幻聴?

家に帰り澪は寝転がる


「どうするか……」


ダンジョン内で話していたことを思い出す

このままではいずれ負けて死ぬ

強くなるにも今以上に強くなれるビジョンがない

今までは気にしていなかったがいざ強くなろうと考えた時に自らの限界を感じている


「覇王……あの頂きに届くのか……」


バルフェリアとの戦い、確かに勝ちはした

だが知性があるのならあの魔物には恐らくプライドがあったのだろう

自分の方が有利、だがそれで勝っても意味が無いとプライドが邪魔をした

あえて澪の戦いに乗り同じ土俵で勝つ事で真の勝利を得ようと

その結果敗北しても満足していた

魔物でありながら死に様はまるで戦士のようだった

そして戦い終えたあとは異能の先を見れて強くなれると感じたがその先は道が見えない遥か彼方であった


「仲間が増えても私が弱ければ死ぬ……」


恋歌が生きていたのはあの魔物の温情だ

本当なら死んでいた、それどころか全滅していたのだから

もし澪が覇王バルフェリアと同等の力を持ちあの魔物と戦えるだけの力があれば恋歌が氷漬けにされる事はなかった


「バルフェリア、あんたはなぜ至れた」


その問いに答える者は居ない……筈だった


「さぁな、明確な何かが有った訳では無い」

「!?」


男性の声が聞こえる

周りを見渡すがどこにも声の主はいない

(幻聴か?)


「幻聴では無い。どうせ彼奴の仕業だろう」

「誰?」

「我が名はバルフェリア、覇王に至った者だ」

「……このレベルの幻聴かぁ」

「幻聴だと思っても構わないがそれはお前がただの異常者として見られるだけだぞ」

「それは嫌だなぁ……やっぱ疲れてるのかなぁ」

「疲れてはいるだろうな、あの戦いだいぶ苦戦していたようだからな」

「まぁねぇ」


適当に返答する

澪は返答しないとそれはそれで面倒なことになりそうな予感がした


「使い魔にあの調子では彼奴には到底勝てないだろうな」

「偉そうにしてるけどお前私に負けてるんだけど?」

「あぁ負けたな。だからこそ貴様が不甲斐ない真似をしているのが腹立たしい」

「不甲斐ないかぁ、まぁ確かにねぇ」

「なぜシズクとやらから剣を借りて戦わなかった。攻撃をなぜ任せた。貴様が握ればもっと早く恋歌とやらが氷漬けにされる前に倒せたであろう。己の力量を信じ切れなかったそれが貴様の落ち度だ」

「それは確かに」


炎の剣を持っていたことを知っていた

氷に炎は相性がいい、その判断はしたが剣による攻撃はシズクに任せサポートに回った

あそこでシズクから剣を受け取り炎を纏って攻撃していれば氷漬けにされる前に倒せた可能性はある


「もしくは追撃が温かった事だな。杖による反撃を恐れたな」

「そうだな……」


追撃が遅れたのはある

炎による攻撃が直撃すれば澪は死にかねない


「まぁ良い、1つ貴様に取って良い事を教えよう」

「それは一体?」


とりあえず聞き返す

会話をしていたが幻聴ならだいぶ酷い

精神病院にでも明日行こうか考えているととんでもない事を言い始める


「貴様と我が戦ったのは偶然だが同じ異能を持つ者が居るのは偶然ではないぞ」

「どういう事?」

「魔物と人間、両方にそれぞれ同じ異能を持つ者が現れる。そして同じ異能者が相見える時異能の真髄を見る事が出来る」


幻聴にしては澪の知らない予想もしていない情報を話す

ダンジョンと異能の関係性は何度も議論されているレベルの話

まさかそんな重要な話が聞けるとは思いもしていなかったので思わず聞き逃しかけていた


「真髄……それはお前が至った覇王か?」

「そうだ最もあくまで真髄の一つに過ぎないがな。貴様の仲間の異能もあるぞ。ちなみにアルセスの異能は異能及び武器や魔導具の能力の無効化だ。それ以外にも何かしらを持っている」

「アルセス……あの魔物か、異能と能力の無効化か、それは厄介だな」


アルセス、今日遭遇した魔物の名前だろう

異能を無効化出来るとなればシズクのバフやシールド、恋歌の身体強化を無力化される

そうなれば戦力が大幅にダウンする


「対抗する術はある、我らのような一瞬だけ発動する異能は無効化出来ない上に異能以外には通じない」

「成程、話を戻すが明確な何かがあった訳では無いとはどういうことだ?」

「あの時弱点を突かれ異能が使えないまま貴様に追い詰められ我は真髄に触れた。ただそれだけだ」


同じ異能者同士ならなりうる状況

同じ異能を持っているなら同じ弱点を持つということ、間違いなく気付けばその弱点を突く


「何かを思ったとか?」

「……さぁ忘れてしまったな」


突然すっとぼける

(なっ……)

強くなれるかもしれないチャンスを逃したくは無い


「ここですっとぼけるなら何かを思ったんだな。何を思った」

「今教えたところで至れはせん」

「そうは限らないだろ!」

「自力で頑張れ例えなったとして今の貴様では扱えぬ」

「なっ……なぜ言い切れる」

「至った者の勘だ」

「なんだそれは」

「だが戦い続ければいずれ至る機会はある筈だ。その資格は持っているのだから」

「その資格ってのはなんなんだ」


返答は無い

今起きた出来事、そしてバルフェリアの最後の発言

幾つか気になる点はあるがもうバルフェリアは答えない

モヤモヤするが疲れも相まって眠りにつく

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