むぞ?」
この部屋には、各国の元首が集まっている。
安全上の問題のため、フェルナン三世は、召喚する悪魔の数を制限する。
召喚数の制限だけではない。
念のためなのだろうが、彼の手には今、
「承知しました」
フィーリップはそう答えて、目線でカタリーナに合図を送る。
「ヘイ。サリー。
受刑者五名、この場にて召喚をお願いしますわ。
召喚パターンは一でお願いします」
「承知しました。
パターン一で、受刑者五人をこの場に召喚します。
危険ですから、その場を動かないようにお願いします」
フィーリップからの合図を受けて、カタリーナは手に持つ黒い板に古代語で話し掛ける。
黒い板が古代語でそれに応じると、室内に置かれた黒い大釜の足元から漆黒の影が床に広がる。
その影の中から、
今、収容されているのは、エンゲルラントの死刑囚たちと道中襲ってきた刺客たちだ。
特に、ツヴィンガーが送ってきた刺客は五百人にもなり、おかげでアンデッドの数も急増している。
「赤く光る目!
間違いない!
不死身の悪魔だ!」
「そうですわね。
あれは間違いなく、
連邦内の国には、かつてブルークゼーレ王国と戦った国もあるし、戦の様子を探るために密偵を送った国もある。
悪魔について彼らは文献に残しおり、その特徴も知っていた。
「ブルークゼーレ王国の要求は、フロリアン殿下のご遺体と
使節団については、帰国次第お帰ししますわ。
残りの二つについては、この場でお返ししますわね?」
「……どういう意味だ?」
「すぐにお分かりになりますわ。
ヘイ。サリー。
囚人番号一番の召喚を、パターン一でお願いします」
カタリーナが手に持つ黒い板に古代語で呼び掛けると、黒い板は古代語で了承の返答をする。
そして、床の黒い影から新たなアンデッドが現れる。
「フ、フロリアン!!?」
「ああっ!!! なんてことをっ!!!」
ブルークゼーレの王と王妃が叫ぶ。
新たに現れたアンデッドは、フロリアン王子だった。
一ヶ月以上も収容していたため、フロリアン王子の胸に空いた穴は既に
しかし、衣服は当時のものであり、胸と背中には大きな穴が空いていた。
カタリーナは、フロリアン王子をアンデッドにした。
霊宝の詳しい使い方や、
虚ろな目を赤く光らせ、無表情に立ち尽くすアンデッドに、王と王妃は
両親に抱き付かれても、王子はぴくりとも反応しない。
命令がなければ動けないフロリアン王子は、人の形をした置き物のようだった。
そんな王子にしがみ付きながら、王と王妃は号泣し、何度も王子の名を叫ぶ。
激しい感情を見せる二人を、カタリーナは醒めた目で眺めていた。
可哀想だとは思わなかった。
この二人は、全く同じことをマルガレーテにしようとしていたのだ。
自分たちの
しかも彼らは、マルガレーテを解放するつもりは一切無かった。
もし狙われたのが自分だったら、ここまで怒りは湧かなかっただろう。
可愛い娘を残酷な目に遭わせようとしていたからこそ、同情の余地もないほど嫌悪感が湧くのだ。
カタリーナは、そう思った。
「そちらの悪魔は、お持ち帰り頂いて構いませんわ。
併せて、お返ししますわね?」
にっこりと
「お、おのれええええ!!
赦さんっ!!!
赦さんぞおおおおおおおおお!!!」
「殺してやるっ!!!
ここで!!! 今すぐ!!! 殺してやるわっ!!!」
カタリーナの笑顔が、よほど腹立たしかったのだろう。
王と王妃は、逆上してカタリーナに
オーストレームの護衛騎士たちは、鬼気迫る形相の二人を慌てて制止する。
「もしや……悪魔とは、死者なのか?
不死身なのは、既に死んでいるから、これ以上死にようがないということなのか?」
「死者が材料……戦火が広がるほどに数が膨れ上がるということか……。
恐ろしい……」
ブルークゼーレと権力争いをする一等国は知っていたようだが、二等国や三等国の代表者には知らない者も多くいた。
知らなかった彼らは、この霊宝の邪悪さを理解して顔を
「皆様。これで霊宝の証明になりましたでしょうか?」
全員が着席してから、カタリーナは各国の王たちに問い掛ける。
ちなみに、ブルークゼーレで戻って来たのは王のみだ。
王妃は、フロリアン王子のアンデッドと共にどこかへと消えている。
カタリーナの問い掛けに応じ、フェルナン三世は決を採る。
無事可決され、二つの霊宝は連邦議会の承認を得られた。
「それでは、本題の方に戻りたいと思う。
ブルークゼーレ王よ。
エンゲルラント王国との交戦の意思は変わらないか?」
フェルナン三世がブルークゼーレ王に尋ねる。
「もちろんですともっ!!
エンゲルラントは、必ずや滅ぼします!!」
カタリーナたちを射殺さんばかりに
(上手くいったわね)
カタリーナは、内心でほくそ笑む。
ブルークゼーレが戦争を決断したのは、
現在、
そう考えていたからこそ、霊宝回収後に戦争をするつもりだったのだ。
しかし、
武力の象徴とも言える霊宝が回収できないと分かったなら、ブルークゼーレは戦争を回避する可能性が高い。
だからカタリーナは、フロリアン王子の遺体をあんな方法で返し、その後に
決議の直前にそんなことをしたのは、そのタイミングでブルークゼーレ王を激怒させるためだ。
カタリーナがそれを担当したのは、フロリアン王子を殺した張本人であり、怒らせるのに適任だったからだ。
幼少期より、敬われ気遣われてばかりだった大国の王族は、
少し刺激するだけで、簡単に感情のバランスを崩してしまう。
そうやって怒らせれば、戦争への誘導も容易となる。
フロリアン王子をアンデッドの状態で返したのも、その策の一環だ。
これはアンデッドになったフロリアン王子から聞き出したことだが、ブルークゼーレの王族は、ただ
死霊魔法の知識があるカタリーナとは違い、死者がどうやってこの世に留まっているのかを、その原理を、彼らは知らない。
だから、アンデッドにして王子を返した。
まるで生きているかのように動くフロリアン王子を見れば、きっと希望を抱いてしまうだろう。
王子をアンデッドから生きた人間に戻す方法が、何かあるのではないかと。
理論上、死者を蘇らせるのは不可能だというのに。
アンデッドは食事を必要としないが、定期的に死気を補充する必要はある。
死気を補充しないと、遠からずアンデッドはただの死体になり、腐ってしまう。
死気の補充には、
だから彼らは、何としてでも
多少不利な形勢であっても、
アンデッドのままフロリアン王子を返したのは、そう読んだからであり、つまりブルークゼーレに戦争を決断させるためだ。
これらの策略もまた、フィーリップの発案だった。
ブルークゼーレ王国を、このままにはしておけない。
それが、カタリーナたちの結論だった。
フロリアン王子殺害でエンゲルラントに深い恨みを持っているし、マルガレーテの持つ霊宝についても知っている。
ここで戦争をしなかった場合、貿易や外交など、武力以外の様々な方法で攻撃されることになるだろう。
この国に圧力を掛け、国を疲弊させ、マルガレーテの霊宝を差し出さざるを得ない状況へと追い込むに違いない。
大国にそんなことをされたら、小国には為す術が無い。
何としてもここで戦争をして、ブルークゼーレを滅ぼすか、最低でも国力を大きく削らなくてはならない。
フィーリップとカタリーナは、話し合いの末、その結論に至った。
「エンゲルラント王は、どう考える?」
「戦争に応じたいと考えています。
開戦は、一ヶ月後でいかがしょうか?」
フェルナン三世の質問に、フィーリップは淡々と答える。
顔を真っ赤にして答えたブルークゼーレ王とは、対照的だった。
「他の国はどうだ?
この戦争に参加したい者はいるか?」
フェルナン三世が問い掛けるが、手を挙げる者はいなかった。
ブルークゼーレの武力の象徴とも言える、不死身の悪魔の軍勢を従えているのだ。
その上、呪術が使い放題になるという未知の霊宝まであり、それは悪魔の軍勢を
小国と大国との戦いとは言え、霊宝の存在のために勝敗は不透明だ。
この状況で、
これもまた、フィーリップの思惑通りだ。
ここで霊宝の承認申請をして、開戦前に
オンブルを連れて来たのもそうだ。
もちろん、彼女を同行させたのは、霊宝を安全に運搬するためだ。
しかし、議会の場で彼女の能力を見せたのは、申請したもの以外にも霊宝を持っていることを示唆し、出席者の警戒心を
結局、ブルークゼーレとエンゲルラントの戦争が連邦議会で承認された。
開戦は一ヶ月後で、他の国は参戦しないことになった。
終わってみれば、連邦議会の進行は、フィーリップの描いたシナリオ通りだった。
小国の王でありながら議会の盤面を見事に操ったフィーリップを、カタリーナは改めて尊敬してしまった。
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